第29話 女王、ミスティ・フラン
あれだけ騒がしかった病室は女王の登場により静かになっていた。
どうやら全員度肝を抜かれたようで口をぽっかり空いている者や
驚きすぎて固まってしまった者など、とにかく凄まじいものであった。
「なんで女王様が僕の病室なんかに」
集がそう尋ねると女王は柔らかく微笑みこう言った。
「お礼を兼ねてのお見舞いです。貴方のお陰でギルスを
捕らえる事ができました」
「別に俺は何も大層な事はしていませんよ」
「いえ。貴方がマグナ・ギルスを倒してくれたお陰もあって
彼を捕えられたんですよ。そうでなければ、我々の力では
どうにもできませんでしたから。本当にありがとうございました」
女王が頭を下げるとその光景に周りにいた皆が騒ぎ始めた。
なんせ一国の女王が一人の一般市民に頭を下げるなど
ほぼあり得ないと言っていいほどのものなのだ。
「じょ、女王様! 貴方が頭を下げては!」
「いいえ、ライカさん。女王の私とて大きく見るとただの人間。
私は女王ではなく一人の人間としてお礼をしているのです」
「俺は本当に何もしてません。理事長から聞くまであいつの事
全く知らなかったし、もし知ってても同じように
ゆえを助ける為だけにあいつを倒していましたよ」
「そうですか……面白いですね、如月さんは」
ミスティは微笑みながら頭をあげて、集の顔を見た。
「集で良いですよ」
「ならわたくしもミスティでいいですよ」
「ミスティ」
集が呼び捨てにした瞬間、一斉に皆に叩かれた。
本だったり板だったり特に固いものが多かった。
「痛いな! 何すんだよ!?」
「馬鹿! 当たり前だろうが!なに、女王様を友達感覚で呼び捨てしてんだ!」
「良いじゃんか、ゼロ。ミスティが良いって言ってんだから」
「ふふ、そうですよ。私がいいと言えばいいのです」
「な?」
ミスティと集の会話のやり取りに全員が大きなため息をついた。
「もういいや。集にはついていけない」
ゼロは呆れたように溜息をつくと退室していった。
それに続きアミヤ達も女王に一礼してから病室を後にした。
その後、数分ミスティとお喋りをして彼女も付き人と一緒に帰っていき
再び病室は戦争が起こせる戦力のみとなった。
「まさか女王様が来るなんてね」
「なあライカ。ミスティも強いのかな」
「さあ? さっき両隣りにいた付き人が警備をしてるから
魔法は見たこと無いしまず、付き人事態が異常に強いっていう噂だし」
「ふ~ん」
「じゃ、そろそろ私達も帰ろうよ。ゆえと集の邪魔しちゃ悪いし」
「ル、ルーラ!」
ルーラはゆえに怒鳴られるのと同時に子供が悪戯をしてばれた時の様に
走って逃げていった。それに対しゆえは顔を赤くしていた。
「あら、顔が真っ赤よ。ゆえちゃん」
「ラナ。後で覚えて置くと良い。その水の様な青い髪の毛を蒸発してやろう」
「あら、それはご勘弁。それと、髪の毛は蒸発しないわ。じゃあね、集」
「うん。ばいばい」
ラナが病室をいったん出るがまた顔だけを覗かせてこう言った。
「ゆえ、声は我慢しなさいよ」
「ラ、ラナ!」
ラナはダッシュで逃げていった。
「は~あたしも帰るわ。じゃあね、集」
「ああ、また今度」
ライカも病室を去り残ったのはゆえと集の二人だけであった。
その間には沈黙が少しばかり流れた。
(ド、ドキドキする。なぜ、集と一緒にいるといつもよりドキドキするのだ!)
