第7話 戦いの始まり
決闘当日の朝、集が通学路を歩いていると突然、後ろから声をかけられた。
「……おはよ」
「――――ッッ! ビックリした~。フォレスか、おはよう」
「……今日……決闘……楽しみ……集……頑張れ」
フォレスは小さくガッツポーズをした。
(か、可愛い! たまんねえ! ギュっとしたい! 家で愛でたい!)
集はフォレスの可愛い仕草に一発でハートを打ち抜かれ、メロメロになっていた。
「集……どうかした? ……顔……おかしい……」
フォレスに言われて集はどこかへと飛んでいた意識を現実へと呼びもどした。
「あ、ああごめん。応援よろしくな?」
「勿論……集……勝つ?」
「当たり前だ!」
フォレスの質問に集は笑顔でそう答えた。
「……そう……ガンバ」
そう言い残しフォレスは早足で教室に向かって行った。
「僕も行くかね」
集もフォレスに付いていく感じで学校へと向かった。
集が教室に入ると全員が同情の様な視線を向けてきた。
「ん? 何だよ?」
「な、なあ今でも遅くないから謝った方がいい」
一人の生徒が集に近寄ってこう言った。
「何で?」
「だってお前、無謀にも程があるだろ。俺たち平民は
あいつらには勝てない。絶対に。お前、今日負けたら、学園の」
クラスメイトが言いかけた時、集は机を蹴とばした。
『――――ッッッ!』
突然の騒音にクラスメイトは全員、肩を大きく揺らして驚いた。
「うるさいな! お前らは貴族、貴族って言って一生あいつらに媚を売る気か!?」
『……』
集の言っていることに誰一人として反論をする者はいなかった。
いや、できなかった。全員が全員貴族の横暴に腹が立っているのだ。
しかし、貴族は皆、生まれつき大量の魔力を有している。
ただの平民が勝てるはずもない……そんなものが広まっていた。
「俺はごめんだ。お前らみたいに俺はあんな
クズな奴らどもに媚を売るのなら死んだ方がましだ」
そう言い、蹴飛ばした机を建て直している集に何人かの生徒が近づいてきた。
「ん?」
「頑張ってね! 集君!」
「応援してるから!」
先程とは違い純粋に応援しているようだった。
「俺も応援するぜ? 集」
「ゼロ」
後ろから声が掛けられ、振り向くとそこにはゼロがいた。
「お前のお陰で目が覚めたよ。頑張れ!」
「ああ、勿論だろ!」
「すっげ~。デカイな」
集がいる場所は決闘が行われる闘技場の控室だがその広さに驚いていた。
下手をすれば普通に暮らすことができるくらいの設備が用意されており、
もう部屋と言ってもいいくらいだった。
「まあな、闘技場は全生徒が入るし大会とかもここで行われるんだぜ?」
「何でお前がここにいる? ゼロ」
控室ではなぜか、ゼロも一緒にいた。
「いや~近くでお前の雄姿を見たくてさ」
すると、ドアがノックされて一人の教員らしき女性が入ってきた。
「じゃあ、そろそろ」
「わかりました」
「しっかりやれよ!」
「ああ!」
集とゼロはハイタッチをかわし、ゼロは観客席へ、集は闘技場へと向かった。
戦いの舞台となる闘技場では生徒たちの歓声がこだまし、闘技場が
揺れているのではないかと思うほどの振動が起きていた。
「あ~何で理事長も許しちゃうんですか?」
Vipルームではため息をついたフィーリと理事長が目の前に
魔法で映し出されている映像を見ていた。
「はははは! ま、私も興味があるのだよ」
「よく来たな。平民」
集がフィールドへと上がると既にワルロスが腕を組んだ状態で待っていた。
「平民じゃねえ! 如月集っていう名前があんだよ!」
「ま、どうでもいい。ハンデをやろう。なんでも言え」
ワルロスのその一言に集は沸点を一気に通り過ぎて、ブチギレた。
「逆に俺がてめえにやりてえくらいだ!」
『………ハハハハハハハ!』
一瞬の沈黙の後、一部の座席から笑い声が聞こえてきた。
その笑い声には明らか、蔑みの感情がこもっていた。
「はははははは! これは参ったな。
まさか君が俺にハンデとはな。何かの冗談かい?」
「いや。大真面目だ!」
『それでは、これよりボルテック・ワルロスと
如月集の決闘を始める。始め!』
放送から聞こえてきた試合の始まりの合図があったにも拘らずワルロスは
腕を組んだ状態のまま動かなかった。
「先攻は君にあげよう。さあ、かかってきたまえ」
「良いのか? 本当に?」
「ああ、良いとも。ま、君程度の攻撃がこの俺に届く事は」
――――――バキィィィィィ!
ボルテックは喋りきる前に思いっきり顎を殴られて、殴り飛ばされた。
『………』
先程まで大騒ぎしていた会場がボルテックが殴られたことにより一気に静かになった。
「うん。手加減したけど中々飛ぶな」
「い、痛い! 痛い!」
ボルテックは殴られた箇所を抑えながら痛みに涙していた。
「おいおい、貴族のおぼっちゃまは殴り合いのケンカは初めてかい?
