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君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


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2.君と僕の道が分かたれた日のことを僕は忘れない

君の変わりようがあまりにも極端すぎて、君をどうしていいか分からない。

「君は、どうしてそんな風になってしまったんだ。」

「何?いきなり。私が悪いの?」

「君は僕が悪かったと言いたいのか。」

僕と君は、互いに喧嘩腰になっていた。

「私と結婚してやるという考え方をする人と結婚して、幸せな結婚生活が始まると思うほど、私はお花畑じゃない。」

「君の頭の中がお花畑だとは思っていない。」

僕は冷静になろうとした。なのに君は。

「お花畑は、私の頭の中じゃなくて、あなたの頭の中だもんね。」

「今、君は僕を馬鹿にしただろう!」

「あなた、自分がお花畑脳だって自覚なかったんだ?」

君の僕に対するキツさの理由に思い当たることはある。


「君は、僕のことを虚仮にして楽しんでいるのか、村でやられたことを僕にやり返しているんだろう。」

君は、言葉を叩きつけてきた。

「私と結婚したいだっけ?私が村で何をされてきたかを知っていながら、私を助けることなく放置して、私が一人で泣いているところにいそいそとハンカチを持って現れるあなたと、あなたのお気に入りの女の幼馴染だというだけで私に嫌がらせをしてくる村の皆との間にどんな違いがあるのか説明してよ。」


僕は、君に言わなくてよいことを喋ってしまった。


「君じゃ、村長の息子と仲良くなれるはずがなかったんだ。」

僕から声をかけて、僕から仲良くしにいったから、君は僕と遊んでいられる。

君以外は、君と僕の関係も含めて理解していた。

君の周りを見ていたら、分かりそうなものなのに。

君は、何を見てきた?


「村長の息子に相応しくない村娘の私と結婚したいと思ったのは聞いた。私の何を見て結婚を決めたのか言ってみてよ。」

今こそ、君に伝えるときだと思ったんだ。だから、正直に言ったよ。

「君が可愛いから。」

僕の自信たっぷりの答えに、君は満足しなかった。

君は村で一番可愛いと言われてきた。君の可愛さは、可愛くないなんて誰も言えないくらいのもので、君が生まれてから、可愛いという言葉は、君のためにあるようなものになっている。

「可愛い以外には?」

不満気に歪めている顔も、君は可愛い。

「君が可愛いから、だよ。」

僕の正直な気持ちを言葉にして君だけに伝えるよ。

「可愛いは、私にとって当然だから理由にならないんだけど。ヒロインが可愛くないわけない。」

君が可愛いのは当たり前だから、可愛いが理由じゃ嬉しくないとはっきり口にする君を見たのは初めてで、僕は動揺してしまった。

「僕が君を可愛いと思った、は、僕が君と結婚する十分な理由になる。君の家は、お父さんもお祖父さんも、そのまたお祖父さんも、役付きだった人は一人もいなくて、僕は村長の息子だから。」


君は、可愛い顔に不快だという表情をありありと浮かべて僕を見ている。

不快という感情を表に出した君を村で見ることはなかった。

「村娘の中でも私は地位の低い村人の娘なのに、可愛い見た目のおかげで村長の息子のあなたの目にとまった、と言いたいんだ?私のこと、馬鹿にしている?」

僕は、見たことのない君の表情と君の口から聞いたことがない批判に戸惑いながら、一生懸命考える。


感情を伝えるのじゃなく、事実を説明すれば?

「僕は君を馬鹿にしていない。君も冷静に考えたら分かるよ。僕と君が結婚したら、君は村長の妻になり、君の両親は村長の義両親になるけれど、君や君の両親が僕や僕の両親にくれるものは何もない。」

僕の説明を聞いた君は、腕組みして僕を睥睨している。

僕の説明、君には難しかった?

村の中の状況で、誰の目にも変わりなく映る事実に絞って伝えたんだけど。

これで伝わらないなら、なんと伝えよう?


「あなたが結婚によって何かを得たいと考えていたのなら、最初から私が結婚相手じゃだめだったということじゃない。」

どうして君はそんな風に言ってしまう?

