24.王太子様の友で部下のマルクが調べ上げたのは、辺境伯領内の。
マルク様が、辺境伯家の実子様に迎合するようなことを話さないのは、マルク様の性格?
「メザリヤ様のおっしゃる通り、ソロアの助けがなかったら、デニスと村人の暮らしぶりは今のようになってはいませんが、ソロアと結婚したからといって、デニスや村人のように振る舞えるとは限りません。」
「マルクは、やけにデニスの肩を持ちますね。」
辺境伯家の実子様の声音で気づいた。マルク様の発言に賛成していないことを直接言葉にしないために、僕を褒めるマルク様の発言に噛みつくような話し方をされているんだ。
「メザリヤ様。辺境伯領の中の開拓民が拓いた村々の文官になられて目を向けられることも増えたことでしょうからお話します。開拓民の拓いた村々の数が減り続けている中でも、デニスの住む村は持ちこたえてきました。」
マルク様の発言で僕は確信を持った。ソロアもマルク様も、辺境伯家の実子様の言うことに追従したりしないのは同じ。辺境伯家の実子様との会話の全てが、辺境伯家の実子様に寄り添うものとなっているソロアとはマルク様は違う。マルク様は、辺境伯家の実子様に寄りそおうとされていない。王太子様が友で部下だと言う通り、辺境伯家の実子様とソロアと親しく話し込んでいながら、一線を引いている。
辺境伯家の実子様もソロアも、マルク様が辺境伯家の実子様やソロアと一線をひいていることに特に思うこともなく一緒にいる?
王太子様と辺境伯家の実子様とマルク様とソロアは、四人でいて、四人で笑い合っていても、四人が一つの集まりじゃない。
王太子様とマルク様の繋がりは、王太子様の命じていないことをしたとして、王太子様より罰を与えられたマルク様は、当然のことだと受け止めて、禊の期間を過ごし、王太子様の元に復帰してくるぐらい、簡単に切れないもので。
辺境伯家の実子様とソロアの繋がりも、距離が離れたからといって切れるものじゃない。
王太子様と辺境伯家の実子様は、結婚を前にしても、二対二の関係で、結婚してからも、まとめて四にはならない。
僕とソロアが、夫婦として二人で一つなことを思えば、王太子様が辺境伯家の実子様の側からソロアをどかしたかった理由が理解できそう。辺境伯家の実子様とソロアの結びつきが強すぎて、王太子様がソロアに嫉妬するあまり、ソロアを排除したいというお考えに至った理由は、ソロア本人にあるんじゃない。ソロアを手放したくないとお考えになっている辺境伯家の実子様の側におありだ。
ソロアの辺境伯家の実子様への寄り添いは、辺境伯家の実子様にとって、王太子様と夫婦になることより、ソロアが側にいることを重視されているなら、辺境伯家の実子様と結婚して王太子妃になさりたいとお考えの王太子様にとって、ソロアは邪魔者になってしまう。
ソロアを手放したくないという辺境伯家の実子様のお考えが、ソロアへの依存でないかという疑いを向けられてから、由緒正しき辺境伯家から王太子妃になられたメザリヤ様を平民出身の侍女が操れることを否定しても、王太子妃としてメザリヤ様についた傷は消えない。疑いを持たれた時点で、王太子妃メザリヤ様が気心の知れたソロアを近くにおくことは一生かなわなくなる。ソロアが貴族の出自であれば、持ちつ持たれつの関係がある限り、疑いは芽生えて噂載っても、追い落とされるまでにはならない。ソロアは平民だ。エレインと同じく、平民に家の後ろ盾はない。ソロアに向けられた疑いをソロアが一人で晴らせなければ、ソロアは王太子妃メザリヤ様の侍女としていられない。ソロアを助けようと主人が動いて成功すれば問題ないけれど、成功しなかったら、王太子妃メザリヤ様の足元は盤石でなくなる。王太子妃メザリヤ様の失態は、王太子妃メザリヤ様にとっても、王太子様にとっても痛手だ。
賢いと認めているソロアを王太子妃となる辺境伯家の実子メザリヤ様から引き離そうと画策されたのは、メザリヤ様が王太子妃となられたときに、王太子妃としての足元を危うくするようなソロアをメザリヤ様から手放すことはせずに一緒に足元をすくわれる未来を回避するため?