ゆえは顔を赤くしながら胸に手を置いたり頬に置いたりと忙しく動かしていた。
それに対して集は気づいていないのか、はたまた放っているのかは知らないが
ベッドでボーっとしていた。
「いつぐらいで退院できるんだろな、ゆえ」
「ひゃ、ひゃい!」
突然、話しかけられ、はいと言ったつもりが変に言ってしまった。
「どうしたのか? ゆえ。顔赤いしさっきから変だぞ?」
「な、何もない! それよりも、いつ退院できるかだが先生によれば
まだ、3日は入院する必要があるらしい」
「3日ね~勉強、どうすっかな」
集はかれこれ修業期間も含めると3週間は行っていない。
その間も授業は進みもうすぐ考査があるらしい。
その後も行事ごとが目白押しだ。
「ゆえ~」
「な、なんだ?」
「勉強教えてくれないか?」
「あ、ああ良いぞ! 私が教えてやろう」
「良かった。ゆえの教え方分かりやすいから」
集の笑顔を間近で見てしまいゆえの顔はさらに赤くなった。
「ちょ、ゆえ! 大丈夫かよ!?」
集がゆえ頬に手をやるとさらに顔を赤くした。
(しゅ、集の顔がこんなにも近くに)
既にゆえには集の言葉は耳に入っていなかった。
目は泳いでおりしきりに集の顔が入ってくる。
「しゅ、集」
「ゆ、ゆえ?」
いつの間にかゆえの顔が集に近づいていった。
お互いに顔を赤くし息が相手にかかるぐらいの距離まで縮まっていた。
「ふむ。学生がベッドで、それも病院でそんな事をするのはさすがに見逃せんな~」
『―――――ッッッ!』
突然の声に振り向くとそこには理事長と集の担任のフィーリが立っていた。
理事長はけろっとしているがフィーリは顔を赤くしてあたふたしていた。
「ふ、二人ともそこに立ちなさい!」
フィーリのお説教が始まった。
その光景を理事長はコーヒーを飲みながら(ちなみにブラック)微笑ましく見ていた。
(優秀な生徒たちを相手するのも良いがやはり生徒と教師の関係は
こうであった方が面白い。まるで親の様に接するのが良いのかもしれんな)
改めて教師の在り方を考えさせられた出来事であった。
ちなみにこの説教は1時間続いた。
「それよりも集君」
「はい?」
「聞きたかったんだが頭の猫はなんだ?」
「にゃ~」
頭の上には契約したリッタが気持ち良さそうにくつろいでいた。
リッタによれば集は程良い冷たさがあるので夏は最高の事。
「こいつはミラ族のリッタですよ」
「ほう。ミラ族か」
理事長は驚いたような声音で言いながら集の頭の上に乗っているリッタの
頭を撫で撫ですると、リッタは気持ちがいいのか目を細めた。
ちなみに理事長は椅子に立ちながら、集の頭を撫でている。
「確かミラ族はヒラミ族と契約を結び共生しているんでしたよね?
でも、なんで集君の傍にいるんですか?」
「簡単ですよ、フィーリ先生。こいつと契約したんです」
「ほう。精霊と契約した生徒は初めて見る」
「え? そうなんですか?」
集は驚いた様に理事長に聞き返した。
集の中では全員がなんらかの精霊と契約していると思っていたのだ。
「ああ。集は結構異例だぞ。精霊と契約した生徒なのだから」
ゆえが感心したかのように集に言った。
(小説の見すぎか)
「さて、君にそんな事を話しにきたのではないんだよ」
「なにかあるんですか?」
「集君。貴方は確かにマグナ・ギルスを倒し束縛に一役買ったようですが
何か大切な事を忘れていませんか?」
フィーリは笑っていたがその笑顔は温かいものではなく冷たいものだった。
「え、えっと」
「分かりませんか。なら私が思い出させてあげましょう」
フィーリが取りだしたのは大量のプリントだった。
「これは貴方が3週間欠席した分の授業内容です」
「は、ははは」
集は笑うしかなかった。バーストの修行に頭がいっぱいで学校の事など
考えていなかった。そのつけが今来たのである。
「君が退院するまで残り5日。ここでみっちり私が補習授業をしましょう」
「え、えっと。勉強はゆえが見てくれる手はず」
「二人っきりだとまたさっきみたいになります。
私が見ましょう。良いですね?桜さん」
「は、はい」
あまりのフィーリの気迫にはいとしか言えなかった。
先程の説教も半分、妬み、嫉妬が含まれていたのである。
私はもう20代後半に入りかけなのにまだ、恋人もいないのにとか。
それはさておき、集の病院での補習授業がここに決定した。
こんにちわ、ケンです!!
如何でしたか?
それでは、今日へこの辺で