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君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


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16/29

16.乙女ゲームのヒロインを見つけてしまった責任の取り方。

エレインを廃妃にしても、エレイン以外に困らない。廃妃になって痛手を負うのは、廃妃になるエレインだけ。王太子様は、望んでいた元の婚約者を王太子妃として迎える準備と割り切ったんだ。エレインを王太子妃に迎えることにより、平民に略奪婚された王太子だと評判を落としたのは、瑕疵のない状態で王太子妃として迎えられなくなった辺境伯家の実子様との婚姻を貴族に反対させないため?


「アーレンドルフ様。なんでそんな簡単に、私をいないことにしてしまえるんですか。私といた時間はアーレンドルフ様にとって、全部ムダだったとでも言うんですか。」

乙女ゲームのヒロインとして、学園内で貴族と楽しく過ごしていたエレインは、学園内で出会った他の誰かではなく、十年前、十二歳のときに一番最初に出会った王太子様を選んだ。運命の日に出会った三人いる運命の人の一人を攻略対象に格上げしたのは、乙女ゲームのヒロインだったエレイン。


「国のためにやむを得ない判断だったが、私のために有益な結果は何もなかった。エレインとの結婚は、私の犠牲の上に成り立っていたものだ。」

王太子様はエレインを調べて尻尾をつかむためにエレインと結婚したとお話されていた。

「アーレンドルフ様。今ごろになって、そんなに言うなら、どうして私と結婚したのですか?」

エレインが王太子様との結婚を決めたのは、王太子様が攻略対象の中で一番偉かったから、だけじゃない。王太子様を好きになったからだ。好きだからこそ、エレインには王太子様に言えないことがあった。


「私が婚約者のメザリヤ嬢と結婚するには、メザリヤ嬢の実家となる辺境伯家を潰さずに、私自身の手で、エレインに引導を渡す必要があった。」

エレインを愛していないことを隠さなくなった王太子様は、突き放したエレインを沈めていく。

「アーレンドルフ様。お姉様と結婚したかったんですか?私と結婚したいから、お姉様から私に婚約者を変えたんじゃなかったんですか?」


「思い上がるな。私とメザリヤ嬢の結婚の最大の障害になっておきながら、私がエレインとの結婚を望んだなどと。」

「アーレンドルフ様。私がいるから、お姉様と結婚できないなんて、ありえません。アーレンドルフ様が、お姉様から私に婚約者を変えると言い出さなければ、王太子妃はお姉様から私に変わりませんでした。」

十年前、十二歳のときと変わらず、十年後、二十二歳の今も男として見ていない僕には強気だったエレイン。


「辺境伯領の村娘としていたエレインを放置するわけにはいくまい。お忍び中とはいえ、私がエレインを見つけてしまったのだから、私が辺境伯家に責任を取らせねばなるまい。」

「私を見つけなかったら良かったとアーレンドルフ様は言うんですか?運命の日にアーレンドルフ様達と出会うのは、乙女ゲームのプロローグなのに?」

十年前、十二歳だったエレインは、初対面で、お忍び中の王太子様方に自分から声をかけていた。王太子様方へ声をかけたときも、王太子様方についていくと言い出したとき、エレインが王太子様方を好いているような様子はなかった。十二歳だったエレインは、貴族の暮らしを夢に見て村から出ていく村娘でしかなかった。


「私ではなく、辺境伯家の誰かがエレインを発見した報告を受けて、公になる前に処理していたら、大ごとにしなくて済んだということだ。」

「私がお姉様の妹になったのは、アーレンドルフ様がそうするように命令したからじゃないですか。」

エレイン。君は、王太子様の命令で貴族の養女になったときから、王太子様を意識しだした?