「だめじゃない。」

僕は君の言葉にかぶせるように否定した。

「最後まで言わせてよ。あなたのお父さんは、役付きの村人の娘と結婚して村の統治を安定させたとあなたは言いたいのよね?あなたのお母さんの両親があなたの結婚相手と友達選びにしゃしゃり出ていたのは、役付きの村人の娘と結婚したあなたのお父さんが嫁の両親の口出しを止めなかったか、止められなかったかだって話。」

正直なところ、僕は、君の勢いにびっくりしていた。

「僕の両親や祖父母について、君はそんなことを考えていたんだ。初めて聞いた。」

僕が見てきた君はいつも、笑っているか、泣いているか、だったから。

「今まで言ったことがなかっただけでうるさく思わなかったわけじゃない。あなたのお祖父さんが、あなたのお父さんと役付きの村人の娘とが結婚するのを認めたから、あなたのお父さんとお母さんは結婚した。村長一家のお家の事情が、跡継ぎに役付きの娘との結婚を求めているなら、先祖がただの村人でしかない私は、村長の息子として生まれたあなたの結婚相手にならないことなんて分かりきっているじゃない。本当に可愛いからだけで私を選んでいる?」

僕の心は熱くなった。

君の台詞の最後の一文に、感動のあまり打ち震えた。

僕の村長の息子として日々考えていることに君が興味を持ったと思った僕は、絶好の機会だと飛び付いた。


「僕達の村は、役付きの村人の娘との結婚を繰り返したせいで、村長の権威が代を重ねるごとになくなっている。」

村長の息子として感じてきた不安を僕は初めて口に出した。

君に聞いてほしかった。

君が興味を持ってくれた。

僕が君を選んだ理由に君は気付いた。

君から尋ねられたのが、誰に問われるよりも嬉しかった。


そんな幸せの最高潮にいた僕の気持ちをひっくり返して地面に叩き落としたのもまた、君だった。


「階級で上下に分かれていたものを結婚で横に並べていくようになったら、血筋で決まっていた権威があっという間に横並びになったのは、当然じゃない。」

君は、僕の不安に理屈を返してきた。

理屈は僕も分かっている。

僕が君に求めているのは、理屈をこねくり回すことじゃなくて、僕の。


「僕は、役付きじゃない家系に生まれた、村で一番可愛い君と結婚して、村長の威厳を取り戻し、村長を村を治める一番偉い人に戻したいんだ。」

「私が可愛いのは当然なんだけど。あなたにとっての私の価値は、可愛さしかないの?」

君の可愛さがどれほどの意味を持つのか、君は、まだ分からない?

「僕と君が一緒にいられたのは、君が村で一番可愛いからなんだよ。」


「可愛い娘が嫁に欲しいなら、私じゃなくていいじゃない。役付きの村人の娘じゃない可愛い娘と結婚したかったのなら、領主一族から嫁をもらえば?貴族のご令嬢は絶対可愛い。」

