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君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


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13/16

13.断罪の日に。

王太子妃殿下は、渇かないように口を湿らせたからこそ、本人が喋るつもりのないことをあれよあれよと喋ったのではありませんか。

そんな強気な言葉は思うだけ。言わない。今の僕が最大限に警戒しないといけないのは、不敬罪。

とはいえ。飲みません、と断りの返事をするだけでは、飲めという命令が出たときになす術がなくなってしまう。飲め以外の何かを王太子様から引き出すことを言わないと。


「私にお茶を飲ませるのは諦めて、王太子妃エレイン殿下を連れて出ていってくださいませんか?」

王太子様の目に凶悪な光が入った。僕、失敗したの?

「デニスの喉が渇くまで話すとするか。」

大丈夫、まだ、失敗じゃない。会話が途切れないようにするんだ。


「王太子殿下、王太子妃殿下、本日は、視察の地にお選びいただき大変恐縮でございました。」

王太子様と王太子妃様をソロアと一緒にお見送りするときに考えていた挨拶。今、使わないと一生使えないんじゃないかと心配になってきたから、先に言ってしまう。


「デニス、急にどうした?まだ終わってはいないが?」

王太子様、僕はもう、王太子様と王太子妃様には揃ってお帰り願いたいのです。エレインと一緒にどうぞ、振り返らずにお戻りください。僕の家からと言わず、村から出ていってくださると、後年、本日のお越しは喜ばしかったと語れる日がくると僕は信じております。


「王太子様と王太子妃様のご用は、お済みになられておられないのでしょうか?」

僕が先触れで聞いていた用件は、とうのとうに解決済み。

「エレインは、どんな用を思い立ってデニスに会いにきたか覚えているか?」

僕に会いにきた、という言い方は語弊があるので訂正していただけないでしょうか?ソロアの耳に入れたくありません。ソロアだって、天敵が夫に会いにきたなんて聞きたくないでしょうから、ご用がお済みならお帰りいただきたく存じます。


エレインは、くすくすと笑い出した。

「アーレンドルフ様は、もう忘れてしまったんですか?私の暮らしにはデニスがいないとだめとアーレンドルフ様にお話して迎えにいくことになったのに。」

僕が知っている先触れと話が違う。王太子様と王太子妃様の間では、僕を連れて帰ることで話がついていたの?


王太子様は、困ったね、と、僕に微笑みかけてこられた。この状況で僕に微笑まれる王太子様に負けるわけにはいかない。

「デニス。私と一緒に出るはずが、気が急いたエレインが先に出発してしまった。」


王太子様がエレインの望みを何でも聞き入れているという噂がどうして広まったのか、分かった。王太子様の言い回しのせいだ。

王太子様は、エレインの望みを叶えているていを保ちながら、ご自身がしたいことをしていらっしゃる。

王太子様は、王太子妃エレインの望みを何でも叶えてあげる王太子を装っておいでだ。エレインを隠れ蓑して、王太子様自ら、王太子妃エレインと王太子様の両方の評判を落としすことに何の意味があるの?何のため?誰のため?


「私は王太子妃殿下に懸想などしておりません。王太子妃殿下と一緒には参りません。」

王太子様は、僕を側にと望むエレインと僕との関係を誤解させようとされている?エレインは王太子妃。王太子様が妻の評判を悪くするようなことを仄めかされるの?


王太子様の思惑の分からなさに混乱した僕は、王太子様相手に取り返しのつかない失態をおかしてしまった。

「私は妻子を愛しております。村長として、村を守り、次世代を育むことを喜びにしております。」

僕は、僕が大事にしているものを尊い方に漏らしてしまった。自分から。


王太子様の目尻のキレが鋭くなった。

「デニスは、妻が大事か?子が大事か?」

僕の大事にしているものは、すなわち、僕の弱みになる。

僕は、肝心なときに、自分の発言で、大事にしている妻子を危険にさらしてしまった。

「大事にしています。」

王太子様は、たいそう満足そうに頷かれる。

「デニス、妻子が大事なら先に逝け。デニスが亡くなった後の面倒は見させる。」


王太子様の尋問を受けてから、エレインが尋問されているところも見た僕は、王太子様が僕の家にソロアを連れてこなかった理由に薄々勘づいている。ソロアなら王太子様に対抗できる作戦を考え付けるから?


ついに勝負のときがきた。僕は決して負けられない勝負の席につく。背筋を伸ばす。ソロア、僕は負けない。

「何をおっしゃいますやら。妻子を遺しては逝けません。」


王太子様は、なあ、と笑いかけてこられる。

「デニス、ソロアは賢いだろう?」

エレインの前でソロアを賢いとお褒めになる王太子様には、僕は言葉を選んで答えた。

「はい。ソロアとの縁は、この上ない良縁でした。」


妻の前で、妻の天敵を褒めたら良くないと誰か王太子様に教えてさしあげて。僕が進言したら、王太子様が妻のエレインを褒めていないことに僕が苦情を言う構図にすり替えられそうだと予想がつくから、僕は絶対に進言しないと決めている。

けれど、エレインが可哀想になってくる。


「ソロアとデニスの縁は、マルクが結んだ。そうだったな?」

王太子様が、ソロアに拘っていると考えるのは勘繰りすぎ?


王太子様がエレインと結婚されたのは、エレインに選ばれたから?王太子様は、どうしてエレインと結婚されたの?王太子様がエレインと結婚したいと思う何かがエレインにはあったの?


