第三話
身体を大きく反らせ虚空へ向けて咆哮する。
そう、これこそ僕の心に咲いた一輪の夢。
姫様と獣のようにxxx!!
僕を殺した(否、勝手に死んだ)名も知らぬお姫様とその罪深き純白の布は、幼さゆえいまだ眠っていた僕の煩悩を一瞬で、完全に開花させたのだ。
それも、僕ってこんなにスケベだったんだ! と自分で驚愕するレベルの大河のごとき煩悩である。
10歳児でこれだから末恐ろしや。
ただの10歳児ではその煩悩大河に呑まれるだけであったろう危ない危ない。
しかし僕は先ほどカミサマから日本の知識を写されたばかりだ。
知識元の日本とかいう超S級変態しかいない国に住むもう一人の僕は20歳前後。
すなわち、この大河の瀑布を自在に乗りこなすだけのそれはもうセクシャルな知識を大量にもっていたのである。
感謝するぜぇぇ~もう一人のボクぅ~!
さっき聞いたパンティという言葉だけで夢が広がりんぐすぎてヤバいんだ。
パンティ単品だけでもどんなことができるのかをもう一人の僕が教えてくれたから――!
「……あ、そうなんだ~。
早熟だね~
でも納得だ~
なにせあの子のパンツを見て死んじゃうくらい興奮しちゃったんだもんね?
じゃあそうだ!
僕がキミにその夢の疑似体験をさせてあげるよ~
それで納得したらちゃっちゃと転生するんじゃ、」
「おい、さらっと流すな
だいたい僕はカミサマが見せる偽りの夢なんぞにほんのこれっぽちの興味もない!
こちとら淫夢なら毎日でもみとるんだっ!
群衆に紛れて白目剥いて死んでいる僕は今はただの一般ピープルだが、今に見ていろ――
遅くとも20年……そうだな20年以内には確実に!
どんな汚い手を使ってでも、どんな苦汁を啜ってでも20年以内に必ずあの天使と僕は結婚する!!
あの純白の輝きを我が掌中に……それが僕の夢だ!」
あぁ、やばい、あの時の光景を、感動を思い起こすとなんだか尋常じゃないくらい興奮してきた。
性欲と知識が合わさり最強に見える。
なにせ見ただけで即死ぬくらいの筆舌に尽くしがたいロイヤルビューティフルパンツだ。
見たものを石にするゴーゴンの目と同じかそれ以上――神話レベルの力を秘めたパンツである。
脳があの時の僕の心の内をどうにか言葉にしようとするもそれは日本の知識をフルにつかっても到底表現できるものではない。
あぁ、この胸の高鳴りを余すところなくお伝えできれば、姫様も二つ返事で僕の求婚を受け入れてくれるのではないだろうか?
そしてそのまま獣のようにベッドに――!
ヒートアップした感情に身体が追い付かず、小刻みにカタカタと震え始める。
「いや、でも最初に言ったけど、キミはもう死んじゃったんだよ?」
神とはなぜこうも無粋なのか。
僕の身体は!
脳は!!
魂は!!!
今にも爆発しそうなほど熱くなっているのに……!
たかが一回や二回死んだくらいでなんだというのだ。
日本のカミサマだって奥さん生き返らそうとしてたろ。
ぐへへ、姫様に僕の子を一万人ほど産んで欲しいものだ。
「我が心、我が魂、死など恐るるに能わず!!!
いいか、僕はあの子のパンツをこの目で見たんだ!
そのスポンジのようにすっかすかな頭でよぉく考えろよ?
あの世界の何人があの天使のパンツを目にすることができる!?
しかも僕は男ときたもんだ!
あの天使は国王の弟の娘……すなわち国王の姪だ!
そんな高貴な彼女のお、お、オパンティィィィィィッヒィィを見られる男があの世界に何人いるというのか!?
僕は思うね……それは二人だ
いいか!?
いいか――この世にたった二人だけの選ばれし存在!
すなわち父親と旦那だ!!
つまり、あの子のパンツを目に焼き付けたこの僕が!
あの子の旦那となるべき存在なのは確定的に明らかなんだよぉぉぉ!!
それを貴様は……きっさっまっは~~~!
幻で謀ろうなどしおって言語道断!ごんっっごどうだんんんん!!
くっそ~、考えたらほんとむかついてきた!
納得できるわけねぇだろうが!
いいか!?
僕は絶対にあきらめない!
転生などしてたまるか!
あの天使のいない世界など、名札のないスク水!