君の突拍子のない思いつきを前提に話は進められないから、現実を伝える。

「僕達の村に、領主様は来ない。」

僕が村の中で領主様のお姿を拝見することは、これまで一度もなかったけれど、それは僕の村で問題が起きていないことの証左だから、僕は誇りに思っている。


「私と結婚したら、権力のあるうるさい義両親の代わりに権力のないうるさい義両親が出来るだけだじゃない?」

僕と結婚することに否定的な想像をしているようだけど、君の心配したようなことは起きない。

君の心配の種は、今すぐ取り除くよ。

「君の両親は、君が心配するようなことを絶対にしない。」


「別に心配したわけじゃないけど。あなたが、私の両親の何を知っているのかをまず教えてよ。」

「君の言っている心配は、君の両親が、村長の父や村長の息子の僕に楯突くかどうかだろう?」

「楯突くって言い方、下に見られて嫌。」

「君には嫌な言い方でも、はっきり言った方が君には分かりやすくない?」

「嫌だけど、とりあえず聞く。何?」

「君の両親では、僕にも僕の父にも何も言えないよ。僕も言わさないし。」

「両親についてのあなたの考えは分かった。それで?あなた、私のことはどう考えている?」

君と二人きりになっても、なかなか、君に伝えることができなかった僕と君の未来について、やっと、僕の口から君に話せる。

これから言う言葉は、これまでに、胸の中で何回繰り返しただろう。

僕は、自然と一番の笑顔になっていた。

「君は、僕と結婚して妻になり、村長になる僕を助けるんだよ。」

君に言いたかった言葉を全部、君に伝えられた僕の心は躍っていた。


「あなたが結婚相手に困っているのは分かったけれど、私の答えは変わらない。あなたと結婚してまであなたを助けたくないから、あなたは一人で帰って。」

君の口から出てきたのはあまりに的外れな回答で。僕は顎が外れそうになった。

「僕は君に誠実に話をしたのに、君の答えはそうなるの?」

言葉を尽くして説明したのに、君には一つも伝わらないなんて。

「あなたは、動くのが遅すぎ。」

「遅くない。僕と君はこれからだよ。」

「私、あなたと私がそういう仲になる話はしていない。もっと早く、あなたが私に助けて欲しいと思ったときに相談していれば、私は、あなたと一緒に知恵を絞って考えてあげられた、と言っている。」

「村長の息子の僕がまだ答えを見つけていないことなのに、村娘の君に考えてもらってもどうにもならないことなんだ。」

「私は乙女ゲームヒロインだから、この世界で起きている問題を解決できる手段くらい思いつける。」

君は自信満々に話す。その自信の根拠が何なのかが分からないけれど、答えが分かるというのなら、君の答えを聞いてみたい。

「僕の話を聞いてみてどうだった?今の君は何か、答えを持っている?」

「すぐに解決策が出てくるような問題なら、問題になる前に解決している。時間がかかる問題を私に拒絶されるまで相談してこかったあなたが悪い。」


「君は相談しろと僕に言うけれど、これまでの君に相談したところで、君に何が出来た?一人で泣いているばかりの君に。」

僕は言わずにはいられなかった。

「泣いてばかりが私の当たり前になる前に相談してくれていたら、私だって泣いてばかりにならなかった。」

「泣いてばかりにならなかったと言えるのは、今、村から出ているからだろう?」

「私が泣いてばかりだったのは、私が一人でやり過ごすには泣くしかなかったからなのに。あなたは、私を可愛いと見ていたくせにそんなことも分からなかった?」

「君が泣いても解決したことはなかっただろう?」


「私に意地悪する人は、私が泣いたら、あなたがハンカチを持って来ると皆知っていた。あなたの姿が見えたら、泣いている私を置いて皆いなくなる。毎回そうだったのに、分かっていなかったなんて、あなたはどこから何を見ていた?」

「次の日も君は泣かされていたんだから、何も解決はしていないよ。」

「解決する方法はあったけど、私じゃ出来なかった。泣くのがその場しのぎだと分かっていても、私は続けるしかなかったということを言っているのに。本当に、何が問題なのかすら分かっていない?」

君は、何度も僕が分かっていないことこそが悪だと言ってくる。

「解決する方法を知っていたなら、君こそ、すぐ、僕に相談すれば良かったのに。」

君から僕に働きかけることが大事だったんだよ。

村長の妻は、自分から動けないと務まらないから。

泣いて慰められるだけじゃ、君は。

「解決策なんて、最初から一つだけ。私を泣かせるなとあなたが皆に言うこと。あなたがすることはこれだけで良かったのに。あなたがしたことは、毎回ハンカチを持ってくることと、今日、私に可愛いと言っただけ。」

僕の非をあげつらうことが大正解かのように振る舞っている君に、僕は一つ一つ説明することにした。

「君に色々やっていたのは、役付きの村人の娘や息子が中心だった。君の両親と同じくらい役付きじゃない両親であっても、君の両親や先祖よりもずっと村に貢献してきた家の子どももいた。」

僕は事実に即した説明を心がけた。

でも、僕の説明は、僕の意図しない解釈になって君の中に入ってしまった。


「あなたが私を守ろうとしないと気付いたときから、私はあなたに期待しなくなった。今日、あなたと話していて、あなたが皆を止めるのは無理だと分かった。私、あなたに期待するのを止めて正解だった。」

僕の伝えようとすることを君は全て曲解していく。

どうしてこんなにうまくいかない?