マルク様が、王太子様の命令にないソロアとの婚約解消に踏み切ったのは、ソロアをメザリヤ様から引き離す手段が王太子様の計画するソロアの死であることで、王太子様と辺境伯家の実子様の関係構築が無理になるのを阻止するためだったと考えると、禊の期間後の復帰の説明の無理がなくなる。
ソロアが辺境伯家の実子様の側にいる限り、辺境伯家の実子様は王太子様に心を開かない、とまではいかなくても、辺境伯家の実子様ご自身がソロアに依存している自覚をお持ちじゃなければ、辺境伯家の実子様ご自身のお考えをご本人から聞けないと感じられていた?
王太子様の話の補足をしてくださる形になっていることをマルク様に感謝すればいいのかは、まだ分からない。
僕は頭を下げて、跪いた姿勢のまま、マルク様のお言葉をありがたく拝聴している。
辺境伯家に忘れられた開拓民の村を言及しているのが、王太子様の部下のマルク様。縁もゆかりも無い土地を開拓民に拓くように命じた歴史を王家は忘れていなかったんだ。
僕の胸は熱くなると同時に冷たくもなる。
国策だったのだから、もっと早くに目を向けてくださっていたら、失われていなかった土地と命が。
見放された村々が声を上げることを止めたことで起きた結果を、いくつかの村がなくなったとだけ受け止められている限り、村を捨てた開拓民の選択の苦悩や苦しみにまで行き着かれることはない。元々の領民ではない村人が開拓した税収のあがらない村なんて、領地経営では見るべきものがないとしか思われない?
僕は、村長の息子として、村を捨てる未来を考えながら生きてきた。村で生きてきた人々の時間が、過去も未来も含めてごっそりとなくなった後に村から出て生きている話を聞けば、取り戻せないことに悲しみを覚えるのと比べると、辺境伯家の実子様と僕の感情には天と地ほどの差がある。
過ぎ去った時間も、失った命も、もう戻らない。捨てられた村は、荒れるだけ。
開拓民の拓いた土地は、元々、実り豊かな土地ではないから。人の建てたものは、朽ちていき、畑だった土地はただの地面に戻っていく。
辺境伯領の端っこの村々を見て歩かれてから、僕の村にお越しになったのなら、ソロアとソロアの実家の力がどのようにして僕の村で活きたのか、マルク様にはお分かりだろう。
「開拓民の拓いた村の数は減ったのですか?」
辺境伯家の実子様のお言葉は、純粋な確認だったけれど、僕は信じられなかった。
ご領主の実子様が、自領の村々の数を把握していなかったなんて。歯を食いしばならないように、静かに己を保つ。兵士に一挙手一投足を見られながら、辺境伯家の実子様と王太子様の部下を前にひざまずいている僕が悔しさをあらわにすれば、どうなるかが考えられない僕じゃない。
辺境伯領の端っこの何も生み出さない村々が忘れ去られてきた事実を否定されないことが辛かった。僕が村長の息子として生まれたときから背負ってきた村を捨てる決断も、僕が村を捨てる決断をする日に備えようとしてきた父や役付きの村人達の苦悩も、この方はご存知でないのだと思い知らされる。
端っこの村々の窮状がご領主一族に全く届いていなかったということを初めて知らされるのが、今なのは、ことがそうなるように運ばれてきたから?
冷静になろうとするほど、疑問がわいてくる。
「メザリヤ様。開拓民の村からの税収が期待できないと分かってからの辺境伯家は、開拓民の村をあてにしなくなりましたが、開拓民も辺境伯家をあてにしなくなっています。」
マルク様のお答えに心の中でだけ強く頷く。
「開拓民は村を捨てて、逃げ出したのですね。開拓民の村に何かありましたか?」
辺境伯家の実子様のお言葉は、事実を確認するためのもの。
「メザリヤ様。開拓民が村を捨てて離散したのは、村に何かあったからではなく、村には何もなかったからです。」
マルク様の発言が、ご領主の実子様より的確で複雑な気持ちになってくる。
辺境伯領の端っこの村々を見て回られることが、マルク様の禊だった?
