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君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


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4.僕にしかできない職業

ソロアにザクッとぐうの音も出ないくらいにやり込められた僕は、ため込んだ不満を皮肉にして出さなくなるまで、ソロアと話をした。ソロアのすることにダラダラと不満を持つより、僕からソロアに協力を求めると考え方を変えて心がけていくうちに、ソロアとソロアの実家ともうまくいくようになっていった。

ソロアとの間に子どもが生まれて。

子どもの誕生を妻と喜び、妻の親戚に元気に育てと祝われ、父親らしくしようとする僕にホッとした顔をするようになった両親の姿を見たとき。

僕は良い結婚をした、と思った。

エレインのことを思い出しても、エレインは遠くにいったと思えるようになっていたころ。

僕の村に先触れというものが届いた。


「王太子様が王太子妃様と僕の村に視察に来る?」

先触れの内容があまりにも、突拍子のないものだったので、僕も僕の父も、役付きの村人達も意味がわからないという顔をしてしまった。

僕の村には、先触れを出してくるような貴人の興味を引くものなんて置いていないのに、何をしにお越しになるのか。

先触れの話に、ソロアだけは違う反応をした。ソロアは、実家に助けを求めると即決した。


「王太子様と王太子妃様は、何を視察したいんだろう?」

僕が首を傾げていると、妻は、今から説明する話を危機感を持って飲み込んでください、と全員を見渡してから説明した。


「王太子妃様が、あなたの幼馴染であなたと結婚する予定だった村娘だからです。」

「何がどうなったら貴族様に連れていかれた村娘が、王太子妃様に。」

父が思わずこぼした感想よりも、僕は気になっていたことがあった。

「エレインは王太子妃になったから、僕の村の悪口を言いふらしたことを反省して謝りにくるの?」

僕の村の悪口を言ってごめんなさいと謝りにくるというなら、拒否するわけにもいかない。

謝りにきたときに、僕の村についての悪口は貴族社会で訂正しておいてくださいとお願いしよう。

王太子妃にまで上り詰めたら、さすがに、僕の村の悪口を言いふらしている場合じゃないと思う。


「王太子妃殿下に謝罪の予定はありません。旦那様が、王太子妃様とまだ結婚したがっているということを確認しにくるんです。」

妻の発言に、僕以外もポカーンとしてしまった。

「「さすがに、それはない。」」

役付きの村人達が即座に否定する。

「僕は結婚して、子どももいるのに?」

「王太子様と王太子妃様が結婚されたのが、おおよそ一ヶ月ほど前だからです。」

うーん、僕の理解が追いつかない。


「僕の同世代は皆結婚しているけれど、王太子様は僕達より年下なの?」

「いいえ。平民の村娘に王太子妃を名乗るだけの教育を受けさせるにはそれだけの時間がかかっただけです。」

僕の村は辺境伯領。ご領主様は、辺境伯様。ソロアは、ご領主様の一族に仕える平民。ソロアの主人のご令嬢はご領主様のお嬢様、つまり、辺境伯家のご当主様の娘さん。

「略奪と聞いたんだけど、平民の村娘が、王太子妃になるはずの貴族のご令嬢から王太子を略奪したってことで合っている?」

「そうです。」

辺境伯領の村に住む村娘が、辺境伯家の

「そんなこと、できる?できるから起きたことなんだろうけれど。」


「村から連れ出された平民の村娘を面白がられた方が、私の主人の妹として養子にとるように主家に要求され、村娘は貴族の養女として、貴族社会に顔を出すことになったのです。」

村娘に略奪の機会を与えたのは、その面白がられた方のせいでは?