「僕は、君に頑張ってほしかった。君は今の村を変えられる鍵だから。」

「頑張ってほしい、とあなたは私によく言っているけれど、私に何を頑張らせたかったのか今からでも教えてくれない?」

ここまで話してやっと君がやる気を見せてくれた、と僕は思った。


「役付きの村人の娘や息子は君じゃ太刀打ちできないと分かっていたけれど、役付きじゃない家の子どもくらいなら、君の可愛さで打ち負かせたんだよ。」

「自分は戦わないのに、私にだけ戦わせようとする、あなたの考えは本当に好きになれない。」

僕が君に知ってほしいと話すたびに僕を好きじゃないと言ってくる君の言葉が、とても痛い。


「村長の妻になる君が、君を泣かせようとする子どもにいつまでも負けているわけにはいかないだろう?それらは、君を僕の妻にするために必要な試練だったんだよ。」

君に何かを言うたびに君に胸を抉られると分かっていても、僕は君に話し続ける。

君に伝えられるのは、僕だけ。

僕が話すたびに僕を好きじゃないと言っていても、君は、僕の話しを聞こうとする。

僕と君は、今、話さないと、と思うから。


「私を助ける気もないのに、勝手に妻になる試練だけ課しておいて試練に失敗したと責める気?試練だなんて今初めて聞いたのに?」

君の声は、感情がのって高く大きくなっていく。

「試練だと言ったら、君を鍛えることにならないだろう。」

僕と一緒にいるために頑張ると話していた君が、僕といるために自分自身で立ちがあって、君を泣かせにくる人と一人で話をつけられるようになれたら、僕は君にそれ以上を求めようなんて。

「今まで試練を与えられていることに気付かなくて良かった。あなたの妻になりたいなんて望んでもないのに、あなたに勝手に鍛えられて、試練を乗り越えたからあなた結婚が決まったと言われた日には、あなたの顔なんて、絶望して見たくなくなる。」

君は、ゴミを見るような目で僕を見始める。


「君がいつも試練に失敗していた理由が、泣くと僕が来て、必ず僕に助けてもらえると知っていたからだったなんて。」

がっかりしたのは、僕の方だとは言わなかった。

僕は、村長の息子。

君を導くのに失敗したのは、僕の責任。

「あなた、勝手にがっかりしているけれど、あなたが私を助けに来たことなんてないじゃない。」

今日の君は、たくさん聞いてたくさん喋った。

感情的になりすぎて、自分で言った言葉の記憶をなくすのは、未来の村長の妻としていただけない。


「僕が来たら、泣いている君の元から皆がいなくなったと言ったのは君自身だ。」

「私が泣いている時点で、私は意地悪された後。私が意地悪されて泣いてから来ても、来るのが遅いと私は言っているんだけど。あなたは、私の何様のつもり?」

今日の君と話すのは、自制心を試される。

「君は村長の妻になる自覚がなさすぎる。」

君の暴言に返せる僕の言葉は尽きかけていた。


「そんな自覚、私にはいらないから。あなたの幼馴染として生きてきた私が意地悪にあわないように、村長の息子の自分が動かないといけないんだ、と思えないあなたが村長になる村に私は住まない。」

君に君がいることの大切さをどれだけ話しても、君は僕の言うことを分かろうとはしなかった。

僕の精神は限界だった。

君と二人で出かけたときは楽しかったのに、君がヒロインだなんだと言い始めたときから、僕の気分は最悪になっていった。

君は僕の否定しかしなくなった。

そんな君じゃなかったはずのに。

どうして?

何かが、僕と君の仲をおかしくさせていると思ったときには。

僕は思わず、手をあげていた。

生まれてはじめて、君に。


そのとき、三人組の綺麗な身なりをした男達が、僕と君の間に入ってきた。一人は金髪碧眼で長身。もう一人は、銀髪で緑の目の細身。最後の一人が僕の腕を掴んで止めている赤毛は、茶色の瞳をおどけたように細めて見せた。

「止めないか。白熱していたから、話は聞いた。フラレた挙句にフッてきた女の子に手をあげたら、男として失うものしかなくなるぞ。」

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