第20話 契約しない理由
集が猪と闘っている同時刻、ゆえはというと………
「やはり美しいですね。流石はゆえさん」
ウエディングドレスの試着をしていた。
結局、あれから見回ったがゆえの反応がイマイチなのでマグナは
オーダーメイドで作らせた。
そのウエディングドレスは宝石がいたるところに散りばめられており
キラキラと光っていた。
試着の場にはマグナの母親と弟、そしてゆえの母親がいた。
二人の父親は仕事があるため今回は欠席となった。
「まあ! とてもきれいです事! とても、平民の人間から
生まれたようには思えませんわ!」
ハイテンションで嫌みを言っているのが、マグナの母親で
夫に代わりギルス家の当主を務めている、
フリアス・ギルスである。
そして、フリアスに手を繋がれている四,五歳くらいの少年が、
弟であるアギト・ギルスである。
二人の格好は自分が金持ちであると周りに自慢するかのような
豪勢なものだった。
フリアスは指輪を何個もつけネックレスも宝石がふんだんに使われた
物をつけていた。
そして、アギトはというとまだ、四,五歳の為、お洒落に目覚めてはいないが
恐らく母親につけていろといわれつけている指輪が二,三個あった。
「ね~ママ~」
「な~に、アギト」
「あの人誰~?」
アギトはゆえに指を差して母親に聞いた。
「うん、あの人はねマグナお兄ちゃんが結婚する人なの」
「結婚ってな~に?」
「ん~とね、パパとママみたいになる事」
「ふ~ん」
アギトは納得したのかしていないのかよく分からない返答をして、
どこかへ歩いて行った。
「ふふ、可愛いでしょう?あれが僕の弟です」
「……そうか」
「可愛くありませんか?」
「いや、可愛いな」
それに対し、ゆえの母親であるユイは質素な服を着ており
ネックレスなどの貴金属は一切付けておらず、フラリスの様に
めちゃくちゃ厚化粧している訳でもなく必要最低限に化粧をしていた。
「貴方があの子の母親かしら?」
「あ、はい。私は」
「ああ、別に良いわ」
フラリスはユイが名乗ろうとするのを止めさせた。
「え?」
「あたしは平民の名前は覚える気ないから」
明らかにユイを見下しながらフラリスは言った。
「は、はい」
ユイはこの場はおとなしく下がった。
「ママ、どうかな?」
マグナがフラリスにそういうと、先程とは打って変わりフラリスは
満面の笑みでマグナに近づいて行った。
「あらまあ! 綺麗! 流石はマグナちゃんが職人に
言って作らしたことはあるわね」
「ふふ、ありがとう。ママ」
その後、細かい作業が終わってないという事でドレスは
店に預け、五人は店を後にした。
「それで、どの様に式をあげようかしら」
フラリスとマグナ、ゆえはギルス家に集まり、式の内容を決めていた。
「ん~やっぱり、招待客は多めの方がいいね」
「どうして?」
「何言ってるのさ、ママ。僕の結婚式だよ? 人々に未来永劫伝えられる
式にしないとギルス家の名が泣くよ?」
「そうね。ごめんなさい。招待客の方は私に任せて!」
「うん、お願いするよ。ゆえさんもそれで良いよね?」
「あ、ああ」
ゆえは慌てて返事を返したがほとんど話を聞いていなかった。
先程までずっと、集の事を考えていたのである。
頭の中が集という単語だけでいっぱいになるほど考えていた。
「そうね~招待客の数を考慮に入れると準備期間に二週間は必要ね」
「そっか~二週間か……うん、分かった」
そして、この時タイムリミットは二週間と決まった。
その頃、集はというと…
「最後の一匹!」
―――――――ザシュッ!
「ぷぎゃぁぁ!」
集が最後の一匹に刀を突き刺すとともに洞窟に静けさが戻って来た。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ」
「だ、大丈夫ですか!? 集さん!」
「ああ、なんとかね。でも、魔力がもうやばいかな」
「んにゃ~魔力が尽きる前に早く行くにゃ~」
ミヤの催促で集はスーダの肩を借りながら洞窟の奥に向かった。
「あ、あれ行き止まり?」
「本当だ」
数分歩くと二人と一匹は行き止まりに辿り着いてしまった。
「どうしましょう。これ以上進めないようですし」
「うん、そうだね……ん?」
「どうかしたかにゃ~?」
「何か聞こえない?」
「え?」
集に言われスーダは耳を傾けると確かに何かを擦る音がしていた。
――――――シャキン! シャキン!