「言動の怪しいただの村娘をいったいどんな名目で監視するというのだ。ただ殺すだけなら何の手配もいらん。兵を置くほどでもない村から出てきた間諜の疑いのある村娘の監視に人手を割くには、理由がいる。貴族の養女として近くに置けば、人の目のある場所から出さずに済む。」


「アーレンドルフ様。私を貴族の養女にしたのは、私に惹かれたからじゃないんですか?私との結婚を意識したからじゃないんですか?」

エレイン、君は、好きになったら、強く出られなくなる?嫌われるのが怖いから。


「エレインと私の結婚など、私を含めて誰が望む?」

「アーレンドルフ様は、私のことが好きじゃなかったんですか?」

私は好きなのに、という口に出さないエレインの悲鳴が、エレインを見ているだけで伝わってくる。

「エレインの言う運命の日に、お忍び中の私がエレインを目に留めたことが原因で、辺境伯家は、エレインという間諜の疑いがある村娘を王太子のお忍びにぶつけてきた疑いをかけられることになった。」

王太子様がエレインにかけるお言葉は、エレインに説明するだけのもの。エレインの感情を配慮するお言葉は出てこない。


「アーレンドルフ様は、運命の日に町にいた私が悪いと言うんですか?」

運命の日に町に行くと楽しいことがあるとエレインに仄めかされた僕は、エレインを喜ばそうと運命の日に町へ連れて行った。


王太子様のお言葉を聞いているのは、エレインだけじゃない。僕もだ。エレインへの懇切丁寧なご説明は、僕へのお答えでもあるんだ。王太子様と王太子妃エレインとの席に一人でつくことになった僕への疑問のお答えだ。


どうして、平民の村長の僕が、幼馴染王太子妃エレインの断罪の席に同席することになったか?


王太子様が僕を好ましいとお考えにならない理由は、以前、ソロアが口に出していた貴族の屁理屈だ。村娘のエレインを村娘として王太子様の目につくようなところに出さずに村に留めておけば、エレインによる略奪婚は成立しなかったというお考えは、王太子様のものだったんだ。エレインの略奪婚に対する貴族の屁理屈が、元は王太子様のお考えなら、貴族に広まった後に王太子が訂正しなかった理由も想像がつく。王太子様のご意向だからだ。


「内密にしていた辺境伯領内での王太子である私のお忍び計画を漏らして、間諜の疑いのあるエレインを私に接触させた辺境伯家令嬢であるメザリヤ嬢との結婚は、エレインが辺境伯家とは無関係であることと、エレインの企みを明らかにして背後関係を突き止め、エレインの企みを阻止するまで許可がおりなくなった。メザリヤ嬢との結婚を心待ちにしていた私にはとんだ伏兵の出現だった。」

王太子様のお言葉に、エレインへの思いやりなど欠片もない。伏兵という言い回しをされた王太子様は、エレインを敵だとみなされていた。


「私のことが邪魔なら、私と結婚しなかったら良かったじゃないですか。アーレンドルフ様が私を王太子妃にしようと思わなければ、私はアーレンドルフ様にこんなに色々言われないで済みました。」

王太子妃に望まれて王太子妃になったエレインが王太子妃になって聞かされたは、王太子様の愛情あふれる労りの言葉ではなく、愛とは正反対の感情しか持っていなかったという冷酷な告白。


「私もエレインを王太子妃などしたくはなかった。王太子妃にしなくても解決する方法は模索したが、エレインはなかなか尻尾をつかませない。結婚して王太子妃とすることで、エレインと辺境伯家の繋がりを断たせ、王家の問題として強行突破することにより、ようやく成功した。反対を押し切って強行突破した甲斐はあったな。」

「アーレンドルフ様と私との結婚は、結婚する前から反対されていたんですか?」


「いっときでも王太子妃に相応しくない者を王太子妃に選ぶことは、私の名を汚すことになるという反対されずとも分かっていて、強行したのは私だ。」

王太子様は、ただ、事実を述べておられているだけだ。

でも、エレインが聞きたいのは、王太子様が認識されていた事実じゃない。エレインの聞きたがっていることをご存知の上でのお言葉なら、エレインの問いに対する王太子様のお答えはこの上ないくらいに明白だ。

「私と結婚して、アーレンドルフ様の名は汚れたものになったんですか?」

どれだけひどい言われ方をされても、王太子様の答えをエレインは待っている。エレインにひどい言葉をかけているのは、エレインを王太子妃に迎えた王太子ご自身なのに。


「私は名より実をとる。エレインをどうにかしなければ、私とメザリヤ嬢の結婚はかなわない。十二歳のエレインを数年にわたり監視下におきながら、辺境伯家だけではエレインの繋がりにたどり着けなかった。メザリヤ嬢との結婚がかかっている以上、メザリヤ嬢の婚期が過ぎるまで、辺境伯家任せにして私が何もしない選択はない。」

