15.王太子殿下の頓挫した一番最初の計画と進行中の計画とエレイン。
ソロアがエレインの侍女になっていたら、エレインとソロアが揃っていなくなっていたという話を平然とされている王太子様は何をお考えに?
ソロアのことを賢いとおっしゃったのは、賢いからエレインと一緒にいなくなってもよいとお考えだったとか?
言葉選びを間違えたら失敗する。
王太子様が、僕をいらないとお考えになっている。
僕が混乱しては、王太子様の思う壺。
ソロアに会えなくなる。
落ち着いて、何から考えたらいいかを整理しよう。
王太子様の計画を時系列で並べて、王太子様の計画の狙いを見つけてみる。
王太子様の計画の実行に移す前にマルク様の働きによって頓挫した計画は、エレインの侍女にソロアを就けて、エレインの連座で二人まとめていなくなる状態にすること。
ソロアをエレインの侍女にする計画の王太子様の真の狙いは、マルク様が密告したことで、ソロアの主人とソロアが知ることになり、ソロアの主人はソロアとマルク様の婚約解消に同意された。
マルク様とソロアの婚約解消は、ソロアの命を救うためのもの。マルク様が僕をソロアの婚約者として推したのは、僕の紹介してほしい妻の条件にソロアが合致していたことと、僕になら紹介してもよいという判断が働いたから?
マルク様が僕にならソロアを紹介してよいと判断された理由も想像できる。僕が、ソロアの主人の家が治める辺境伯領の村の村長の息子で、ソロアが僕と結婚したら、ソロアが辺境伯領から出ていく理由がなくなるからだ。王太子妃様が元平民だからこそ、王太子妃様の侍女が王太子様が平民として暮らしていた村の村長の息子の婚約者の平民を就けるわけにはいかない。元平民の王太子妃様だから、平民が仕えるという図式が公になってしまう。元平民の王太子妃様を支えるのが同郷の平民だけなんて、公に見せたら、王太子妃としての格が落ちる。王太子妃殿下は貴族に相手にされていないことを知らしめることは、誰の幸せにもならない。今の生活を変えたくて僕を連れていきたいと言い出したエレインの主張は、王太子様に求められて王太子妃になっても貴族の中でうまくやれていない自覚があるからだ。
僕は必死に頭を働かせた。
僕とエレイン、ソロアを同列に考えるから、分からなくなるんだ。
王太子様ご自身が友だ、部下だとおっしゃっているマルク様とソロアの復縁の計画は、マルク様とソロアの婚約が解消され、僕とソロアが結婚して、ソロアが王太子妃エレインの侍女にならなかったから思いつかれた。
王太子様は、友だ部下だと言いながらも、マルク様が命令に反したときは、罰を与えているけれど、マルク様が婚約解消という形でエレインと共に亡くなる未来が迫っていたソロアをソロアの主人の辺境伯家のご当主の実子様の元へ逃がすことで生かしたことについては、王太子様の計画を頓挫させた以上の発言はされていない。
王太子様の頓挫した一番最初の計画には、エレインを罪に問うことで、エレインとソロアをいなくする予定はあっても、エレインにソロア以外を巻き込む予定はない。マルク様と婚約し結婚したソロアは、エレインと共に切り捨てる対象でも、マルク様にはエレインの罪がお呼ばないよう取り図るご予定だった?
分かってきた。王太子殿下の一番最初の計画は、エレインとマルク様を使ったソロアの排除だ。
なぜ、ソロアを?
「王太子殿下は、王太子妃殿下の連座で罪に問われる予定の侍女に賢いとお認めになっているソロアを就けようとお考えだったのですか?」
「メザリヤ嬢はソロアを重宝していた。メザリヤ嬢へのソロアの忠誠心と賢さは類を見ないものだったが、その分、メザリヤ嬢がソロアを離さなくてな。」
「王太子殿下は、賢く忠誠心のある侍女がいることを喜ばしく思われなかったのですか?」
「メザリヤ嬢からソロアがいなくなるとちょうど良かったんだがな。」
最初の計画が頓挫したことを怒っているご様子はない。マルク様が禊を終えて復帰された理由は、マルク様のなさったことを裏切りではないと王太子様が判断されたから?
