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君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


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8.身に覚えのない疑いをかけられている。

僕が暮らしている家は、代々の村長が家族で暮らす家。

王太子様と王太子妃様の前を歩きながら僕の家へ。着いてみると、僕の家の中には、王太子妃様の周りにはいなかった護衛がずらずらと並んでいる。

王太子様が後から村にこられた理由が、分かった。


王太子妃様御一行と時間差を作って村に入り、王太子妃様が村人の注目を集めている間に、人が出払った村長の家や村の中を王太子様とその部下が調べまわっていたんだ。


家の中に身に覚えがない証拠を持ち込まれて、僕を悪だと決めつけられたらどうしよう?


王太子様が、ソロアを僕の家に入れなかったのは、ソロアと王太子妃エレインが天敵だと知っているから?


万が一のとき、家族も村人も巻き込まないで済みそうだけど、誰も見ていないところで、処罰が決まったら?


僕が恐怖で緊張している間に、僕の家のテーブルには、麗しい柄のテーブルクロスがかけられ、尊い方しか使わないであろう茶器が乗せられていく。


王太子様、王太子妃様、僕の三人が座っているテーブルの側には、お茶入れ専門のような執事がついていた。

お招きしていないお客様を我が家にお迎えして、お客様のお茶係からお茶を淹れてもらうなら、飲み物に何かを仕込んだという冤罪は回避できるはずと思いたい。


「ご希望の茶葉をおっしゃってください。本日のお勧めはルームナント産の茶葉です。」

王太子様、王太子妃様、僕の順に答えていく流れになっているけれど、王太子様と王太子妃様が愛飲されるような茶葉の生産地を聞いても、どの茶葉がどんな味かなんて、僕に分かるはずもなく。


「さっぱりとした味わいで、香りが残らないくらいふわっと一瞬だけ香るような茶葉で淹れて下さい。」

飲み慣れない飲み物はクセのない飲みやすい味で。


三人分の茶器にお茶が入った。

僕の前に置かれたお茶は、ほんのりと黄色で、ティーカップにお湯が注がれた瞬間だけ、ふわっと嗅いだことのない花の香がした。

「ページュ産とミラ産のブレンドです。」

産地を聞いてもどこだか分からないから、澄まし顔で聞いている。

王太子様は、産地を聞いて、産地と茶葉の話を執事に尋ねているけれど、エレインの反応は僕に近い。茶葉の産地を聞いたところで何も分からないから、というよりも、その話題自体にエレインの興味がわかないから反応していないように見える。

エレインに何か反応するようにとせっつく人は、誰もいない。

王太子妃に寛容だとお聞きする王太子様が目をつむる限り、エレインが無反応でも誰も何も言わない環境なんだと再認識。


お茶が入ったティーカップを前に、王太子様が口を開くのを待っていたとき。

「アーレンドルフ様。私、デニスを連れて帰ります。」

王太子妃エレインが先に口を開いた。

「エレイン。私は、エレインの発言についてのデニスの釈明を先に聞く。」

王太子様がエレインに黙るように言った?

王太子様がエレインの好きにさせていると聞いていたけれど、実はそうでもない?

「アーレンドルフ様は、私の言うことを先に聞いてください。」

王太子様に止められたのに、エレインは無視した?

「エレイン。」

「デニスは私の幼馴染だから、攻略対象にはなりません。でも、私を助けてくれるお助けキャラだったんです。いつも何かがうまくいかないのは、幼馴染枠のデニスが私のサポートをにまわっていないからでした。」


どうしよう?エレインが自信満々に話している内容が分からない。僕が分からないだけで、同じテーブルの王太子様は分かっていらっしゃるの?


目立たないよう、チラッとご尊顔をおうかがいしてみる。エレインが元気いっぱいに話す内容を理解しておいでなのか、聞き流しておられるのか、王太子様の顔面からは読み取れなかった。


妻と同じテーブルについているときに顔面の筋肉を総動員しないといけないなんて、王太子様の表情筋はいつ休むの?

