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“賢者”の時間!  ―ケンジャ・タイム―  作者: 金厳実直
小年時代 パンツを見たこと、それが僕の誇り
4/14

第四話

「……ンツパンツパンツパンツ…………ハッ!?」




 ぼやけていた視界がだんだんとクリアになり目の焦点があってくる。

どうやら無事、復活を終えたらしい。

目の前にはパレードが過ぎ去ったあとの、紙ふぶきが散らばる大通りが広がっている。




「戻ってこれたのか……



よし!



よしよし!!



 さてさて、姫様はどこにおられるのやら

とりあえずパレードが進んでいった方へ向かってみるか?

いや、そんな七面倒なことせずとも魔術でどうにかならないか……むっ?」




 大通りの僕とは反対側には、大勢押しかけていた人々が満足そうな顔で感想を語り合いながら三々五々散らばっていくのが見える。

しかし僕の周りといったらまるで変態でも見たかのようにシーンと静まり返っている。

これはいったいどうしたことかと思っていると、隣にいた背の高く若い男性が、まるで檻の向こうの猛獣か何かに手を伸ばすように僕の肩へ手をかけ語りかけてきた。




「おい、坊や?

なんというか……その大丈夫か?

いや、大丈夫ですか?」




 なぜそんなにおびえたような声で、手は震えているのかは知らないが、どうやら僕のことが心配で善意で声をかけたらしい。

確かに、振り返ってみればさっきまで僕はこの場所でいきなり白目をむいて死んでいたのだ。



 僕の目の前を王弟一家が過ぎたときに絶命したとして、すでにパレードは終わっているのだから結構な時間あの世にいたらしい。



 若いアンチャンだけでなく、他の周囲の人々も皆恐れるような、憐れむような態度をとっているのも納得というものか。




「いえ、ご心配には及びません。

パレードの華やかさにあてられて少々意識を飛ばしてしまっていたみたいです。

心配してくれてありがとうございます。



 ふふ……けれどもそのおかげで僕は、こんなにも素晴らしい力を手に入れることができた……!」



「そ、そうか……

それはよかった……

しかし坊やがいきなり細かく震えながらパンツパンツと呟きだしたときには本当に肝が冷えたよ。

なんでもないならよかった。

気を付けて帰るんだよ。」




 ふふん、見ず知らずの子供を心配するとは中々の好青年ではないか。

僕がこの力で世界を支配した暁には――そうだな、神聖タオ様王国の近衛兵に抜擢してやってもよいだろう。

いや、しかし僕の周りには綺麗な女性しか侍らせたくないな……

女性だけの近衛軍とか金玉空になりそうだな。



 などと妄想を膨らませていると、周りの人々も安堵したのだろう。

ぞろぞろと引き上げていく。



 さて、気分を変えて、いよいよ姫様にプロポーズしにいこう!

なにせ10歳ほどの子ども同士の結婚、しかも庶民と王族とだ。



 立ちはだかる壁は多いだろうが、どれも些末な問題よ。

なにせ死の淵から自力で蘇るような魔力を持っているんだ。

邪魔する者は死あるのみ――!



 歩いて登場というのもなんだな……インパクトに欠けるな。

一先ず空でも飛んでみるか、と考えて魔力を展開しようとしたところではたと気づいた。



 なん――だと――!?

魔力が……感じられない?



バカな!



バカなバカなバカな!!



神をも唸らせるほどの魔力を、僕は自在に操れていたはずなのに……!



 いや、落ち着けKOOLになるんだタオ・ロードミラーよ。

あの膨大な魔力は僕の姫様に対するリビドーが元となっていたことを忘れるな。

つまり、エロいことを考えなければ魔力も使えない、ということだ。 



 しかしそうと分かれば話は早い。

僕は姫様のあのマジェスティパンツを思い浮かべるだけでご飯何杯でも食べられるほどの紳士だ。

エロいことを考えるだけでいいなら赤子の手を折るより容易い。



 では早速……



 と、勢いよく姫様パンツを想起したのだが・・・

そこでさらなる驚愕が僕を襲った。






――ムラムラしない――






 いやいや待て待て待て、そんなことはありえない。

先刻は死ぬほど興奮したではないか!?

恋する僕は切なくて姫様を思うとすぐに勃起しちゃうの――だったではないか!?

あまりの美しさ故にパンツが性欲の対象から高尚な芸術に昇華されたとでもいうのだろうか?


 

 そんなはずはと何度も何度も繰り返しパンツの記憶を呼び起こすのだが、僕の愚息はピクリとも反応を見せないうえ、ぜんっぜんエロい気持ちにならない。



 どれくらいの時間がたったのだろう?

さっきまでの自信はどこへいったのか。

エロくなれない……魔力も使えない……



 これではただのどこにでもいる平民……



 そんな僕が姫様をものにすることなどどうあっても不可能だ。

全身の力を失い、立っていられなくなり地面に手をついてオイオイと咽び泣きだしてしまった。



 なんということだ……


 なんということだ!



 僕の中の姫様に向かう熱い思いはちぃっとも失われてなどいない。

それどころか一分一秒まえよりも着実に大きくなっているような気さえする。

――だというのにその愛情が股間に直結しない。

まるで上半身と下半身の間に絶縁体でもはさまれたようだ。

姫様への愛は胸をあつくするのに下半身は凍ったかのように微動だにしない。



 ちくしょう……悔しい……苦しい……!



