表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

20.妻が元婚約者に会っているのを待つのは終わり!ソロアに好きを伝えにいこうと家を出たデニスが見た村の中は静まり返っていた。

王太子様は、頭の中で何かを整理されていたご様子。

「デニスは、私に惚気ているのか?」

「今が幸せですから、王太子殿下の恋の成就するまでの戦歴を聞けました。失恋のどん底にいたら、最後まで聞けませんでした。」

僕もはっきり言ってしまう。


「デニス。私の話の何を聞いて、その結論になった?」

「何年も相手にされなかった女性に結婚してもらおうと奮闘して、何年越しかで結婚にこぎつけることができた半生記としてお聞きしました。」


王太子様は意外そうにされている。

「私の話をただの恋バナだと受け取ったか。デニスに難しすぎるとは思わなかったな。」

尊いお方の買いかぶりは、平民にとって負担にしかなりません。買いかぶりが後から分かった場合、尊い方々を騙したとして平民が処されないとは言えません。僕に対する高評価は慎重になさってください。

「ちなみに、僕とソロアは、相思相愛まで何年もかけていません。」


「デニスは、幸せ自慢をしているのか?私に。」

買いかぶりをお止めになっても、僕を面白がっておいでだ。

「王太子殿下の結婚までの苦労は実って、結婚が決まったというお話でしたから。」


僕の話にお耳を傾けていただけている好機を逃すわけにはいかない。

「デニス。何が言いたい。」

「はい。結婚したい方とは時間がかかってなかなか結婚できずにいたときのお心のままでいらっしゃるから、さっさと結婚してさっさと人生を謳歌している私の幸せぶりが気に入らなくなり、部下を使って別れさせようということを思いつかれたのです。」


「私がデニスの幸せを羨んでいたと言うのか?」

「好きな人に好かれたいのに、応えてもらえないから外堀を埋めて結婚までこぎつけたけれど、肝心の好きな人の心が分からなくて、部下を使って八つ当たりされていらっしゃいます。」


王太子様は面白がっていらっしゃるけれど、王太子様のお連れになった人達から、無礼者を処していいですか、という雰囲気が漂ってくる。

「口の利き方には気をつけよ。」

僕が無礼者じゃないとは言わないけれど。外堀を埋めるだけが愛情じゃないと誰も進言しないの?

「王太子殿下は、ご領主様の実子様の愛を得るべく奮闘されるのが先ではないでしょうか?」


「ふむ。」

「王太子殿下は、お好きな方と結婚して夫婦になるだけで満足でしょうか?」


「申してみよ。」

「王太子殿下と心を通わせ、王太子殿下に寄り添ってくれることを欲されてはいないのですか?」

王太子様が椅子から立たれた。これで僕も動ける。動く口実ができた。


「王太子殿下。ご案内したいところですが、妻を安心させるために、私は妻の元へ先に向かいます。」

僕は立ち上がる。王太子様の次のお言葉を待つところだと分かってはいる。でも、もう待つのは限界。僕は迷わず戸口へ向かった。王太子様から遠回りになるようテーブルを回って。

護衛が立ちふさがろうとするのを王太子様が、よい、と短く言って止めさせなさる。

「失礼します。僕は、今から妻に好きだと言ってきます。」

「そうか。」

王太子様は、僕の好きにさせるおつもりのようだ。


「王太子殿下、好きな人に好きだと伝えたことはございますか?」

「メザリヤ嬢にか?」

「エレインが王太子殿下を好きだと伝えていなかったことに、僕は驚きました。」

僕から見たエレインは、王太子様が好きだから、強く出られなくて悩んでいる女の子だった。


「最終的に、そうでもなかったようだが。」

「エレインは、エレインが好きになった王太子殿下に自分を好きになってほしいあまり、自分から好きと言えないでいました。」


「デニスは、エレインをよく理解していたな。」

十二歳まで結婚しようと思っていたエレインが、僕ではない誰かと結婚したと聞いたときから、僕が幸せにできない分、僕が幸せにするよりもずっと幸せになっていると思いたかった。