僕は、ソロアに教えてもらった神妙な面持ちで王太子様と王太子妃様とのテーブルについている。

王太子様とお茶を飲む対策はしていなかった。お茶を飲むときも、神妙な面持ちのままでいいのかが分からない。どうしよう?がひたすらぐるぐるしているのは僕だけなの?部屋の中には僕だけじゃないのに、誰の表情も変わらないんだ。


王太子様も王太子妃様エレインもお茶の入ったティーカップを前に話をしている。

淹れてもらったお茶に手をつけるときは、王太子様と王太子妃様を見て真似をしよう。僕の家にいる僕以外の全員が何を考えているのか分からないけれど、エレインの暴走は早いうちにどうにかして止めないと。


「発言をお許し願えますか?」

「許す。」

王太子様はすぐに許可をくださった。

「デニス、またそれ?もう、幼馴染枠なんだから、そんなやりとりをいちいち挟まなくても。」

「エレイン。」

王太子様がエレインを呼ぶ声は、名前だけで用件が分かる。


「アーレンドルフ様。私、デニスには、許しますと広場で言ってからきました。」

僕への許します、は、もう言ったから言いませんと王太子様に言うエレイン。王太子様と王太子妃様との会話に口を挟むことなんてできない僕は、一人でハラハラ。

王太子様に促された時点で、エレインが許しますと言わない状況なんて考えもしなかったよ。王太子様は、エレインの言動に動じていない。王太子様だけじゃなく、王太子様についてきて、僕の家に当然のように入って立っている王太子様の連れてきた人達も、エレインの言動を目の当たりにしているのに、何を言い出したんだ、と焦っていない。


王太子様の連れてきた人達の反応は、変わったものを見慣れてしまい、驚いたり怒ったりする感情が薄くなった人達の反応に似ている。

エレインの王太子妃教育に時間がかかったと聞いていた理由と、エレインについた王太子様になるための教育係がエレインが王太子妃様になった途端にエレインから離れた理由が、今、僕には分かった。


エレインに何かを教えてもエレインは教えられた通りにしないんだ。エレインは、エレインがやりやすいと思う方法に変えてからやっている。


村娘だった頃のエレインが、村の中で何かを変えようという姿勢を見せたことはない。村長の息子の僕が村娘のエレインと結婚したいのなら、エレインの環境をエレインの住みやすいように整えるのが当たり前なのに、エレインにだけ頑張ることを押しつけてくるから僕を見限った、というような考えを村を出る前、エレインは口喧嘩の中で僕に言った。


エレインに言われて感情が昂ぶっていた十二歳の僕は、エレインに拒絶されたことにまず、なんでどうして状態だった。貴族についていくエレインとの縁が切れたことを受け入れることが僕の第一だった。十年経って二十二歳になって、広場でエレインと話してから、僕の家でも話そうとなったこれまでのエレインとのあれこれを合わせていくと、エレインの求めてきたものがポトンと落ちてきた。


エレインは誰かに何かをしてもらうことが好きなんだ。


王太子様の言うことも聞かないといけないのは不満だけど、王太子様が何でも言うことを聞いてくれるから王太子様といるの?

なんて聞くわけにもいかない。

けれど、エレインが僕を連れていきたい理由の根拠が、僕に色々してもらったという記憶にあり、僕がいれば、今よりもエレインらしく生活できるという結論に至ったのなら、早合点だよと教えたい。


エレイン。君がお貴族様の中に張り切って入っていったのは、お貴族に何でもしてもらおうとしていたからなの?


エレインに間違いだ、失敗だと言っても、自分の工夫や考えを失敗だと思っていないエレインには、通じない。自分がやりやすいように工夫したものを工夫前に戻す意味が、エレインには分からない。

僕が見て感じていたエレインの状況への憤りは、スーと沈静化した。


あの娘は村では手に負えない、村から出ていく方がいい、とエレインが村から出ていくときにおっしゃっていたのは、赤毛のお貴族様マルク様。


慰めてくださっていると思って十年前の僕は聞いていた。

十年前の十二歳のエレインを見て、エレインがどんな大人になるか、マルク様は予想していた?


自己流を周りが受け入れて当然という考え方をする村娘が、自分の思うがままに自己流を貫き通すような大人になったら、村の中は揉め事が絶えなくなる。


礼儀作法を従わずに王太子様にたしなめられても、すぐに、はいとは言わずに反論が先立つエレインだけど、相手が王太子様だからか、一応、聞く耳はある。


相手が僕だと、自分の言いたいことだけを言って押し通す。

僕を連れて帰ると勝手に決めてしまっているように。


エレインが教えてもらった王太子妃様になるための教育が礼儀作法なら、教えてもらった通りにエレインがしないことは、やる気がなくて覚えないように見えたり、真面目に取り組みたがっていないと映るんだけど、エレイン自身は、エレイン流に使いやすく工夫して便利にしているつもりでいる。


王太子妃の教育係だった人が辞めていったのは、教えられたことを自己流に変えて発揮するエレインに、教えられたことは変えずに覚えなさいと、教えた通りにするまで言い続け、エレインが人前で自己流を披露せずに王太子妃様らしい振る舞いをやれるまで、を目処とし、去就により、教育係としてエレインとの今後の付き合いはしないという判断をエレインとエレインの教育係に決めた尊い方に伝えるためにやった?