チ◯コのついてない男の娘なんだよ!!
必ず、必ず生き返ってやるぞ……!
そしてあの天使の夫となり、朝までxxxはもちろん口では言えないあんなことやこんなこと、◯◯◯や△△△なことをしてうおおおおおおおおマイエンジェーーーーーーーーっ!!!」
そう叫ぶと、これが覚醒というやつなのかなんなのかは全く持ってわからんが、僕の脳は限界のさらに限界を超えてその鼓動を刻み始めた。
ジャパンの変態が僕に力を貸してくれている―――!
あの、未だ名前も知らぬ天使への性欲、いや、愛情が力に変わり、すでに活動をやめた筈の現世の脳を僅かに揺り動かす!
姫を求める叫びは、僕のどこにこんなに隠れていたんだというほどの魔力を次から次へと引きずり出す!
人間は極々少量ながら誰もが魔力をもっている、と考えられていた現世だが、魔術を使えるほどという人間は稀、尊重されて当然という世界でもあった。
――しかしこれはどうしたことか。
あふれ出す魔力はとどまることを知らずまるで無限の湯水のようにあとからあとから湧き出てくる。
これなら……蘇生魔法だろうと余裕でいけんじゃね?
いける!!
希望は確信へと変わり、無限の魔力が不可能を可能にする!
魔力を、現世でアヘ顔さらしている僕自身の壊れた脳へと向けて放つ!
「な、な、なにをしているんだ!?
キミは死んでいるんだ!
やめなさいっ!
ちょっ、ほんとやめて~!
こ、これはもう僕のどうこうできるのレベルじゃあないよ!
下級神の持つ力を超えている!?
というかこの5歳児超怖い!
目が血走ってる!!
ひ、ひぇぇ~、ちゅ、中級神サマ~!!」
ふははははは!
この抑えきれぬ愛を、性欲を、ムラムラを!
カミサマごときが止められるとでもほんのちょぉっとでも思ったのかよ!?
甘い甘い甘い甘い!
あの娘にインサートするまでは、たとえ地獄の底からだろうと僕は這いあがってみせるぞ!
おそらくだが僕の性欲が魔力を引き出しているのだろう。
そうとわかれば――いくぞ今必殺の一秒間に10回……
「パンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツ…………」
「うわああああ!中級神さま早く来て~~!
あいつなんかやばいことになってますよ~!?
なんとかしないと絶対まずいですよぉ~~!?」
「むぉっ、なんじゃこの魔力は……これが人間の持つ魔力じゃと!?
こんな……これではまるで性欲の権化ではないか……
い、いかん!
ほかの中級神も呼べぃ!
封印をかけるぞぃ!!」
なにやら外野が増えてごちゃごちゃと騒がしい。
だがもうなにもかも遅い!
この魔力量なら復活して大魔神にだってなれるだろう!
世界を支配すればイコールあの娘も僕のものだグへへへ。
僕の全身からあふれ出すラブパワーこと魔力は真っ白で何もなかった空間を黒く黒く染めていく。
象でも吹き飛ばしそうな猛烈な嵐が僕を中心として逆巻いて、その魔力の質もまた只事ではないと無言のうちに訴えている。
「中級神さまぁ~!
あいつずっとよだれ垂らしながらパンツパンツ呟いてますよぉ~!?
きっと実は邪神かなにかだったんですよ~!
ひぇぇ~~!」
「えぇい、下級神は黙っておれぃ!
これは後で上級神さまへの、いや超級神さままでの報告も必要じゃろうて……
とにかく今はこいつの魔力を抑える封印をっ……」
はっ!?
時はきた……
閉じた瞼にはパレードが終わった大通りが映っている。
現世とあの世の僕がリンクしている証拠だ。
原理は全くわからんが、神もわからんだろう。
これが愛の力か――!
このままっ、自分自身に蘇生魔法をかけるっ!
僕はいまだ姿の見えないカミサマたちへむけて不敵に笑うと、自らの魔力に包まれてゆっくりと現世への蘇りを始める。
意識がだんだんと暗くなっていく――
最後に中級神とやらの叫び声が微かに聞こえた気がしたが、もうそんなことはどうでもいい。
さぁ、現世に戻ったらすぐに姫に会いに行こう。
今の僕ならなんでもできるのだから――!
非常に恥ずかしながら、ファンタジー世界とはいっても大陸の地形や都市を一から練り上げる技量を私は持っていないので、舞台は四国以外が海で分断されていない日本とでもおもってください……
へ、平行世界だからっ!!