「村に何もなかったことが、開拓民が村を捨てた理由になったのですか?」
辺境伯の実子様の、開拓民が村を捨てた理由を理解するのに難儀されているお声を聞いて、ご領主様との距離を実感する。王家に押し付けられた人と土地は、いつからいらないものだったの?
「メザリヤ様。開拓民の村々からの訴えの記録は残っていますか?」
マルク様の問いかけは具体的だった。
「訴えがあった記録は、ありません。」
辺境伯家の実子様が即答されたことから、端っこの村々の歴代の文官の記録を把握してから文官仕事に臨まれたと分かった。自領についてのご理解の足りなさに、仕事をしないために文官に就かれたのかと疑ってしまった。
「メザリヤ様。訴えは確かにありました。デニスの祖父が村長をしていたときです。」
マルク様と辺境伯家の実子様は冷静に会話されている。ソロアと僕が夫婦という話題じゃなければ、辺境伯家の実子様は冷静さを失わずにいられたり?
「マルク、辺境伯家の記録にない辺境伯領の村々のことをどう調べました?」
「元々は辺境伯領の端っこの村々に住んでいた、村を捨てた複数の元村人達に話を聞くことができました。」
村を捨てた村人の暮らしは、マルク様から見て、村を捨てた村人だと一目で分かるものではなく、噂を聞いてたどっていってみなければ分からなかったと言われるようなものになっていればいい。
「村人が、辺境伯家の文官が記録に残さなかったという話をしていたのですか?文官が記録を残したかどうかを村人が知れたのですか?」
マルク様の報告を聞いている僕と辺境伯家の実子メザリヤ様との着眼点は、交わらない。
辺境伯家の実子様がマルク様の言葉に引っかかりを覚えられたのは、文官として働かれた経験から、村人が知るはずのないことは何かをご存知だから。
「当時の文官は、記録に残さなかっただけではなく、訴えにきた村々の代表のうちの何人かを村に帰していません。代表が帰らなかった村の村人は、村を捨てて散らばりました。」
マルク様の話を聞かれた辺境伯家の実子様は、短く返された。
「当時の文官を調べます。」
「メザリヤ様が調べても、何も出てきません。」
辺境伯家の実子様を見守るような声をかけているのは、ソロアじゃなくマルク様だ。
「マルク。わたくしは、辺境伯家の人間です。」
「メザリヤ様。当時の文官は、税を下げて支援をと望んだ村々の代表のうちの主だった者を騒乱を起こした罪で処しています。」
僕にも知らされていなかった昔話だ。父や役付きの村人が、僕の代で村を捨てることを是とするほどのことが起きていたんだ。起きたことを口に出せば、自分達も危うくなると分かっているからこそ、祖父ので口をつぐみ、父の代で村を捨てる準備を検討し始めた。
「文官になったわたくしにそのような話がきていないことは看過してよい事態ではありません。」
辺境伯家の実子様は、当時の文官を追求される気だ。
「メザリヤ様。デニスの祖父の代に、開拓民の村を開拓民だけで維持することは難しいと訴えた村々の代表が罪に問われて帰らなかった事実を追求すると、何もかもが台無しになると知っても事実を知ろうとなさいますか?」
辺境伯家の実子様が、マルク様が話されていることに耳を傾けておられるのは、話し手がマルク様だから?
「わたくしの領地です。わたくしは知っておかなくてはなりません。」
マルク様の丁寧な問いかけに即答されている。祖父や父の代の村人が僕達に引き継ごうとしなかった話を聞いて、僕が無事でいられるかは不安になるけれど、祖父が何と戦ってきたのかは気になる。跪いて頭を下げているだけで、耳を塞ぐことができない以上、僕は黙って聞くのみ。
「メザリヤ様。辺境伯領の端っこの村々から税を徴収していた当時の文官が、元々税収を期待していなかったような端っこの村々の税収を下げることと支援の望みを聞かなかったことにしたのは、当時の辺境伯領の統治状況ではのめない嘆願だったからです。」
マルク様の声は冷静だけれど寂しそうに聞こえてくる。
「マルク。デニスの祖父とわたくしのお祖父様の年齢が、大きく離れていたとは思えません。わたくしとデニスは同い年です。わたくしのお祖父様が当主のときに起きたことですね?」
「はい。メザリヤ様も何か、お分かりになられましたか?」
マルク様は、辺境伯家の実子様のお考えになることを見抜いた上で問いかけられている。
「お祖父様とお祖母様は、お若いときに体を壊され、お父様がお母様と結婚して間もないころ、わたくしが生まれてくる前にお亡くなりになったと聞いています。当家でお父様への代替わりが決まったころに起きていますか?」
ご領主の辺境伯家の代替わりがそんなに忙しいものだったなんて、僕は知らなかった。
辺境伯家に頼らないことを決め込んでいる村々では、ご領主様が端っこの村々に興味を示されないことの確認ぐらいしか、ご領主様についての情報集めはしない。辺境伯家のご領主一族について、どなたがご領主一族かを見極められるくらいの情報しか僕は持っていない。多くを知らないのは、知らなくても困らなかったから。
今からお聞きしていくお話は、辺境伯家の事情に踏み込んだものになる。辺境伯家の実子様がわざわざ足を運ばれた先の開拓民の村の村長が、たまたま居合わせたからと耳にしていい情報?