僕らのご領主様よりも上におわす方の気まぐれが、原因だと僕は主張したい。

「村娘が貴族の養女に入った家の貴族の実子にあたるご令嬢の婚約者を略奪して破談にさせて無事でいられるなんてあり得る?」


「王太子様が、主家の養女になった村娘を強くお望みになったので、主家は王太子妃の実家として変わらぬ権勢を王家と取り付けてから、主人の婚約解消を受け入れました。」

「貴族様のなさることに口を挟むことはしないが、何とも言えん。」

父の呟きに、役付きの村人も同調する。

「平民の村娘が王太子妃。」

「元平民です。他で言うときは特に言葉遣いを間違えないでください。不敬罪で罰されます。」

ソロアが注意する。

「王太子妃にまで上り詰めた元村娘に来られても、うちの村では接待しようがない。」

「接待するためのものがそもそもない。」

役付きの村人達が困った顔になる。


「私達がすることは、接待じゃないという説明を今からしますので、脱線せずに聞いてください。」

役付きの村人を見渡してから、いいですね、とソロアは僕に念を押してきた。

「あ、はい。」


「王太子妃の交代は、貴族の中でも醜聞になりました。元平民の村娘が恩を仇で返して略奪したことを快く思う貴族はいません。」

「主家に村娘を押しつけた方もですか?」

「主家に村娘を押しつけた方は、押しつけた当時、私の主人の婚約者でいらっしゃいました。」

ソロア以外が、しーん、と静まり返った。


「婚約者の家に気に入った平民の村娘を養女にとらせて、その養女と婚約者だった貴族のご令嬢に婚約者を交代させたのが王太子様?」

「王太子様を略奪する村娘なんて聞いたことがない。」

「村娘に略奪される王太子様が何人もいる方が、国として心配だから、まあ。」

役付きの村人達がざわざわと話し始めたけれど、ソロアの次の台詞でまた静かになった。


「女に溺れてしまっていても、王太子様は今も王太子様です。」

「元村娘でも貴族のご令嬢と結婚しているから、王太子様は貴族との結びつきを蔑ろにしたことにはならないのか。」

父は、王太子様の根回しに感心している。

「現時点では、廃嫡になってもいませんし、継承権を放棄されたりもしていません。」


「王太子様と王太子妃様がわざわざ、僕の村に来て、幼馴染だった王太子妃様とまだ結婚したいかどうかを確認したい理由が僕には分からない。」

「お二方とも不人気なので、お二方よりも人気のないところにいって、評判をあげようとしているんです。」

「王太子様と王太子妃様が来たら、僕の村の評判がさらに悪くなるということ?お越しになるのを断れないかな?」


「私達には断る理由がありますが、王太子様と王太子妃様には、断られる理由がありません。」

「どうしよう?」

「このまま何もしないでいたら、王太子様と王太子妃様の人気取りのために、村人も含めて村ごとなくされてしまいます。」

「僕の村は、いったい何をされるの?」


「何をされるかは当日まで秘匿されることなので、私達は、王太子様と王太子妃様の横暴に負けないための対策します。」

「僕は、何をしたらいい?」

「あなたは、今から村長になってください。」


妻の提案に、部屋の空気が冷える。

僕の父は現役バリバリで、父が村長になってから村で大きな問題は起きていない。何の落ち度もない村長をしている義父に退いて息子に継がせろと、何の相談もなく、いきなり嫁が要求したんだから、会議も凍る。

「僕の村は、父が村長だよ?」

いきなりぶちまけてしまったものは、仕方がない。村長の息子の妻として会議に参加しているソロアは、村人が知り得ない情報を元に話をしているていなので、会議中に発言して終わりにはならない。僕は、この場でソロアに理由を説明するように促した。


「お義父さんには、村長を退いて前村長という立場で、あなたという新しい村長を支えてもらいます。」

ソロアの説明を聞いても、僕は、ソロアが村長の交代を提案した意味が分からない。

「父が僕を支えるなら、村長を交代しなくても良くない?」


「対外的に、お義父さんでは村長として強く出られません。」

ソロアの言い切りに、父と役付きの村人が難しい顔になった。

僕だけが分かっていないの?

