第24話 精神世界
翌日に結婚式を控えマグナの家はごった返していた。
ウエディングプランナーが何人も来て、綿密に式の内容を話し合っていた。
そして、招待客の確認や出される食事の下準備などで忙しく走り回っていた。
「ゆえさ~ん」
マグナはニタニタとにやけながらゆえの部屋に入っていった。
「ノックをしろと言っているだろう」
「良いじゃないですか~どうせ、明日には夫婦になるんですし」
すると、部屋のドアがノックされた。
「誰だ」
マグナがそう尋ねると召使が部屋に入ってきた。
「失礼致します。ドラス様がお戻りになられたのでご報告に」
その報告を聞いた瞬間、マグナはパァッと効果音が聞こえてくるくらいに
表情を明るいものへと変化させた。
「おお! やっと父さんが帰って来たのか! ゆえさん、
待っててね。すぐにこっちに呼んでくるから」
マグナは嬉しそうに父親のもとに向かって行った。
その後、マグナの父で政府の高級官僚でもあるドラス・マグナが入ってきた。
その容姿は金髪でスーツをしっかりと着こなしており恰幅の良い男性だった。
「君が今度、家にくる子かい?」
「はい。始めまして。ゆえと申します」
ゆえの美貌と礼儀正しさにドラスは感嘆の意を示した。
「ほう。本当に平民の子かい? マグナ」
「そうだよ。僕と同じランカーでもあるんだ!」
「そうか、それは明日が楽しみだな」
「うん!……それでお父さん、あれ頂戴」
「ああ、そうだったな。その時間か」
ドラスは胸ポケットから粉末が入った小瓶を出した。
「そ、それは!」
ゆえはその小瓶の中の粉末を見て顔を青ざめた。
「おや、知ってるのかい?」
「それは全世界で禁止されている麻薬花のマジックフラワーでしょう! なんで、それを貴方が!?」
「麻薬花? 違う! これは最高の花だ!」
「――――――ッッッ!」
先程までの優しそうな顔を一変させドラスはゆえに叫び出した。
「この花を使えば強大な力が手に入る! これを欲しがっている奴らは
世界に五万といる! そんな夢の様な花を禁止する世界が狂っているんだよ!
君も分かるだろう? 力が無い者はどのような手を使ってでも力を欲するのだよ!」
ゆえはその言い分を聞いてあることに気づいた。
「じゃあ、マグナがあそこまで強いのは!」
「そうだ。マグナには幼少のころから飲ませている。この子は
昔から魔力の潜在量が人よりも遥かに少なかった。そんな子は
ギルス家にいらないのさ」
ドラスはカップに粉末を入れお湯を入れると辺りに甘ったるい
匂いが漂ってきた。
その匂いに思わずゆえは鼻を押さえてしまった。
「さあ、飲みなさい。ギルス」
「うん!」
ギルスは待ってましたと言わんばかりにカップを受け取り
飲み干すと魔力が増大していった。
「はぁぁ~最高だ! この魔力が増える感覚。何度飲んでも
この感覚には飽きない」
マグナは口から涎が垂れているのも気にも留めずに笑った。
「く、狂っている」
ゆえはその光景に絶句していた。
「くくく、何を言ってるんだい? ゆえさん。狂っているのは
貴方達世界の方でしょう! こんな夢の様なものを禁止するなんて考えられませんよ」
「それを一回でも飲めば人間の道は外れ、それに支配される人生を送るのだぞ!