「はい。」

王太子様は、エレインになら何を言ってもいいとお考えなの?妻の天敵のソロアを褒めても、ご自身の妻のエレインを褒めるお言葉はない。


僕、ソロアの前でエレインを褒めたりはしなかったけれど、王太子様を見て反省している。お貴族様に受け入れられていないエレインのことは可哀想だし、受け入れないお貴族は自分勝手すぎると僕が感じていると伝えたのは、エレインについて知らなすぎた。エレインを題材にしたことを早く謝りたい。


「デニス。夢を叶えるには、十分すぎる猶予だ。」

「王太子殿下は、私の夢をご存知でいらっしゃる?」


僕の村は辺境伯領の中でも端っこにある。領都よりも国境の方が近い。僕の家から領都は見えない。方角は示せるけれど、行くことはない。ましてや王都で起きていることなんて話に聞くこともない。


僕の村は、静かな村だ。静かであることで僕達は、村を守ってきた。家の中に家族以外の出入りを止めさせているのは、村人以外が隠れ住むことがないようするためと、村人間に不和を生じる機会は減らすため。国境に近い村だからこそ、国境を越えてくる人が住み着いたり、中央から国境近くまで流れきた人が身を隠す先になる可能性を潰した。結果、僕の村は戰場になったこともなく、討伐の対象になったこともない。僕達の村は、エレインの言う通り何もない。目立たせないことで、村を、人と家と土地と畑とため池を守ってきた。


僕達の先祖が慎重で用心深くなったのは、国境を越えて勝手に村に住み着いた人達が、住み着いた家を拠点にして、盗賊化し、討伐隊が派遣されて、村人ごと討伐されてしまった村や失脚して逃れてきた貴人を匿って滅んだ村が実際にあったからだ。


「マルクは私の部下であるが友でもある。」


僕は、エレインと町に行っても、村人が持たないようなものをエレインに渡さなかった。金額が高いものや派手な見た目のものを町で買っている姿を目撃され、金がある村だと思われて、場所を特定するべく、村までついてこられることがないように。


軍事拠点となるような砦があるわけでもない辺境伯領の端っこの村は、危ないときには辺境伯家が兵を派遣して守ってくれる、なんて期待して待っていたりしない。

辺境伯家が兵を動かすときは、辺境伯領の端っこの村を守るためじゃない。辺境伯領の端っこの村に必要なのは、自給自足と村人の自衛。


「マルク様からお聞きに。」

十年前と変わらず、マルク様は王太子様にお仕えされているんだ。僕にソロアを紹介してくださって、僕とソロアとの婚約が決まってから、お姿をお見かけしなくなったけれど、部下でもあり友でもあると王太子様がおっしゃるくらいの関係で今もお過ごしなんだ。


「デニス。ソロアをマルクに返せ。」

僕は堂々と、かつ丁寧に返す。

「返せとおっしゃいますが、ソロアは、もう何年も私の妻です。」

エレインのように略奪の噂が立つようなことを僕はしていない。

どこをどう切り取れば、ソロアをマルク様に返す話が出てくるの?

「デニスの妻になる前に解消したが、ソロアはマルクの婚約者だった。」


何を言われているのかは分かったけれど、理解したくなかった。驚きのあまり言葉を失った僕を見た王太子様は、僕ではなく、エレインに問いかける。

「エレイン。王太子の私と辺境伯家令嬢のメザリヤ嬢、王太子の私の部下マルクとメザリヤ嬢の侍女ソロアが婚約していたことは覚えているな?」


僕の村は、村人間の軋轢に神経質だ。他の村よりも。日々の暮らしや自衛に支障をきたしてから村人間に生じた軋轢を問題にしていては全滅する。


「アーレンドルフ様。過ぎた話を蒸し返さないでください。今の王太子妃は私で、お姉様は辺境伯領の文官です。」

エレインは、メッと可愛く笑って見せている。


「エレイン、メザリヤ嬢の話をしなくていい。ソロアとの婚約を解消したマルクは、一度でも結婚したか?」

王太子様が、エレインの振りまいた愛想を切って捨てているのを見るのが辛い。王太子様に言葉で切られているのがエレインじゃなく、僕自身のように感じてしまう。

「アーレンドルフ様。部下が独身かどうかも分からなくなったんですか?忘れないであげてください。マルクはソロアと別れてから仕事が恋人です。」


エレインが王太子様と仲良く話す姿を見ても、夫婦仲が良好だなんてもう思わない。僕の家なのに、僕の気分が悪くなる話をしないでほしい。僕の家は、ソロアが帰ってくる家なのに。ソロアと子どもと暮らす僕の家でする話を僕が選べないなんて。


家族ではない人間を家の中に入れる風習が僕の村にはない。同じ村の村人ではあっても、家族ではない誰かを家の中には入れない。エレインも村娘のときは、家に入れなかった。


家の中にいれば安全だと言える村。働いて帰ったら安心して食べて寝て、体力を回復し、次の日に備えられる家に住めたら最高。僕の村では、家を大事にしている。生きていくためにある場所だから。


「デニス。そういうことだ。私に聞きたいことはないか?」


僕が町に行くときは、町までにある他の村を見て、話を聞いて、町の中でも情報を集めている。村で一番可愛いエレインと村長の息子の僕という組み合わせは、情報を集めるのに、ちょうどよい二人組だった。町まで連れ出した可愛いエレインに、町のものを買い与えたがっている僕。僕とエレインを警戒して、口をつぐむ人はいない。それが、前村長になった父が、村長のときに下した決定。


エレインと出かけるのを楽しみにしていたけれど、村長の息子としての責務も果たしていたから、僕がエレインだけを誘って町に出かけることを誰も反対しなかった。

僕の妻にエレインを迎えることに苦言を呈していた母方の祖父母も母の兄弟姉妹や従姉妹も、次の村長になる僕がエレインと町へ出かけることを僕の村長の息子としての仕事の一つだと思っていた。


「マルク様がご自身の婚約者だったソロアとの婚約を解消して、私にソロアを紹介したとおっしゃるのですか?」

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