第26話 集のバースト
「痛って~な」
集は吹き飛ばされながらも何とか受け身を取り
無傷とまではいかないが軽症で済んだ。
(あいつの技は……恐らく魔力で強化した両腕を高速でふって
その衝撃波でもぶつけているのか? だったら簡単だ)
「まだ、立つか」
「勿論さ。お前を倒すまでは倒れない」
「ふん! 出来るものならやってみろ! 雑魚が!」
―――――ドドドドドドドドド!
マグナは先程の技をマシンガンの様に撃ち始めた。
だが、それを集は一発も喰らわずに獣人化の速度を最大限に利用して全てかわしていった。
「な、なんで避けている!」
「簡単な話さ。あんたはそれを弾丸の様に撃ちだしているんだろ?
弾丸は曲がらない。銃口の向いている一直線上にしか飛ばない。
それと同じだ。来る場所が分かってるならそれをかわせばいい」
集は避けながら徐々にマグナとの距離を縮めていった。
(馬鹿な! そんな避け方、聞いたことが無い!)
「おら!」
「しまっ!」
集はマグナの両足を蹴りあげた。
「初撃一閃てな」
―――――ザシュッ!
集の刀がマグナを切り裂いた。
「ぐは!」
「もういっちょ!」
「ごっ!」
集はマグナの顔面を思いっきり殴りとばした。
マグナはなにも抵抗できないまま殴り飛ばされ、一メートルほど
とんだところで地面に背中から着地した。
「ハァ……ハァ」
斬られた部分から流れ出たマグナの血液はぼたぼたと滴り落ち、地面を赤く汚していた。
「くそ! この俺がこんな雑魚に!」
「おい、使えよ。バースト」
「なんだと!?」
マグナは集が言った言葉に驚きを隠せないでいた。
バースト――――それは、最終戦闘術でありランカーの
それはそこらの凡百な生徒のバーストとは一線を越えている。
それをただの、生徒である集が使えと言ったのだ。
驚くのも無理はなかった。
「ランカーは全員、使えるんだろ? 全力の
お前を倒してこそこの勝負に俺は勝つんだ」
「ふはははははははは! いいだろう!
だが、後悔するなよ。これが俺のバーストだ!」
マグナがそう叫ぶとマグナを魔力が包みこみ始めた。
『―――――――ッッッ!』
離れたところで溢れ出てくる水のように飛びかかってくる警備の者たちを倒していた
ランカー達もマグナがバーストを発動したことに気が付いていた。
「とうとう使ったか。マグナ」
アークは魔力が火柱の様に立ち上っている光景を見ながらそう呟いた。
「集……」
ゆえはその光景を心配そうに見つめた。
「集を心配するのは分かるけど先にここを片付けなさいよ!」
「ああ、すまないライカ」
ゆえは気を取り直し警備員に向かっていった。
(なんて魔力だ。さっきの比じゃない)
魔力が晴れるとそこにはマグナが立っていた。
しかし、演出の割にはとくに彼の姿に変化はなく先ほどとおなじ恰好だった。
「これが俺のバーストだ。俺の魔法は肉体強化故に姿は
一切変わらない。他の奴らは知らんがな。
そして、バーストを発動した際の魔力は」
マグナは先程の衝撃を飛ばす構えを取り始めた。
「来るか」
集は先程と同じ避け方をしようとした。
「うおらぁぁぁ!」
「――――――ッッッ!」
集は避ける間もなく吹き飛ばされた。
「がはぁ!」
口から血を吐きだしながら吹き飛んで行った。
「10倍だ」
何メートルも後ろに飛ばされてしまった。
「ゲホッ! ゲホッ! くそ!」
「まだだ」
――――ゴッ!
マグナが消えたかと思うと突然、腹部の痛みと浮遊感が同時に集に襲いかかった。
(殴り飛ばされたのか! 俺が宙に投げられるほどの威力で!)
集は空中に殴り飛ばされていた。
(速過ぎて見えない!)