「ソロアを王太子妃エレイン殿下の侍女に推されたのは、辺境伯家ご当主のご令嬢の侍女だったソロアをご令嬢から引き離す目的だったのですか?」
王太子様は、凄絶な笑顔をお見せになった。
「メザリヤ嬢は、ソロアといると、私の話を話半分に聞いてしまうのでね。私はメザリヤ嬢と仲良くしたいのだけど。」
王太子様に勝つのは難しいから、王太子妃エレインに勝ちにいく作戦を立てたソロアは、娘時代に見聞きしたことを詳しくは話さなかった。王太子様がどんな方かをソロアはよく知っていたんだ。
ソロアは王太子様に言われて、王太子様と王太子妃殿下にお寛ぎいただくために新設した建物へ向かった。今か今かとヤキモキしながら待っているソロアに、早く現状を伝えたい。絶対にソロアは心配している。王太子様が手強くて僕が苦戦しているんじゃないか、とか。ソロア、僕、大苦戦中。でも、僕は負けないから。そこで待っていて。必ず、僕がそっちへ行く。
「王太子妃殿下の侍女が王太子妃殿下の連座で処罰されるようなご計画は、今も進めておられるのですか?」
マルク様とソロアの復縁をお考えになるくらいだから、ソロアを亡き者にする計画は王太子様の中にはもうない。
「ソロアとデニスが結婚してソロアの連座はなくなったが、計画は進行している。」
ソロアを巻き添えにしない形で、計画は進んでいる、となると。
「今現在も進行中でございますか?」
今現在、王太子妃エレインは、王太子様と僕と一緒に僕の家にいる。
王太子様の計画が進行中だとすれば、その場所は、今ここ、僕の家の中だ。
「デニスには、一番に教えるが勝手に言い触らすのは控えるように。エレインは王太子妃ではなくなる。」
王太子様は、サラッと言ってしまわれた。
「アーレンドルフ様。私を王太子妃にしたのはアーレンドルフ様なのに。突然、何を言い出すんですか。」
エレインは、僕を見ていない。王太子様に甘えた口調で拗ねてみせるエレインと、そのエレインを冷めた目で見ている王太子様。
十年前までの十二年間、僕とエレインは、村長の息子と村娘の関係だった。村娘だったエレインに、僕からは聞いたことがない。分からないことはないか、と。十二年間の間、一度も。エレインとの結婚を望んでいたのは、僕なのに。
エレインも僕に言わなかった。分からないから教えて、と。
互いに聞き合わなかった僕とエレインの未来は、十年前よりももっと前の時点で、並ばないことが決まっていたんだ。
「エレイン。間諜と繋がっていなかったとしても、十年にわたり、国政を滞らせた罪は重い。」
王太子様は、エレインの断罪を続けている。
「アーレンドルフ様。私、何も悪いことをしていません。」
「乙女ゲームのヒロインとして生まれたエレインは、学園の中でヒロインの役割を果たした。学園を卒業し、乙女ゲームが終わった後のヒロインは、何をする?」
「アーレンドルフ様。私、することならたくさんあります。私は、乙女ゲームが終わった後から一生懸命勉強して王太子妃になりました。」
「乙女ゲームのヒロインだったエレインは、ヒロインが終わって王太子妃になってからすることが、何かあったのか?」
「楽しかったですけれど、乙女ゲームは終わりました。私はアーレンドルフ様の王太子妃として、これから幸せな王太子妃になります。デニスも連れていきますし、今ある問題は解決できます。」
エレイン、君は、今が幸せな王太子妃じゃないと言ってしまっているよ。
「エレインの幸せだった時間は、乙女ゲームだった学園を卒業したときに終わっている。」
「アーレンドルフ様。いきなり終わりにしないでください。私、まだ、王太子妃になって一ヶ月です。まだ、私は王太子妃として赤ちゃんなんです。これからなんです。今日、デニスを連れて帰れば大丈夫になります。」
エレインは、一生懸命に訴えている。
「働くことを厭って着飾ることを好み、無自覚に貴族に混乱を撒き散らすようなエレインは王太子妃に向いていない。」
エレインに向ける慈悲も優しさもないことを王太子様は隠さなくなっていく。
「アーレンドルフ様。王太子妃に私が向いていないって、何で今さらそんなことを言うんですか。私が王太子妃なのは、私と結婚したアーレンドルフ様が王太子だからなのに。」
「エレインは、私と結婚しない方が良かったな。」
王太子様は、ただ感想を述べられているかのように話される。
「アーレンドルフ様。王太子が無責任なことを言わないでください。」
「エレインは、私の本音が耐えられないのか?」
「アーレンドルフ様。冗談でも言っていいことと悪いことがあります。」
エレインはもう、拗ねていない。
「冗談ではない。」
「本音だと言うのなら、なおさら、たちが悪いです。」
王太子様の本音をぶつけられたエレインは、真正面から返している。
「私以外と結婚すれば、エレインの結婚生活は今よりも幸せを感じられただろう。」
「アーレンドルフ様と結婚したから、私は幸せになれないと言っているんですか?私は誰と結婚したら良かったんですか?」
エレインは叫んだ。
「エレインの生まれ育った村の中で相手を探していれば、あるいはな。」
「アーレンドルフ様。私が私の生まれ育った村の中で結婚したら、乙女ゲームが始まらないじゃないですか。」
「エレインが乙女ゲームを始めようとしなければ、己を不幸だと呪う者は一人も出なかっただろう?」
「どういう意味ですか?アーレンドルフ様は、私と結婚して幸せじゃなかったとでも言うんですか?」
エレインが、なりふりかまわず必死に迫っている様を見たのは、初めてだった。思い返してみると、僕と話すエレインはいつも余裕があった。
「私がエレインと結婚したのは、それが国のためだったからだ。」
「アーレンドルフ様は、私との結婚が国のための犠牲だったと言うんですか?」
疑問文ながらも、否定してほしくて聞いているのが分かるだけに、王太子様とエレインの会話が辛い。
「エレインと結婚したことが理由で貴族を取り潰すような悲劇を起こさないためには、私がエレインと結婚してしまうのが、最善だった。王太子の私に挑む者はいないからな。」
泣きながら笑っているエレイン、エレインを見ているだけの僕、何もかもを分かりきったように場を支配している王太子様。
「アーレンドルフ様は、ヒロインとして生まれた私に、ヒロインとして、してきことを罪だと言うんですか?」
「自分の罪が分からないようでは、話にならぬ。」
これ以上の会話を続ける気がないことを王太子様は明確に言葉にされた。
弾かれたように、エレインは喋る。喋り薬が効いていたときとは違い、感情を全開にして。
「当たり前です。私が私として生きていたことを罪だなんて、アーレンドルフ様にだけは言われたくありません。私、アーレンドルフ様の言っていることなんか分かりたくありません。アーレンドルフ様、私達は夫婦なんです。夫婦は、理解し合って助け合うものです。アーレンドルフ様だけで、勝手に私を切り捨てようとしないで。」
王太子様は、無慈悲に宣言された。
「王太子妃エレインは、廃妃とする。」
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