抱きしめた、蒼-episode 霧谷 歩-
ねぇ、みんなにはいる?
親友、盟友、戦友、それに旧友って呼べる人……。
僕は学校で、転校生くんって呼ばれることが多かったんだ。
えっなぜかって? それは父さんの仕事の都合。
今まで何回転校したのかって?いちいち数えてない。
そんな暮らしに疲れた母さんは、父さんと離婚した。
そして、僕を育てるため心臓が弱いくせに、無理を重ねてきた。そのせいで母さんは、僕が中三のとき天国へ旅立ってった。
母さんはいつも、僕に友達がいないことを気にしてた……。
隣の席になった人と、アニメの話で毎日たのしく盛り上がった。この人が親友かも?
「昨日のあのシーン、すごかったね」
「見た!見た!あのシーンってさ、主人公がさ……」
だけど、一か月後の席替えを境に、僕たちは話さなくなった。
宿題を忘れていったとき、後ろの席の人が答えを貸してくれた。この人が盟友かも。
「やばい、宿題やってくるの忘れた……」
「あれ、転校生くん、やってないの? これ貸してあげるから、写しなよ」
だけど、三か月後、僕はまた転校しそれっきりだった。
体育祭の騎馬戦で三人の仲間ができた。本気で相手の帽子を取りに行って、返り討ちにあい、みんなで笑いあった。この三人が戦友かも。
「いくぞー!!」
「俺たちで全部、帽子を取り上げろー!!」
「オォー!!」
だけど、一年後には、その輪の中に僕はいなかった。
こんなんだから、旧友なんているわけがない。
母さんに連れられて、祖父母の家に落ち着いた頃には、中学生になっていた。
そこで見つけた、不思議な人。
先生の言うことなんて聞く気もなく、いつも窓際の席から、ボーっと空を眺めながらイヤホンで音楽を聴いているような人。
クラスメイトに注意されれば暴れ出し、やりたい放題。
教室から出ていったかと思えば、給食の時間になると戻ってくる。
そんな不思議な人だった。
僕はもう、この先もきっと、親友も盟友も戦友も…旧友も作れないと思っていた。
だから、いつの間にか一人でいることを選んでいた。
そんな僕が、あの文化祭で不思議な人が歌った歌に自分を重ね、泣いたことは誰にもまだ言っていない。
いつしか、不思議な人は未來という人になって、僕たちは仲良くなっていった。
もしかして未來がずっと探していた友なのかもしれない。
そう思ったら、未來に無性に聞いてみたくなったんだ。
『ね、未來はさ』
『なに? なに? また急に』
『親友とか盟友とか戦友とか、うーん、旧友とか、そう呼べる人っている?』
『なに? なに? それ?』
『だから……』
そう聞きたくなったけど、やめた。
きっと未來ならこう言って終わるだけだから
『そういうの、どーでもいい』
ってさ。
『あははは、そうだねッ』
僕もきっと、そう答えるだろう。
……どーでもいいように。
完