王太子様のお言葉にためらいがないのは、王太子様のお気持ちがエレインにないからだ。王太子様のお言葉は発されるだけで、凍りつきそうに冷たい。


「そんなにお姉様が良かったんですか?私よりも?」

エレインは、確かめるのを止めない。

「メザリヤ嬢よりエレインを贔屓にする理由はあるか?」

王太子様の視線とエレインの視線がぶつかる。

「私は、乙女ゲームのヒロインでした。」


エレインの相手はしていられないと言わんばかりの王太子様から、エレインは目をそらさない。

「エレインは、乙女ゲームのヒロインだとしか言わないな。メザリヤ嬢は、辺境伯領から出た怪しい人物の怪しさの特定を辺境伯家ができずに王家に委ねたことを恥として、王家と国への忠誠を示すために領地の文官として働くと私に告げ、今もそうしている。」

王太子様は、元婚約者への誇らしさと愛おしさを込めて、辺境伯家の実子様のご様子を語る。どれも、エレインには向けられなかった感情だ。


働きたくないを貫き通して、王太子妃になって一ヶ月だから働きぶりは大目に見てほしい、今後に期待してほしいと王太子様に話していたエレインと、エレインと婚約者が交代になったときから生き方を変えて働いていた元婚約者の辺境伯家の実子様は比べるどころではない、と王太子はおっしゃっている。


王太子様のおっしゃりようにおかしなことはない。王太子様が王太子妃になったエレインを陰日向なく支えていらっしゃったのであれば、今日聞いたエレインの発言は王太子妃として不安のあるものばかりだった。


だけど。貴族の養女になり、貴族の実子様の婚約者を奪って王太子妃にまでのぼりつめたのに、略奪婚だと噂された元村娘のエレインを愛する気持ちが王太子様におありだったら、エレインは今のようになっていない。


「私の妃には、メザリヤ嬢がなる。私とメザリヤ嬢にマルクとソロアが揃えば、エレインに荒らされたものは、元通りだ。」

王太子様のエレインの言いなりだという噂も、辺境伯領の村娘だったエレインを辺境伯家の養女に押し上げて婚約者にし、王太子妃として迎えいれてから一ヶ月後に、エレインの生まれ育った辺境伯領の村で内々に断罪したのも、元婚約者だったメザリヤ様を正式に婚約者に戻して、王太子妃として瑕疵のない状態で迎えるためだったんだ。


王太子様は、手を軽くあげた。両手で抱えるくらいの木箱を持った侍従が二人、王太子様、エレイン、僕のいるテーブルまで歩いてくる。エレインは、その二人の侍従の顔よりも服装を見て、悲鳴をあげた。


「エレイン。まだ、体は動くか?」

エレインの体がカタカタと震える。エレインは、予想している。エレインの予想は、きっと外れていない。二人の侍従がそれぞれ持っている木箱は、一つがボトルがまるまる一本収まるような大きさで、もう一つの高さは、その半分くらい。二つの大きさの違う木箱は、どちらにも六面全てにこれでもかと装飾が施されている。

「アーレンドルフ様。本当の事を言ってください。本当に、少しも私を好きじゃなかったんですか。」

エレイン、今、王太子様は君を好きかどうかの話をしていない。そして、これからもなさらない。


震えているエレインを見て、まだかかるか、と王太子様はおっしゃった。

「エレイン。一人で逝きたくないなら、デニスを連れていけ。誰も止めぬ。」

王太子は、邪魔者を二人とも始末したいとお考えなんだ。僕とエレインの二人を。


「デニスは、昔みたいに話して。今から私が聞くことには正直に答えて。デニスは、乙女ゲームを知っていた?」

僕の家に来てから初めて、エレインは僕を見つめた。真剣な顔をして僕に尋ねてくるのが、今になってなんて。

「エレイン、君が話していることは、十年前から僕には何のことか分からなくて、理解したかったけれどとても難しかったよ。」

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