再会したエレインは好きになった人と結婚して、不幸になっていた。好きな人に素直に好きと言えず、結婚したんだから、好きになってくれているはずだと思い込もうとして、好きな人に甘えてみては、思い描いたような愛され方じゃないとは言えず、結婚相手に悩みを打ち明けることもできないため、相談する相手もおらず、一人で悩み続けたエレインの出した結論が、平民だったときにエレインに惚れ込んでいた幼馴染の異性を相談役にしようだったと知らされたときに、エレインだけが好きでいる人と結婚して傷だらけになったエレインをこれ以上傷つけずに元気にさせたいと思った。


僕は大人になって、エレイン以外の人を見るようになり、ソロアと出会って結婚した。


それでも、僕を男として見ていなかった幼馴染がどれだけ可愛くて、どんな風に僕と過ごしていたか、どんな風にして僕は好きになったていたかを忘れたことはない。好きだったから、知っていた。


「エレインが意地っ張りだったのは、子どものころからです。」

エレインは可愛いから、意地っ張りでも良かったんだ。皆エレインが可愛くて構いたがった。

「村で一番可愛い村娘が意地っ張りでも、誰も困りませんでした。」

「村娘だったからか。」


「王太子殿下。エレインの意地っ張りが許されていたのは、村娘だったからじゃなく、村で一番可愛い女の子だったからです。」

「村娘でなくなったときに、エレインは村で一番可愛い女の子ではなくなっている。」


「集団の中の一番は、特別です。村娘じゃなくなったエレインは、村で一番可愛い女の子でもなくなったのに、村で一番可愛い女の子の生き方しか知りませんでした。エレインを一番可愛い女の子と誰も思っていない集団の中に入ったのです。一番可愛い女の子がするような振る舞いをするエレインが、新しい集団でうまくいくには。」

「デニスは、女社会に詳しいのか?」


「僕の妻のソロアは、村の中からではなく、村の外から迎えました。元から村の中にいたなら、村の中での振る舞いは育っていく過程で身についていたでしょうが、ソロアは、大人になってから、僕と出会っています。僕の妻になりにきたソロアが村の中でこまらないように立ち回るのは、外から妻を迎えると決めたときの僕の準備の中に入っています。」

「村の外から来たソロアが入ってきやすいように、デニスが女社会の面倒も見たのか。」


「両親の協力もありました。母の協力は無視できないものでした。」

僕が望んで、僕の家族も祝福している状態で僕と結婚したソロア。喜んでいるのはエレインだけで、誰にも祝福されない結婚したエレイン。ソロアは、僕がだめになりそうなときに僕との話し合いを持ちかけて、僕を支えてくれた。ソロアが僕といる生活をする中で、ソロアに変えていってほしいことを僕が伝えたのは、王太子妃エレインが来る直前になってしまったけれど、僕とソロアは互いの話を聞いたりしたり、と意思疎通ができている。


「僕から王太子殿下にお伝えできる恋にまつわる秘訣を一つ。好きになっても、好きな人は勝手に好きになってくれません。」

王太子様のエレインに対する態度は論外だけど、好きになったご領主の実子様に対しても、好きになってもらおうとする働きかけが足りていない。


「好きな人には好きになってほしいなら、先に好きだと告げるところからです。」

好きなら、好きと伝えないと関係性は動かない。動かない関係性は、いつまでも発展しない。


「デニスは、マルクと張り合う気か?」

誰とも張り合っていません。

「王太子殿下。僕はソロアの気持ちが僕にないなんて思っていません。」


「デニスの自信は本物か。」

愛を語って王太子様に関心されている?