それに依存性だって強いと聞く! 何でそんな物に頼るんだ! マグナ・ギルス!」
「うるさいよ!」
「ぐぅ!」
ギルスはゆえの腹部を蹴り飛ばした。
仮にも明日、自らの花嫁になる女性の腹部にギルスは何の戸惑いの表情も見せずに
何回もゆえの腹部に蹴りを入れ続けた。
「お前に何が分かる! 魔力が少ない僕は周りから苛められ
蔑まれてきた! 最初から強かった君たちに何が分かる!」
「ごほ! ごほ!」
「ハァ……ハァ。まあ良い。明日の式で貴様にも味あわせてやるさ。この花の快感をな」
マグナは満足したのかそのままゆえをほったらかしにして、
ドラスと共に部屋から出て行った。
「集……助けて、集」
ゆえは涙を流しながら少年の名を口ずさんだ。
「―――――ッッッ!」
一方その頃、精神世界で戦っていた集は何かに呼ばれた気がして後ろを振り向いた。
『どうかしたの?』
「いや、誰かに呼ばれたような気がして」
『空耳でしょ。この空間には貴方と私以外の声は決して届かない』
「そうか……ここに来て何日目なんだ?」
『ここの時間軸で言えば1か月だけど向こうで言えば四日ぐらいね』
「う、嘘だろ!?」
集は女性の話を聞いて驚きの声をあげてしまった。
このままでは確実に間に合わないとも感じてしまった。
「休憩はもういらない! 続きをするぞ!」
『まだ気づかないのね……』
女性は悲しそうな表情を浮かべて呟くが集に聞こえていなかった。
二人はもう何度目かも分からない闘いを始めた。
翌日、結婚式当日の今日は郊外にある式場に
たくさんの、来賓が来ていた。
政府の高級官僚やギルス家と親交のある貴族、そしてランカーが全員
招待されていた。
「ん! これ、美味しいよ! 皆も食べなよ!」
「どれどれ? ……うん、美味い!」
ルーラはお皿とフォークを片手に食材を食べまくっていた。
レイもルーラがおいしいと言った物は全部、食べていた。
「あんた達よく、そんなに食べれるわね」
ライカは呆れたように二人を見た。
ライカや、ルーラそれにラナの今の服装はいつもの私服ではなく
学校の制服を着ていた。
「ふぁふふぁふぇふぃふぁふぇ!(ライカも食べなよ! 美味しいよ!)」
ルーラは口いっぱいにほうばりながらライカに向かって喋った。
「食べるか話すかどっちにしては如何です?
レディーがそんな、はしたない事をしてはいけませんよ」
ライトはルーラのはしたない行為に苦笑いを浮かべつつ彼女に注意を入れた。
「ねえ、ライト。あんたどう思う?」
「そうですね。先ほどから甘ったるい匂いがしてたまりませんね」
ライトの返答にライカは『やはり』と言ったような表情を浮かべた。
「じゃあ、やっぱり」
「まだ、証拠はつかめていません。食材の匂いだと言われれば
それ以上は踏み込めません」
実はライトとライカは子この結婚式に疑問を持ち
独自に調査をしていると不可解な点が何個も浮上した。
「周りにいる来賓もそうだけど、全員がギルス家の傘下にいる者しかいない」
「ええ、普通、貴族の結婚式なら女王様も来られるのに今日は来ていない」
「何かあるんでしょうね」
すると突然、明かりが落ちた。
「皆様、本日はお忙しいところご出席いただき誠にありがとうございます。
私は本日、司会を務めさせていただくフリル・イーツと申します。
それでは、今日の主役に登場してもらいましょう!」
一応、補足しておくとこの世界での結婚式という物は
現実とは異なり、まずは新郎が来賓に挨拶をし
その後、神々に二人を会わせてくれたのに感謝を込めて
祈りを捧げ、そして最後に新婦が登場し新郎のいる場所まで
歩き、辿り着いた後、神父による誓いを立て、最後は誓いのキスとなる。
「皆様、今日は忙しい中僕たちの結婚式に出席してもらいありがとうございます」
それから、ダラダラと偽りの馴れ初めを語りだした。
「それでは、登場してもらいましょう。今日、僕の伴侶になる女性に!」
ドアにライトがアップされ、出てきたのはウエディングドレスを着た
ゆえがゆっくりと歩いてきた。
「ゆえ……」
ライカは自分の弱さを憎んだ。
友達すら救えない自分を。
そして、ゆえがマグナの手を取ろうとした瞬間だった。
―――――フッ!
「な!」
「き、消えた!?」
突如、ゆえの姿が消え会場は騒がしくなり始めた。
「お、落ち着いてください!」
司会者が慌てている招待客たちを鎮めようとした瞬間、窓ガラスが割れる音がした。
「あそこか!」
マグナが割れた音の方へ走りだすとそれを来賓達も後ろから追いかけた。
「どこだ!?」
マグナは外に出て周りを見渡すが誰もいなかった。
「あ、あそこだ!」
来賓の一人が声を上げ指をさした方向に全員の視線がそちらを向いた。
「お、お前は!」
見上げた視線の先には式場の屋根に一人の白い髪をし刀を一本
携え上下とも真っ白な服を着た少年がいた。
「中々の見晴らしだな、リッタ」
「そうね。下で虫どもがぎゃあ、ぎゃあ騒いでいるのが残念だけど」
「何でここに来たんだ! 集!」
その少年の名は如月集。
「助けに来たぜ。ゆえ」
おはようございます!!
ケンです!!如何でしたか?
今年ももうすぐ終わりますね~
それでは、行ってきま~す。