 なんで……どうして……!!



 こんな苦しい思いをするのなら、最初から草花にでもうまれたかった――!



 僕はとうとう、「ううぅ……おっぱい……おしり……」と未練がましく卑猥なワードを呟きながら石造りの地面に全身を投げ出した。

行きかう人々がぎょっとしたような反応をみせるが、しったことか。

姫様とエッチなことができないのなら、さっさと転生したほうがマシだったのかもしれない。



 しばらくその場で抜け殻のようになっていたが、誰が呼んだのやら、この街の衛兵だろうか?が駆けつけて僕を起き上がらせる。

どこか痛いのか、病気か、などと質問されるが、僕は「大丈夫です……放っておいてください……ニーソ……ガーター……」と漏らすとフラフラと幽鬼のように宿へと歩き出した。

初めて訪れた大きな街であるにもかかわらず、気がつくと僕は宿の部屋へと無事たどり着いていた。








「ちょっとタオ!

あんたこんな暗くなるまで一体どこへいってたの~!?

勝手にフラフラと迷子になって~

心配したのよ!?」



「まぁまぁ母さん落ち着いて

この子は賢いから一人でも宿に戻ってくるはずだって僕が言った通りだろう?」




 僕を見つけた母と父がなにやら言っているが、するりとその横を抜けると「ごめん……心配かけて……」と呟き、そのまま二つ置いてあるうちの片方のベッドに腰掛けた。




「お兄ちゃん、どうしたの?

なんだか元気がないね……

大丈夫……?」




 と、2歳下の妹が心配そうに隣に腰掛けてきたが、それに答える気力があろうはずもなく。

僕は布団にくるまると、呆然自失のままやがて眠りについた。






 ―――その晩、夢をみた。






 華やかな舞踏会。

僕の手を握るのはあの天使のような姫様。

貴族や王様も、くるくると回る僕たちを微笑ましそうに見ている。



 やがて楽曲が踊りつかれた僕たちは部屋へと引き返すと、もう我慢できないとばかりに姫様が胸の中に飛び込んでくる――



 そのままベッドに押し倒す。

姫様はそれはもう美しい笑みを浮かべたかと思うと、その足を思いきりよく僕の股間へと――!






「うわあああああああぁぁぁぁぁ!?」



「なっなんだなんだ!?」



「どうしたのタオ!?」



「ん~~もう~~、お兄ちゃんうるさい~……」




 ベッドから慌てて身を起こす。

夜が明けたのか……

窓からは燦々とした陽が差しこんでいたが、それとは対照的に僕は身体中にイヤな汗をかいていた。



 両親はすでに起きてくつろいでいたのか、心配そうな顔でこちらを窺うが、悪夢を見た、というと納得したのだろう――椅子にこしかけ談笑を始めた。

妹は隣で迷惑そうに唸ったが、またすやすやと眠りに落ちた。



 寝なおす気になど到底ならず、共同の水場に行き顔を洗うと少し頭の靄がすっきりとした。

昨日は、あの世で見せた溢れ出る力による大きな期待と、魔力のまの字も感知できなかった現実との落差に無様に凹んでいたが、改めて冷静に考えてみると、ひょっとするとあれも夢ではなかったのだろうかという気もしてくる。



 つまり天使の美に心奪われた僕はそのまま気を失い、そのまま自分が一度死んでしまった、などという荒唐無稽な白昼夢をみていたのかもしれない。

あんなロングスカートからパンツが見えるなんて実際夢のような話だしな。






 いや、待てよ……

あれは決して夢なんかじゃないぞ。





 なぜなら、僕には現在進行形で日本仕込みの変態じみた知識がある。

たとえば――そう――スク水。

この世界にスク水なんてポリエステル生地で作られた神器は絶対に存在しないはずだ!

くそ……ってことは姫様にスク水を着せることもできないのか!?

因みに僕は旧スク派だ。 なんといってもあの水抜き穴が……



 いやそういう話じゃなく――つまりなにが言いたいかというと、僕はたしかにありえない筈の知識をもっているから、あれは夢ではなかったということだ。



 近くにあったベンチに腰掛けてしばし黙考する。

あの世に行くまでの僕は、少なくともちょっと賢い10歳程度の知識や分別しかなかったはずだ。

しかし今の僕は確かに、20歳ほどの脳レベルとオーバーテクノロジーな知識をもっている。



 やはり、昨日体験したことは夢などではなく、現実!

そうなると僕が神の御業である蘇生魔法を使えるほどの魔力を性欲で引き出した、というのも実際に起こったことなのだ。

ならばなぜ復活してからはムラムラできないのか――とまで考えてハッと気づいた。




「これが神の……封印かっ……!!」




 くそっ、やられた!

そういえばあの時、何人(何柱?)かがブツブツと怪しい文言を唱えていた!

なにを無駄なことをと侮っていたが、さすがは神――僕の力の源が性欲にあるといち早く察知し、それを封じてしまったのか!



 僕はベンチに腰掛けたまま、深くうなだれた。




「ぐうぅ……ううぅ……ちくしょう……

ちくしょう……よくも……よくもやってくれたなぁあ……!

絶対に許さない……絶対にだ!!」




 


  

因みにパレードが行われた現在地、南の大都市はタハカという街です。

主人公はこの後、学生時代をここタハカにある学園ですごします。


某修羅の国とは無関係です、ハイ

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