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4話「おかわりはいかがですか」

 前触れのない雨。

予報を欺いて降りてきた水滴達が道行く人々にちょっかいを掛けて回っている頃。

未来はいつもよりちょっと早い時間に『イマノコーヒー』に来ていた。




 ずぶ濡れの彼女を見て忠雪はぎょっとしてしまった。

それと同時に、手渡したタオルを髪に押し当てる未来にまたもや目を奪われていた。

この雨の中を傘を忘れて走ってきたのだろう。

カバンも靴下もびしょぬれで、胸を押さえながら荒くなった息を整えている。


 都会で暮らしていた十年間の中で一度だけ、プライベートのアイドルとすれ違ったことがある。

プロとして活躍する人物というのは容姿はもちろんのこと、凛とした佇まいと強い意志を秘めた顔つき。

そして何より人を振り向かせるオーラを纏っている存在なのだと素人なりに感じた。

吉田未来はあの時のアイドルと同じオーラを持っている。


 そんな考えは、白いカッターシャツから透けて見える黒のラインによってどこかに吹き飛ばされてしまったが…。

品を欠く妄想をしてしまった自分を戒めるように自らの頬をつねりながら、忠雪はチャンスとばかりにある提案を切り出す。


「俺のシャツでよかったら着替えていきなよ」

「いいの?」

「もっちろんだよ。男物だからちょっとでかいけど…」

「あ、ありがとうございます」


 忠雪のこの発言に下心は微塵も無い。

…などとかっこいいことを言うと嘘になるのかもしれないが、少なくとも好きになってしまった少女をいつまでも濡れネズミにしておきたくはないという親切心の方が上回ったことだけは間違いない。


 やや遠慮気味に。

しかし肌にまとわりつくシャツを早く脱ぎ去りたい気持ちと、差し出されたせっかくの好意を無下に扱うわけにもいかない気持ちとで未来は首を縦に振った。

新たなタオルと着替えのシャツを抱えて走ってきた忠雪に水分を含んだタオルを手渡し、新たなタオルを受け取りおそるおそるカウンターの奥へと入っていく。

ちょっとの戸惑いを抱きながら、後ろ手でカーテンをしめつつやや急き気味にカッターの第二ボタンに指をかける。


 そのカーテンをおもいっきりの力で開け放ちたい!

中学生の彼女と接していると、まるで自分も十四歳のころに戻ったような気持ちになるものだ。

忠雪はそんな己を再度戒めながらクンターに戻り、未来に背を向けて彼女の帰りを待つことにした。



 ぶかぶかのカッターシャツを腕まくりしながら未来は言った。

「雨、止まないね」

つられるように外を見る忠雪。

雨は一層激しさを増していく。


 いつもなら憂鬱に感じる昼立ち。

今はその雨粒一つ一つが柵となって、未来と忠雪を一つ屋根の下に繋いでいる。


「ねぇ、学校生活はどう?」

 忠雪は意を決して尋ねてみる。


「わりと順調です」


「そっかー、それはよかった。いつも変な時間に来るからちょっと心配してたんだよ」



「別に大丈夫です。



「おかわりはいかがですか?」

「あ、いただきます」


「はじめて二杯目を頼んでくれた」

 思わず息を漏らす忠雪。

未来は腕まくりしてないほうのシャツの袖元で額を押さえながら答えた。

「だって、この雨じゃ帰れないし」




「ただいまー」


「佳子ちゃんもかよ。折り畳み傘は学校に置いとけって言ったじゃん」

「一昨日持って帰ったまま戻すの忘れちゃったの」

「風邪引くから早く着替えて」




「あ、もしかしてあの子が」



 忠雪はまだ、未来のことを何も知らない。

知らないまま想像をふくらませるのは楽しいし、これから徐々に知っていく楽しみもあるからいいと楽観視していた。




 "夏"が、すぐそこまで迫ってきていた。

加筆分が多すぎるのでちょっと更新空きます。すみません。

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