「なんだろこの音」
「んにゃ~、まるで刃と刃をこすってるみたいな音にゃ~」
「刃と刃……まさか」
「どうしましたか? 集さん」
集は何かに気付いたのか顔を青白くしていた。
「た、多分だけど、ここに来る途中でたくさんの昆虫がいたよな?」
「はい……まさか」
スーダも集の言っていることを聞いてすべてを理解したようだった。
「うん、多分この音源は」
集が言いかけた時、ミヤが呟いた。
「んにゃ~大きなカマキリだにゃ~」
「そうそう、カマキリ……え?」
スーダと集は恐る恐る後ろを振り向くとそこには大きなカマキリがいた。
「「………」」
「キシャァァァァァ!」
「「あぁぁぁぁぁぁ!」」
二人が叫び、後ろの壁にもたれた途端、壁に穴があき集とスーダは
真っ逆さまに落ちていった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
「これは落ちてるにゃ~」
「「そんな説明はいらなぁぁぁぁぁぁぁぁい!」」
二人は突っ込みをしながらもまっすぐに落ちていった。
「俺に任せて!!」
集はスーダを抱きしめ背中に残っている魔力を使い氷の翼を生やした。
「つ、翼!?」
「よし、これでなんとか」
――――――ポキィィィン!
しかし、集は翼の生成にあまり鍛錬をしておらず長い翼しか生成できなかった。
それにより、このように狭い洞窟などで生成するとポキンと折れてしまうのだ。
「「え?」」
「折れたにゃ~」
「「嘘ぉぉぉぉ!」」
最後の頼みの綱も消え二人はさらに速さを高め落ちて行った。
「よっこいしょ」
「「ふぇ?」」
どこからか声がするのを感じた途端に浮遊感が無くなった。
「全く、ここに人が来たのはいつぶりよ」
上の方から声が聞こえたので上を向くと、そこには……
「鳥?」
大きな鳥が足を使い二人をキャッチしていた。
「鳥が喋ったにゃ~」
「いや、お前が言うなよ」
「違う違う。もっと良く見なさいよ!」
「「?」」
上をさらに注意深く見ると鳥の頭に猫が乗っていた。
「見つけた!」
集は嬉しさのあまり叫んだ。
「ピロ、二人を下ろしてあげて」
「ピロピロ~」
ピロと言われた鳥はゆっくりと二人を地面に置き飛び去った。
「ふ~で? なんの用なの、こんなところに」
「え、えっと貴方が誰とも契約していないリッタさんですよね?」
「そうだけど」
「頼む!」
集は突然、猫に土下座をした。
「俺と契約して力をくれ!」
「嫌よ」
理由すら聞かずにバッサリとリッタは集の頼みを断った。
「な、なんで!?」
「私は契約しないのよ、誰ともね」
「どうしてですか?」
スーダが尋ねるとリッタは集の時とは大きく表情を変えた。
「あんたはヒラミ族ね?」
「はい」
「あんたになら言っても良い」
「じゃあ、向こうで聞かせてくれませんか? リッタさん」
「ええ、良いわよ」
スーダはリッタを連れ向こうに行ってしまった。
「良いわよ。あれは2年前かな。わたしもそれまでは普通に
過ごして契約するのを待っていたの。もう、本当に楽しみだったわ。
だって、契約した人とは一生過ごす事になる。言うなら人生のパートナーを
見つけるような物よ。あんただってそうでしょ?」
「はい」
スーダも初めてミヤと会うまで、契約を心待ちにしていたのだ。
ミラとヒラミとの間の契約は人間でいえば、家族になる瞬間なのだ。
「それで、ようやく私と契約をする人が現れたわ。嬉しかった。
だって、ようやくパートナーを見つけたんだもの。でも、」
「でも?」
さっきまで嬉しそうに話していたリッタの顔が変わった。
「でも、その人は死んだ。契約する日にね。次の契約者も
死んだ。最初は偶然かと思った。でも、三人目も死んだとなると
もう耐えられなかった。私と契約する人は皆死ぬ。
だから、私はこの洞窟にすんでいるの」
「だからリッタさんは誰とも契約を」
スーダがそう言うとリッタは首を縦に振った。
「ええ。それから、契約を出来なくなった。
それで、人に会わない為にこの洞窟で生活しているのよ」
「そ、そんな事があったなんて」
「だから私は契約しない。あいつにもそう言っておいて」
「やっぱり契約はしないって?」
集はスーダが返ってくるとすぐに尋ねるとスーダは首を縦に振った。
「はい。どうしてもしたくないって」
「ん~……だったら何をすれば良い?」
「は? あんた何言って」
リッタは集の言っていることが全く理解不能だった。
今さっき断ると言ったのに何をすればいいと聞かれれば仕方がないのである。
「だから、お前が望んでいる事を俺がするから。もし、出来たら契約してよ」
「ちょ、ちょっと集さん!」
「良いじゃない。のってあげるわ」
「リッタさんも!」
スーダは今の状況に怒りを感じていた。
いくらなんでも契約するためだけに何でもするといえば言われた方は
何をさせるか分からないからである。
「よし、ならまずは何からだ?」
「まずは今日の晩御飯になる奴を狩って来て頂戴」
「任せろ!」
集は刀を持ち外へといった。
果たして集は契約できるのだろうか?
タイムリミットまで、後二週間
こんばんわ~ケンです。
如何でしたか?それでは!!!