教育係の去就の話がお貴族の間で広がったら、エレインを王太子妃らしくさせるための人の用意が難航するのも分かる。

王太子様が、王太子妃様の意向を優先しない人達を王太子妃様の側に配置された理由が、エレインの自己流にあるとしたら、僕、心の中で王太子様を責めすぎていた。


僕、仕込まれて悪にされることだけじゃなく、まかり間違って、エレインの幼馴染として連れて帰られないように頑張らないと。


僕は、僕の村で村長をしていたい。ソロアと子どもを育てて、僕は僕の生まれ育った村で思い描いてきた村長になる


僕のソロアは、自分のしたいことだけを自己流で進めるようなことは決してしない。

僕と結婚すると決まった日から、ソロアは僕の夢を一緒に叶えることも含めて妻になった。僕の妻としても、村長の妻としても、ソロア以上の人はいない。

ソロアは、僕の人生で最高の巡り合いだった。

マルク様には、本当に感謝している。


マルク様といえば。今日の王太子様は、十年前と違って三人組じゃなかった。マルク様もだけど、もう一人いた銀髪と緑の目の細身のお貴族様も一緒にいない。

王太子様の後ろを見てみた。やっぱり、マルク様はいない。

村人とは違って、村の中で生きていくわけじゃないお貴族は仲良くしていても、大人になったら一緒にいなくなるのかも。


エレインは可愛いかったけれど、エレインが村娘で、今のような振る舞いをしたら、村長として可愛いとは言っていられない。

王太子様は、何を考えて、エレインが王太子妃様になるのを良しとしたの?


「エレイン。この場には私がいる。覚えなさい。」

王太子様にはっきりと叱られたエレインは、不満を顔に見せながらも、許しますと言った。

「デニス。エレインの発言を釈明せよ。」


「私は、村長です。村長の息子として生を受け、村長になることに夢を抱き、夢に向かって邁進する中で縁を得て、私の夢を応援する妻との結婚に至りました。本日は、村長として、妻の助けと前村長の父や役付きをはじめとする村人と力を合わせ、王太子殿下と王太子妃殿下の視察先として、両殿下をお迎えできたことを光栄に存じます。王太子妃殿下は幼馴染として、私を近くにご所望になられていますが、私はまだ妻子と共に夢の途中におりまして、村を離れることは考えられません。」


「デニスは私と来ないと言う気?」

エレインが話しの途中で割り込んできた。せっかくの僕の考えを話す機会。エレインに遮られて最後まで言えなくなって、エレインの勝手な解釈で話が変えられてしまったら?

「王太子様。続けてもよろしいでしょうか?」

焦りが顔に出ないように、神妙な面持ちを維持しながら、お許しを待つ。

「デニスは、デニスの役割にないことをしないでよ。役割にないことをキャラがやり出すと、おかしくなるんだから。」

エレインが、また分からないことを言い出した。

「許す。デニスの釈明が先だ。エレインは黙って聞きなさい。」

王太子殿下の許可を得た僕は、熱意と誠意と意欲を静かに漲らせるように話すというソロアの助言を頭の中で復唱した。神妙な表情はここでおしまい。

「村長として村を守り、家族と村人と共に村で暮らし、子孫を見守ることこそが、村長として生きる私の喜びでございます。」


「デニスはエレインの望みとは違うことを言うか。」

「おそれながら。」

「ふむ。デニス。この村には何がある?」


王太子様のゆったりとした口調とはうらはらに、王太子様の連れてきた人達の間にピリッとした緊張が走る。

「おそれいります、何があるとは、具体的に何のことでございましょう?村人の私が、尊い方の愛飲される茶葉で淹れられたお茶を見ることがないように、村人の私には不思議でないものが尊い方には珍しいと感じられるものがおありだと想像してはみましたが、何をお指しになっているのかを推察申し上げるのは、大変難しく。」