そりゃ、そうか。ぬくぬくとした温室育ちだから仕方がないか」
「貴様! 何をした!?」
「別に。ただ単に殴っただけだけど」
「もう泣いて謝っても許さん!」
ボルテックは腰に携えていた剣を抜き、剣に雷を纏わせて集に切りかかって来た。
「ふあぁぁ~。予想通りね~」
ランカー専用の観戦室ではほとんどの者が最初の、集がボルテックを
殴り飛ばした時点からモニターから目を離し、各々暇つぶしをしていた。
「あ、あの~試合は見ないのですか?」
壁際で待機していた執事の様な男性が声をかけた。
「ん?ああ、見る必要はないな。もう勝つ方は決まった」
六色の髪をした少年は試合を見ずにあくびをしながら答えた。
「え? もうですか?」
六色の髪色の少年の言うことに執事は驚いたような表情を浮かべた。
「い、いえ。ですが」
「そうだよ! だってゆえと鍛錬したんだよ?」
「あ~そう言う事ですか。納得しました」
執事の男性は納得したのか自分の持ち場に戻った。
ランカーの中でも、周りの中でもゆえの強さは認められるほどらしく、その彼女が
鍛えたということで執事は下がったのであろう。
「でも、凄いね~」
ルーラが感心したように言った。
「当たり前だ! 何せ私と鍛錬したからな!」
ゆえは自慢げに言った。
やはり教え子が強くなっているという事実はどのような師弟関係でも
師匠は嬉しさを覚えるらしい。
「集……強い……」
「ふふふ、凄いな~」
フォレスの隣で試合を観戦していたルーラの手にあったコップが突然、
黒い何かに飲み込まれ消えた。
「ふふふ、本当にすごいな~あ~一回で良いから食べてみたいな~」
その笑顔は黒く冷たいものだった。
「おぉぉぉぉ!」
―――――ギィィィン!
ボルテックが振り下ろした剣が避けられ、地面とぶつかり辺りに金属音を響かせた。
試合が始まってから十分ほど、経っているが最初の攻撃以外、両方に傷を負わせていなかった。
「早くお前の魔法見せろよ」
「なんだと!?」
集が言ったことにボルテックは神経を逆なで
されたのか額に青筋を立てて集に怒鳴りつけた。
「貴様のような屑に高貴な俺の魔法を使うなどあり得ん!」
そう言いながら再び、集に剣を振り下ろすがその剣は集に当たることはなく
再び地面にぶつかり、金属音を響かせた。
「……はぁ。分かったよ、じゃあもうケリをつけよう」
――――ボオォォォ!
集がそう言って拳を握り締めると彼の両の拳に炎が灯った。
「貴様! 炎の魔法を使うのか!?」
「いいや、俺は炎じゃない」
そう言いながらも集は勢いよくボルテックへと駈け出した。
「くっ! 雷よ!」
ボルテックが空に向かって剣を上げたかと思うと、空から雷が落ちてきた
彼の剣に直撃し、バチバチと音を立てていた。
「へぇ、あんたは雷か」
「死ね! 平民!」
―――――――ドオオォォォォォォン!
ボルテックが雷を纏った状態の剣を振り下ろすと集めがけて雷の
斬撃が飛び、大きな爆音と爆煙を上げた。
「フハハハハハハ! どんなに粋がろうが平民は貴族には勝てん!
黙って俺達貴族の道具として生きろ! アハハハハハハ!」
―――――ブオオォォォォォォ!
「うわっ!」
突然、爆煙からすさまじい勢いの風が吹き荒れ一気に爆煙が払われ、
そこにいたのは怒りで魔力を大幅に増大させた集だった。
「貴族がなんだってんだよ……平民がなんだってんだよ!
てめえも俺もここにいるみんなもこの世界に生きている人間だろうが!」
「くそがぁ!」
ボルテックは忌々しそうに表情をゆがめて、雷の斬撃を何回も放つが
集は右に左に動いてかわし、一気に距離を詰めてきた。
「くそがぁぁぁぁぁぁ!」
―――――ドオオォォォォォォン!
今までで最も威力の高い雷が集に向かって放たれるが、集はそれを高く跳躍して
攻撃をかわし、ボルテックめがけて急降下した。
「俺はな! 誰かを見下すやつが」
「ひっ!」
「大嫌いなんだよぉぉぉぉぉ!」
――――――バキィィィィィ!
「ごぎゃっ!」
すべての魔力を注ぎ込んだ右拳がボルテックの顎を殴り飛ばした。
「ハァ……ハァ」
集の体は先ほどの雷の攻撃でところどころ、切れて血がにじんでいた。
殴り飛ばされたボルテックは動く気配を見せず、そのまま倒れ伏していた。
「……ふぅ」
「う”あ”あ”あ”あ”あ”!」
「な、なんだ!?」
集が背を向けて、帰ろうとした瞬間、とても人間が出すことの出来ないであろう
叫び声が後ろから聞こえてきて、振り向くとそこには体中から黒い何かを
放出しているボルテックの姿があった。
おはようございます。如何でしたか?
感想もお待ちしております。
それでは。