「王太子殿下。愛に虚勢は必要ですか?」


「デニスは、マルクに勝てると考えているのか?」

マルク様を引き合いに出して、僕と勝ち負けをつけさせようという考え方を変えていだきたい。

「王太子殿下。僕は一人でマルク様に勝つわけじゃありません。僕にはソロアが、ソロアには僕がいます。僕とソロアは夫婦ですから。」


「私の周りでは見ないな。」

お節介を焼かれる側に聞く耳がないと、下手くそな恋にお節介を焼く気にはならないのでは?僕は、エレインの姿も見た上で、王太子様からがっつり把握させられてしまったため、言わずにはおれませんでした。


「王太子殿下。マルク様に失恋させたいから協力がほしいということでしたら、僕がいいという状況でのみ、マルク様がソロアに好きでしたと言うことを一回だけ認めます。一回だけ。僕の立ち会いの元。僕の見ている前でだけです。」


「マルクが失恋すると決めつけるのは、早くないか?」

「早くありません。婚約を解消してから何年もいなかった元婚約者が再び顔を出したくらいで、何年もソロアと夫婦を続けている僕に勝ち目があるとどうして思われるんですか?」


「デニスは、マルクがフラレると決めているのか。」

「私は、ソロアにフラレることを考えるほど卑屈に生きていません。」


「デニスは、逸材だな。」

どうしよう?どういうわけか、王太子様から高評価を得てしまった。

「マルク様とソロアの過去は、王太子殿下とご領主の実子様にお仕えしている生活が続く前提での未来でしたが、婚約者交代と婚約解消により、その前提は一度無くなっています。」


「デニスの自信の根拠を説明するのか?」

「前提が無くなった間も時間は進みました。初恋の人ではない人との縁が繋がったなら、新しい縁で時間は動いていきます。最初に結ぶはずだった縁が切れて、切れたままにしていて、すぐに元に戻れるのなら、その縁は切れていなかったということです。ソロアの命と将来のためにマルク様から切った縁です。切れていなかったから、ソロアは今日、僕の隣にいませんでしたし、王太子殿下が気になさることもなかったことでしょう。」


「続けよ。」

「王太子殿下、関係が元に戻ることはありません。関係を修復して立て直そうとするときは、それはもう、新しい関係が始まろうとしているところなんです。今の僕とソロアの間にマルク様が入る隙はありません。僕が入らせません。」


「もう、しまいか?」

「王太子殿下、人は恋に落ちたら、失恋して、自分の中で終わらせないと次に進めません。エレインは、自分で区切りをつけて旅立ちましたよ?」


「デニスは、そうやって終わらせたのか?」

「何のことでしょう?僕が愛しているのは、一人だけです。王太子殿下、僕は、僕が望んで結婚した妻を愛しています。」


王太子殿下は、話し終えた僕が部屋から出ていくときも見送るだけだった。


大丈夫だ。僕は家から飛び出した。


村の道を全速力で走る。喋りすぎて気を使いすぎて、エレインが服毒するのも目の当たりにして、疲れていたけれど、僕の疲れなんか後回しだ。


ソロア、ソロア、遅くなってごめん。

色々あったことを話す前に、まず会いにいくから。とりあえず、王太子様との話し合いは失敗していない。危機はひとまず去ったよ。


マルク様は、僕より六つ上。

十年前、マルク様に腕をつかまれたとき、僕は十二歳でマルク様は十八歳。マルク様に腕をつかまれた感覚は、しばらく僕についてまわった。マルク様と会うとき、つかまれた側の腕を僕はいつも気にしていた。そんなそぶりを見せないようにしてはいたけれど。


僕が二十二歳だから、マルク様は今二十八歳。僕は軟弱じゃない。体力はある。十年前のマルク様には手も足も出なかったけれど、今は?