僕は、慎重に言葉を選んだ。ゆっくりと考えながら紡ぐように言葉を繋げていく。


「デニス。エレインは、この村の生まれで、十二歳までこの村で育っている。」

王太子様の確認するような口調に合わせて、僕もゆっくりはっきり話すことを意識する。

「はい。エレインはこの村の村人夫婦の娘として生まれ、十二歳までこの村で育っています。」

「デニス、正直に答えるといい。この村は、何を隠している?」

王太子様の質問の意図がまだ、僕には分からない。

「おそれながら、王太子殿下は、エレインがこの村で生まれて十二歳まで育ったことについて、何かご懸念されていることがおありなのでしょうか?」


何を問われているのかが分からないときは、正解を見つけるまで質問で会話を引き延ばす作戦。


「十年前に辺境伯領の町で、口論しているデニスとエレインを見つけたのは私だ。私が辺境伯領のあの町にあの時間にいることは、私の護衛のためについてきていた一部の辺境伯家の者にしか知らせておらず、アーレンドルフではなくアーレンと呼ばせると決めていたことも当日まで伏せていた。」

王太子様は、僕を見て、僕の反応を見ながら話すことを決めている様子。


王太子様から黙っていなさいと言われたエレインは、王太子様と僕の会話に興味なさそうだ。一人だけ、ティーカップを持ち上げて、お茶の香りを楽しんでいる。

「十年前、町で初めて会ったエレインが私のことを何と呼んだかデニスは覚えているか?私は忘れたことはない。」


エレインは、お茶を一口飲んでニコニコ。

「私との出会いが忘れられないなんて、アーレンドルフ様は、もう。本当に情熱的な王子様。」

王太子様からの愛情だと惚気ているエレインとは対照的に、王太子様は、エレインを横目で一瞥しただけ。


「デニス。私が、町歩き中はアーレンと名乗り、アーレンと呼ばれることは、私が町歩きに出発したときに初めて徹底されたことだった。」

「アーレンドルフ様は、その話がお好きですね。何度も私に聞いたのに、まだ足りなくて、デニスからも聞こうなんて。」

あっけらかんとしているエレインは、王太子様の質問の意図が分かっていない。僕は嫌な汗をかきそうになっていた。王太子様が何回もエレインから話を聞いたという理由は、ご自身が恋に落ちた瞬間の思い出話をエレインの口から聞きたいわけじゃない。


高まる周囲の緊張感が、僕の予想を、当たりだと告げてくる。

「町で初めてあったエレインは、私をアーレンと認識していて、アーレン様と呼んできた。さらに、アーレンという名前が有名だと言ったのもエレインだ。」

「アーレンドルフ様。私、嘘は言っていません。アーレンドルフをアーレンにしたのは、短い方が呼ぶときに便利だからですよね、と聞いたとき、合っていると私に教えてくれたのは、アーレンドルフ様です。」

エレインは、一人だけ訳知り顔。


「この村に住む村娘のエレインが知り得た情報は、この村の誰がどこから抜いてきた?心して答えよ。」

王太子様の話し方は変わらない。僕、血の気が引きそう。十年前の十二歳のエレインの言動が引き起こした疑惑に気付いていないのは、エレイン本人のみ。周囲の緊張感は高まっていくばかり。


ソロアは、王太子様と王太子妃という権力者の一存で村がなくなるかもということを危惧していた。


僕だけじゃなく、僕の村の村人全員が今、権力者の一存で葬り去られる危機にいる。


しでかしたエレイン本人は、自分のしでかしたことの意味を理解していないと王太子様に判断されたから、気付かないままで今も暮らしている。村娘じゃなくなって王太子妃様として。


今、王太子様が直々に取り調べをしているのは、どこからか抜かれた内密の情報をべらべらと喋った十年前に十二歳だった村娘のエレインじゃない。


王太子様はエレインじゃなくて、僕の村を怪しまれている。だから、村長の僕が取り調べをされているんだ。


十年前、エレインとの結婚を考えていた幼馴染で、エレインと一緒に町に来ていた村長の息子だった村長。

それが僕。

何も知らないわけがないと取り調べが始まった。

けれど、今日の僕はエレインの話していることのうち、半分くらいしか理解できていない。十年前、エレインが王太子様の三人組に言った内容で僕が知っていることなんて、一個もない。十年前も今も、エレインの発言内容はエレインだけが知っていたことで、僕は何も知らないことを僕以外にどう説明する?

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