第68話 新世代を担う少年少女たちの最終試練
そして時間は経ちあっという間に数日が過ぎ去り
魔族と人間の戦争が始まる日となってしまった。
非戦闘員は全員地区ごとの地下避難所へと収容され護られていた。
今回は戦争へ行く少年少女達の様子を描くとしよう。
「レイ……行くの?」
レイが愛してやまない女性であるサジルは
涙を流しながら愛している男を見送ろうとしていた。
レイは強いから必ず生きて帰ってくる…何度前夜にそう考えたことか。
しかし、どうしても人は最悪な事を考えてしまう生き物。
レイがこの戦争で帰らぬ人となってしまうのではないか?
そんな気持ちが今の彼女を支配している。
「ああ、行かなくちゃならないからな」
レイはガチャガチャと装備を着きんでいた。
「レイ!」
サジルは後ろから彼を抱きしめた。
「……何がなんでも…帰って来て」
「……当たり前だ。お前を置いて俺は逝かねえよ」
レイはサジルにキスをしもう一度軽く抱きしめると
集合場所へと魔法陣でジャンプした。
「……」
ルーラは家の書庫にある本を読みあさりシュウにかけられた
呪いを解く方法を模索していた。
ルーラはふと魔力通信機をつけると戦争へ向かう勇者たちの
大切な者たちへのメッセージが発信されていた。
愛するものであったり親であったりまたは、兄弟。
「……シュウ…待ってて。絶対に解呪法を見つける」
ルーラは再び本へと意識を移した。
「…待ちなさいライカ」
「あ?何よ」
ライカは胸糞悪いのか素っ気なく親に振りむいた。
ライカは強制的に実家へと帰るように命じられていた。
さながら最後の晩餐だったという。
「……」
「何?役立たずで無能な二番目の娘はどうでもいいって言いたいの?」
「ち、違うわ」
「じゃあ何?姉の足を引っ張るなって?」
「……戦争が終わったら……話をさせてほしいの」
「っ!……覚えていたらね」
最後までぶっきらぼうにライカは返答したがその顔は些か
戦地へと行くような表情ではなく嬉しそうな表情だった。
「にゃ~」
「ああ、分かってるよ、リッタ」
シュウはリッタの鳴き声とともに病室のベッドから起き着替えようとしていた。
「あら、起きたのね」
「…イーリさん」
未だにシュウはイーリの事を母さんとは呼べずにいた。
「…服、着替えさせてあげるわ」
イーリはシュウの反論を聞かずに精神世界で
会った時に渡した服を彼に着せ始めた。
しかし、その動作の途中で彼女の手が震え始めていた。
「ごめんね、シュウ…私があの時完全にハデスを
倒せていたら貴方を戦地には送らなかったのに」
「………か、かあ」
「え?」
シュウは恐る恐る彼女の震える手へと自らの手を向かわせピッタリと合わせた。
「母さん……絶対に倒そう……そして…ゆっくり話そう」
「シュウ!シュウ!」
イーリはさらに大粒の涙を流して彼を抱きしめた。
病室には親子のすすり泣く声が聞こえていた。
ゆえは不思議といつもよりも少し遅い時間に起きた。
まだ招集時間には余裕で間に合う時間帯だ。
「…起きよう」
初めての義理の親との喧嘩をしゆえの今まで過ごしてきた家はひどく
暮らしにくい空気に変化していた。
ユイと目が合ってもゆえは目をすぐに離してしまい何かとユイとは合わないように
したりして関係は日に日に悪化の一方を辿っていた。
一階に下りると既にテーブルには朝食が準備されておりユイは既に食べていた。
「お、おはようゆえちゃん」
「………」
母親の返事にすらゆえは返答しようとしなかった。
朝食を食べ終わり身支度をして出ようとした時
「ゆえちゃん…ちょっと良い?」
時間にはまだ十分余裕があったのでゆえは話を聞くことにした。
「その……今まで黙っててごめんなさい」
ユイはゆえに頭を下げた。
「いつかは話さないとだめだとは思ってたの……でも、ゆえちゃんを
見てると本当に私が生んだ娘なんだって思えて……言えなかった」
「…………」
「別にもう私の事をお母さんて呼ばなくても良い……
呼ばなくていいから……必ず生きて帰って来て」
「っ!!」
ゆえはユイが涙ながらに想いを伝えたことに驚いた。
「必ず生きて帰って来て……また、私たちとこの家で過ごしましょ」
「か……母さん」
その話を聞きゆえは涙が止まらず体が勝手に動きユイに抱きついた。
「ごめんなさい!…ごめんなさい!」
「ゆえちゃん」
ユイは泣きじゃくっているゆえの背中を優しくさすりながら抱きしめた。
「必ず!必ず生きて帰ってきます!」
ゆえは心にそう誓い戦地へと向かった。
ヤガミは総本部が置かれているシルバロン総本部で小隊の隊長に選抜されていた。
目の前には大勢の戦闘要員がそれぞれの決意を胸に隊長であるヤガミのもとへと集まっていた。
「みんな……聞いてくれ」
ヤガミの一言で小隊は静まり返った。
「俺はまだ世間知らずで青臭いガキだ…だから俺についてきたくない奴は
俺に指示に従わなくても良い……でも、必ず生きて帰ってきてほしい。
この中には愛するものを置いて戦地へと来ている者だっている…だから!
絶対に死なずに!大切なものが待っているところに生きて帰るんだ!」
『おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
たった16歳の少年に何百という人間が結束した瞬間だった。
(アラン……待っていろ…必ず生きてお前のもとに帰る!)
アランから貰ったネックレスを強く握りしめヤガミは魔族の軍が
侵攻してくるポイントへと進み始めた。
今の世界を担う少年少女達は一つの決意を胸に刻みこみ魔族との戦争へと立ち向かう。
この戦争に勝ったとき世界はまた新たな扉を開け成長を遂げる。
新世代を担う者たちへの最後の試験が始まろうとしている
いや~とうとう私の初一次創作作品でありますマジックワールドも
最終章の扉を開けることになりました。
思えば最初はひとケタ台のお気に入り登録から始まり
ようやく二ケタ台のお気に入り登録まで延びました。
これも読んでくださっている皆様のおかげでございます。
もう少しだけお付き合いください。