「僕の方が強い村長になれるということ?」

僕が村長になるときは、強さを期待されているなんて初めて知った。

強い村長を目指してきたから、強い村長になるとソロアに期待されているのは嬉しい。始まりは、僕だけの願いだったから。

「王太子様と王太子妃様が王太子妃様が村娘だった村にこだわっているのは、王太子様別の人と結婚しても、あなたと村娘だった王太子妃様の関係は円満に終わっていないと王太子妃様が考えているからです。」


「僕が、もう君には興味がないとエレインに伝えないといけないということ?王太子妃様に言っていいこととは思えないんだけれど。僕の父から、息子は幸せにやっていますのでお気になさらず、と遠回しエレインの周りの人に言ってもらう方が良くない?」

十年も前の話を今さら蒸し返すの?

十年前にフラレた当時ならまだしも。

十年経って、フラレた男が、もう君には興味ないとフッてきた女の子に言うのは、おかしくない?

どっちも既に別の人と結婚しているという理屈は、尊い身分になると通じないの?


「お義父様が村長として、息子はもう王太子妃様とどうにかなりたいと思っていませんと王太子妃様や王太子様に伝えたら、余計に揉めます。」

「村長が息子について話すことを疑ってかかるの?」

ソロアは、はい、と言った。

「王太子妃様にはもう興味がないという返答は誰がしても、王太子様と王太子妃様が求めている答えじゃないからです。」

求められている答えが、いつまでも好きでいてほしいということなら。

「まだエレインと結婚したいと思っているという嘘をついたらいいの?」


「まだ、結婚したいと思っているなんて言った日にはその日の内に、村がなくなります。」

「望む答えを言っているのに?」

どうして?


「王太子様と王太子妃様は、不穏分子を見つけ出して処刑し、王太子と王太子妃として国に貢献したという実績作りを必要としているからです。」

妻の声だけが響いている。

「王太子妃様と結婚する気はないと答えたら、不敬罪で、まだ王太子妃様と結婚したい気持ちがあると答えたら、不穏分子として村ごと消されるなんて、いったいどうしたら。」

「王太子様や王太子妃様への強気な対応は、私を妻に求めた旦那様が村長になってこそ可能になるのです。」


父と役付きの村人の視線がピリついた。

「父が村長のままじゃ、僕の村も村人も助けてもらえないの?」

「私の実家や私や旦那様でお義父様を支えても、王太子様には勝てません。旦那様が村長になって、王太子様と争わずに、王太子妃様に勝ちにいけば、破滅を回避するための筋道を作れます。」

ソロアは、堂々としている。


「僕が村長になったら、勝ち目ができる?」

「勝ち目は自ら作りにいくものです、旦那様。」

ソロアの目は、僕だけを映していた。

ソロアは、僕が村長になってやりたい夢を叶える僕に期待している。

村長の息子として、次の村長になる者として、生まれに恥じないように生きてきた僕だけど、一心に僕に期待している人が僕の妻だなんて、僕はどれだけ恵まれているんだろうと、ソロアと見つめ合ってしまった。

会議中なのに。


「まだ死にたくはない。息子に村長を交代しよう。」

父はあっさり、僕に村長を譲った。

父には父の考えがあったのだろうけれど、その場で父は口にしなかった。

僕も聞かなかった。

父も僕も、村長の家に生まれ、村長になるために生きてきた。

会議で口にしない話は、会議中にしてはいけない話だと僕は知っている。

「僕が村長になる。」

今日、何の準備もせずに就任した初めての村長が誕生した。

「そうだ、今からお前が村長だ。」

父の後押しを得て、僕は父と座席を交換する。

さあ、新村長として、初めての仕事だ。

「役付きも、前村長の父と力を合わせて、これからは新村長の僕を支えて。僕が村長になったからには、王太子妃様対策を徹底して、村も村人もいいようにはさせない。」

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