僕の脳裏に、王太子さまのお言葉がよみがえる。辺境伯家の実子メザリヤ様に言って、王太子様が僕を連れて行くことを問題ないようにするとおっしゃっていなかった?
辺境伯家の内情を聞かされてしまった平民の村長の口を閉じさせる代わりに、王太子様のところへ差し出す予定が組まれていたりしない?
辺境伯領の端っこの村々の中に、村人から捨てられた村がいくつもある中で、僕と僕の村はうまくやっているというお褒めの言葉から始まったマルク様の話の終着点は、どこ?
王太子様の部下として、僕がいる場で、敢えて、辺境伯領の端っこの村々から辺境伯家の内情へと繋がる話をされているのだとしたら、僕には口を挟ませない状態で、辺境伯家の内情を聞かせること自体が、今日の王太子様の計画に入っているのでは?
王太子様の深謀遠慮を怖がったとて、僕にできることは、大人しく耳を傾けることだけ。
どうしよう?僕はソロアから引き離されてしまうの?僕とソロアを引き離したがっているご意向をはっきりさせている方々は、お二人もいて、僕よりも決定権があり、僕をソロアから引き離すための力を行使することができる。
王太子様と辺境伯家の実子様が、ソロアの側に僕を置きたくないというご意向を明らかにした状態で、王太子様が僕を連れて行かれた場合、王太子様に嫌われていたエレインと同じ場所に僕は立つことになる。
王太子様に連れられて貴族社会に入っていったものの、王太子様の意向を汲んだ貴族に受け入れられなかったエレインは、苦しみを打開しようとして、貴族になる前の繋がりにしがみつこうとした。エレインを苦しめたことが、僕の身にも起きるなんてゾッとする。
「ソロア。私が話すより、ソロアから話す方がいい。」
ソロアに話し手の交代を申し出るマルク様とソロアの反応は見ていないから分からない。自然にマルク様から話を引き継ぎ、優しい口調で辺境伯家の実子様に語りかけているソロアに、僕に対する他意なんてきっとないのに、何をしているわけでもないソロアに、ソロアの中にあるマルク様との距離感を教えられている気分になる。
「メザリヤ様。順序が逆なのです。メザリヤ様のお祖父様とお祖母様が相次いで倒れられ、メザリヤ様のお父様とお母様はご結婚時期をかなり前倒しして、ご当主となられました。」
辺境伯家の実子様は、ソロアの訂正を冷静に聞いておられる。
「ソロア。わたくしのお祖父様お祖母様は、元から健康を不安視されるような方々でしたか?」
辺境伯家の実子様には、病弱の家系かと念のために確認されているほど、健康を心配することがおありのご様子。辺境伯家の実子様ご本人は、病弱そうにしていらっしゃらないけれど、貴族様の真実はいつも闇の中だ。
「健康に不安はございませんでしたが、どなたを取り立てるかについて、一族内がまとまっていない時期が長くあり、辺境伯家が政治的に停滞していた時期です。」
「お祖父様が当主だったときは、辺境伯家当主は一族を掌握できなかったのですね?」
「何かを決めることや新しい決断は決まりませんでした。」
ソロアの説明を聞いて、辺境伯家の事情を理解しとしまうあたり、辺境伯家の実子様は、辺境伯家の中にいる方だと実感する。
「政治的な停滞の中で、元々予算がつく予定のない開拓民の村々に融通をきかせることは、一文官には厳しかったことでしょう。」
マルク様がさっと説明を補足してきた。
「開拓民の村々の文官は、左遷先の一つです。税を徴収する以外の権限はありません。」
あわせて、ソロアも説明を補足する。
「政治的に停滞して何も決まらないご領主へ上申してもご領主のところで止まるだけの嘆願を受けるよりも、税を減らすようにと嘆願してきた村人の首を刎ねる方が、辺境伯領に混乱をもたらさないという判断をした当時の文官の思惑通り、開拓民の村々は騒がなくなりました。」
マルク様の説明をお聞きになった辺境伯家の実子様は、村を捨てた村人への理解を示されていた。
「村人は騒がない代わりに、村を捨てる迷いをなくしたのですね。」
辺境伯家の実子様の理解は早いけれど、村を捨てる迷いがなくなったから村を捨てたと受け取られるのは困る。
「メザリヤ様が捨てられた村の数がいくつあったか現在把握していないくらいに、捨てられた村の税収は辺境伯家にとって微々たるものです。」
マルク様は、端っこの村々を見て回るだけではなく、辺境伯家の税収について調べ回っていた?