マルク様が護衛として鍛えておられたとしても、僕だって無力な少年じゃなくなっている。もう、大人と子どもの体格差で負けたりはしない。僕はソロアを守れる。


エレインにも、王太子様にも知った風な口を利いたけれど、僕はまだ、ソロアに好き、と言っていない。

マルク様が好きと言う前に僕が先にソロアに言わないと。マルク様が先に好きと言ったら、ソロアも、私も実は好きだったかも、とか考えてしまうかもしれない。


娘時代に好きだったとしたら、それは仕方がない。ソロアの婚約者はマルク様だったから。マルク様は、僕より六つ上で、ソロアの四つ上。僕とソロアが出会ったとき、ソロアは四つ上のマルク様との婚約を解消して、二つ下の僕と婚約した。僕とマルク様は六歳差だから、娘時代のソロアがマルク様を頼りにするのは、分かる。娘時代のソロアからすれば、マルク様と僕は大人と子ども。


十年前、十二歳の時点でご領主の実子様との結婚に持ち込むための画策を始めていた王太子とご領主の実子様との出会いは、十二歳におなりになるよりもずっと前。ご領主の実子様の侍女のソロア。王太子様の友兼護衛みたいな位置にいたマルク様。二人が出会ったとき、僕より二つ上といえども、ソロアもまだ子どもだった。子どもの六歳差は大きい。ソロアの中に、マルク様は頼りになる大人だと刷り込まれていたら、僕はどこで勝負しよう?十年前、今二十二歳の僕よりも頼もしい振る舞いをしていたマルク様。王太子様から左遷されても禊が終わったから戻したと言われているマルク様が、十年の間に腑抜けた男になっているはずもない。


でも、僕は負けたくないんだ。マルク様が相手でも、他の男でも。二十四歳のソロアが二十二歳の僕と暮らすより、二十八歳のマルク様と暮らす方が、ソロアは安心できそうとか、誰にも言わせたくない。


出会ったころの僕とソロアの関係は、僕が結婚できる年齢になってからの紹介だったので、結婚相手として互いを見るところから始まっている。小さい子どものうちの二歳差は大きいけれど、大人になってからの二歳差なんてすぐに追いつく。ソロアが色々助けてくれたのは、僕との人生経験の違いによるところが大きいんだし。


大人になって村の中を歩き回ることはよくしているけれど、決まった場所を全速力で走り回ることはさすがにもうしていない。

歩き慣れた、見慣れた道を、息を切らして、心臓をバクバクさせながら僕は走っている。


走っていたら村の中の静けさに気づいた。村の広場から僕の家へ、王太子殿下と王太子妃エレインを案内していたときには目につかなかったものがいやでも目につく。


村の中には、見慣れない顔が増えていた。王太子様が着ていたような枯れ草色の上下と帽子に同系色の靴を履いた兵士がそこかしこに点在している。王太子様からの伝令が届いているのか、走っている僕を見ても、兵士は何もしてこない。王太子様が、僕の家の中にいる以上の人数の兵士を村の中に連れてきていたなんて、僕は考えもしなかった。


僕の家でした僕と王太子様とエレインとの会話も、広場交わしたエレインとの会話も、僕が何かを間違えていたら、村はもうなくなっていたと思い知らされる。

王太子が僕を安全だと判断された件は、僕に分からないように、家の外にいる兵士にまで伝えられている。


豪奢な死装束を着て話していたエレインがいた広場には、王太子妃エレイン御一行の人達が兵士と一緒に村人を監視している。王太子妃エレインに同行してきた人達は、おそらく、戦場視察にくる王太子様のための偵察兵だ。


広場に集まっている村人は、まだ、監視されているだけ。広場にいる村人は、誰も拘束されていない。今のところは敵意がないとの判断されたということだ。


ソロアのところに駆けつけたい気持ちは本当だ。心はずっと駆けている。


でも、僕は僕の村の村長だ。ソロアと一緒に目指した村長になった僕が、今、声を出さないのなら、いつ声を出す?

楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆、リアクションマークで応援してくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