「こっちだ」
「―――――ッッッ!」
集は慌てて声が聞こえてきた方向を振り向くが遅かった。
「ふん!」
「――――――がッ!」
集は顔面を殴られ、そのまま地面に激突した。
その威力は地面が抉れ、人一人が軽く埋まってしまうほどの威力だった。
「死ね」
マグナは高速で集に向けて降りていきひじ打ちを入れようとしたが
集は横に転がり何とか避けた。
「ハァ……ハァ……」
集がいた場所はさらに深く抉れていた。
「所詮はそんなものだ。ランカーでもない奴がランカーに
挑もうとするのが悪い。貴様には勝てない」
「ああ、そうだろうな。げほ! そりゃ、ランカーのバーストと
雑魚がバーストを使わずに戦うのじゃ、像とアリが戦うようなものだ」
「分かってるじゃないか。だったら」
「でも! お前と同じ次元に立てたら話は別だ」
「どういう意味だ?」
マグナは集が言ったことに疑問を呈した。
「分からないのか?バーストを使えばお前を倒せるんだよ!」
その言葉を聞いてマグナは大笑いし始めた。
「ふはははははははは! 何を言い出すかと
思えばバーストを使えばだと!? 寝言は寝てから言え!
それでは、まるでバーストを使えると言ってるのと同じだぞ!」
「ああ、そう言ってんだよ! マグナ・ギルス!」
マグナは集の発言に呆れながらも、バーストについて説明を始めた。
「お前分かって言ってるのか? 元来、バーストは魔力の多い貴族が
作りだした戦術だ。魔力の潜在値が多い貴族でも習得するのに
年月がかかる。この俺でも5歳から始めて
習得できたのは14だ。それを貴族でない貴様がましてや、1週間
そこらしか特訓していない貴様などには不可能だ」
「はは! だったら見せてやるよ !これが俺のバーストだ!」
集の周りに魔力が集まっていき徐々にその量を増大させていった。
(なんだ、この魔力の量は!? 魔力の潜在量が多い貴族でも
これ程の魔力を持つ者はそう滅多にいない。
それなのに、何故、平民のこいつがこれ程の魔力を放っている!)
「そう言えば、貴族が平民に婚約を申し込んだら強制的にしないと
いけなかったんだっけ?」
「ああ、そうだ」
マグナが集の質問に答えると、集は鬼のような形相でマグナを睨みつけた。
「その掟がゆえを泣かしたのか……そんな掟、俺がぶっ潰してやる! バースト!」
「―――――ッッ!」
その言葉を発した瞬間、天に向かって魔力の柱が上った。
『―――――ッッッ!
ゆえ達はその時、莫大な魔力を感じて動きを止めて、魔力が柱となって
立ち上っている場所を向いた。
「この魔力の感じ」
ライカが独り言の様に呟いた。
「集なのか」
「ゆえ、行って来い」
ゆえはアークの言ったことに反論した。
「アーク、だが」
「奴らももう、全滅した。事後処理は俺たちでやる。行って来い」
「……任せる」
ゆえは炎の翼を生成し集が戦っているもとへと向かっていった。
「集……とうとうバーストを」
「みたいね。これで二人目ね。貴族出身ではない奴がバーストをしたのは」
ルーラとラナは思い出すように呟いた。
魔力が晴れ、姿を現した集の容姿はほぼ、変わっていなかった。
髪の毛は獣人化の時よりも遥かに伸び踵に付くか付かないかの瀬戸際だった。
服は上下繋がった和服の様な白い服になり、右手に刀を持っていた。
「それがバーストだと?」
「ああ、これが俺のバーストだ」
「何も変わっていないように見えるが……いや、強いて言うなら服と
髪の長さが変わったくらいじゃないのか?」
「変ってるさ。強さがな」
「ふははは! そうか、だったら試してやろう。貴様のバーストが
どんなものなのかをな!」
―――――ザシュッ!
マグナは衝撃波を飛ばす構えを取った瞬間、血しぶきがあがった。
「な!」
目の前にいたはずの集はおらず、振り向くと後ろに立っていた。
その剣には血液が滴り落ちていた。
「バ、バカな!」
「この力でお前を倒す。行くぜ、マグナ・ギルス」
おはようございます、ケンです。
如何でしたか?それでは、行ってきま~す。