「微々たるものとして報告に載せなくなっていたから、わたくしは知らなかったのですね。」
辺境伯家の実子様は、ご自身が知らなかったのはなぜかに答えを見つけられて満足されていそう。
「辺境伯家にとっての微々たる税を治めるための収入を必要としていた村人が大量に村人でなくなっていく流れは止まりませんでした。」
マルク様のお言葉が、昔話から、辺境伯領の端っこの村々の今になった。
「何もない村だから、村人は出ていくのですね?」
「何もないのは、最初からですから、何もないことに村人は慣れています。何もなくてもできた生活が、年々苦しくなることに耐えられなくなり、村を捨てるのです。」
マルク様のご理解が嬉しい。同時に、ご領主一族のご令嬢より、王太子様の部下の平民の方が、辺境伯領の領地について理解されていることを素直に喜べない気持ちも増えていく。
「村人は、去年より今年、今年より来年の暮らしが良くならないと分かりきっている中で、ギリギリまで耐えてから、村を捨てていきます。」
「どうにもならないと思う前に、決断すれば村を捨てないで済ませんか?」
「メザリヤ様。何の決断でしょう?」
「隣村と助け合うとか。」
「共倒れになります。」
マルク様と辺境伯家の実子様の会話から、マルク様を通じて辺境伯家の実子様に何かを決断させたい王太子様の意図を嗅ぎ取れてくる。マルク様は、事実を伝えるためだけに、今、この場に来ているんじゃない。
辺境伯家の実子様相手に、辺境伯領内の辺境伯家の力が行き届かずになくなった村の話をしているのは、それをこの場で話すことに意味があるから。
辺境伯家の実子様。マルク様、ソロア、僕、兵士達。王太子様と王太子妃エレインを招く予定だった建物で、場を支配しているのは、唯一の貴族令嬢でいらっしゃる辺境伯家の実子様ではない。
王太子様の友で部下の平民のマルク様は、目的を隠しながら、目的に装用にしておられる。
「メザリヤ様。平民が家を出るときは、二度とその家に戻らないときです。戻ってきたときには、もう別の誰かが住んでいます。」
「わたくしの知っている移動とは違うのですね。」
「メザリヤ様が貴族令嬢であるうちは、帰る家があります。」
「マルク様。」
ソロアがマルク様を止めに入るも、マルク様は続けることを選ばれた。
「メザリヤ様。村を捨てた中で、どんな仕事でもできる村人だけが新しい場所での暮らしを始められました。村を捨てた村人全員が、新天地でのびのび暮らせたという事実はありません。」
「わたくし、お父様とお母様のようになれるつもりでいましたが、本当につもりでしたわ。」
辺境伯家の実子様の声の調子が変わられた。
「メザリヤ様。」
「マルク。この件については、わたくしに考える時間をください。」
「かしこまりました。では、別の話をしましょう。メザリヤ様が気にされていることをどうぞ。」
マルク様がおどけられると、肩の力が抜けたような笑いが辺境伯家の実子様から漏れた。
「エレインが生まれた村にもたらした影響について、まだ聞いていませんわ。」
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