第一章7『騎士と姫』
部屋の空気は重苦しかった。男の一人は完全な「記憶喪失」に陥っているように見え、もう一人は「総統」という存在、あるいはその肩書きを持つ人物が、リンゴ・エリカの記憶喪失の元凶であると非難していた。そして三人目は、体制との無用な摩擦を避けようと、より理性的なアプローチを試みていた。
「エリカ……ヴィクトリア様に会いに行ってくれ。彼女のことなら思い出せるかもしれない」
ヴィクトリアという女性など全く知らなかったが、エリカは――人々の記憶から完全に消え去った、あるいは死んだリンゴ・エリカの肉体へと送られた「ハンス」の身体を現在占有しているエリカは――それを受け入れた。
クリーグの瞳に宿る哀れみが、こう語っているように見えたのだ。『お前は昔からずっとリンゴ・エリカだった』と。
彼の「記憶喪失」は、白の王女を思い出せないことへの理由付けとして彼に与えられた説明だった。だが、もし本当に記憶喪失なのだとしたら、なぜ彼は護送馬車に囚われていたことや、斬首される直前に泥人たちに襲撃されたこと、カールたちカルクス主義者に助けられたことを覚えているのだろうか? なぜ『鉄のクララ』のことや、彼女の死を覚えているのか?
(リンゴ・エリカ)は記憶喪失などではない。ハンスの身体を乗っ取り、(リンゴ・エリカ)となった(リンゴ・エリカ)なのだ。彼が完全に忘却しているのはハンスの記憶であり、リンゴ・エリカの記憶ではない。
リンゴ・エリカの中には常に(リンゴ・エリカ)が存在していたが、(リンゴ・エリカ)は死んだのだ。
「自分が誰なのか分からない……記憶が曖昧なんだ」
「エリカ……」
「でも、ヴィクトリア様に会うことで、記憶の残り火が少しでも蘇るかもしれないなら、会いに行こう」
「騎士エリカ様……たとえあなたの記憶が未知の世界の深淵へと消え去ってしまったとしても、我々にとってあなたは王家の『アイゼンマイスター(鉄の達人)』であり、何より白の王女殿下の従騎士であることに変わりはありません」
「エリカ、私もヘンリヒと同意見だ。たとえお前の記憶が一つも戻らなくとも、私の目から見ればお前は常に友だ」
「友」という言葉を聞いた瞬間、死んだ(リンゴ・エリカ)の古い記憶が蘇った。初めての友人になれたかもしれない少女の首を、クリーグが刎ね飛ばすのを見た記憶だ。
「悪魔の友、か」
クリーグは「うむ」とだけ返し、エリカの言葉の意味を理解していないことを示した。
「王女殿下に会いに行くよ」
この「記憶喪失」の話をはっきりさせたかった。そして、それが真実かどうかを確かめる唯一の方法は、ヴィクトリアという名の若い女性に会うことだった。
「よし……エリカ、ヴィクトリア様の私室まで案内しようか?」
エリカは頭の中に渦巻く疑問を抱えたまま、ヘンリヒの提案を受け入れた。この出会いが決定的なものとなり、失われたアイデンティティへの鍵を握っているかもしれないと、奇妙な直感が彼に囁きかけていた。
彼はベッドから立ち上がり、抑えきれない悲しみを湛えた目で見つめるクリーグと、深い不安を空元気で隠そうとするヘンリヒを後にした。部屋を出る時、否定することも認めることもできない過去と直面することへのプレッシャーで胃が締め付けられ、不安の塊が彼を覆い尽くした。
寝室を出ると、目の前にはどこまでも続く壮麗な大廊下が広がっていた。床には分厚い真紅の絨毯が敷き詰められ、彼らの足音を柔らかく吸収している。五メートル間隔でアーチ型の高い窓が並び、廊下を午後の終わりの淡い光で満たしていた。窓の外を見たエリカは、この場所が目も眩むような高地にあることを理解した。城館は険しい山の中腹にそびえ立ち、息を呑むようなパノラマを提供していた。そこに見えるのは無限に広がる平原と、様々な色合いのパッチワークのような耕作地――新芽の柔らかな緑、土の暗褐色、そして実りの時期を待つ黄金色。さらにその奥には、大地の肺のような巨大で暗い森が広がっている。そして遥か遠くに、この手つかずの大自然の中にある文明の点として、ある都市の屋根や尖塔が見えた。
「到着しました」
風景の美しさがもたらす静寂を破り、ヘンリヒが告げた。
暗い色調の彫刻が施された重厚な木製の扉の前に、非の打ち所がないメイド服を着た二人の女性が立っていた。糊の効いた白いエプロンとヘッドドレスが、その場に形式的な雰囲気を添えている。
二人の男、とりわけエリカの姿を見ると、メイドたちはスカートを軽く摘まみ上げ、深く一礼して伝統的な挨拶をした。
「エリカ様……ヴィクトリア様がお待ちです」
メイドの一人が、畏れ多いほどの敬意を込めて囁いた。
二人のメイドが木製の扉を開けると、部屋の内部が露わになった。ヘンリヒは驚くほどの身軽さでメイドたちの髪を撫でた。それは労いか、あるいは親愛の情を示す、彼にとってごく自然な仕草のようだった。
エリカが部屋に入ると、扉は鈍い音を立てて閉まり、内部を外の世界から完全に遮断した。
彼の目の前にいたのは、一人の女性だった。
燃えるような赤毛が、弱々しく傾きかけた日の光を捉えている。彼女は窓辺のエレガントな椅子に腰掛け、ガラス越しに広がる、どこか物悲しく静まり返った広大な平原を見つめていた。その佇まいは気高いものだったが、深い悲しみのヴェールのような憂鬱なオーラが彼女の周りを漂っていた。
その若い女性を見た時、ある思いがエリカの心をよぎった。それは記憶としてではなく、精神の奥底で囁かれる奇妙な共鳴のようだった……。
『白馬の王子様を待つ、お姫様だ』
自分の過去を何も知らない彼は、そんな悲しげでロマンチックな結論を導き出した。もしかするとそれは前世の反映だったのか、あるいはかつて「リンゴ・エリカ」だった男が、そのような理想を抱いていたからかもしれない。
女性はゆっくりとエリカの方へ顔を向けた。その深い緑色の瞳が、彼の目と交差する。
彼を見た瞬間、彼女は弾かれたように立ち上がった。あまりにも急な動作だったため、小さなテーブルに置かれていたティーカップからお茶が数滴こぼれ、タペストリーにわずかなシミを作った。
だが、エリカを見つめる彼女の瞳はすぐに潤み始めた。それは再会の無邪気で弾けるような喜びからではなく、過去の痛み、蘇った古い傷と混ざり合った安堵からの涙だった。彼女は泣いていた。静かに涙を流しながら、悲しみと、たった今息を吹き返した希望の波に揺れていた。
エリカの目に映ったのは、滝のように肩に流れ落ちる長い赤毛と、吸い込まれそうな緑の瞳を持つ、非常に美しい若い女性だった。彼女の眼差しは彼の存在によって喜びに満ちていたが、それでもなお、長期にわたる孤独の傷跡と暗い影を宿していた。
「エリカ……戻ってきてくれたのね」
彼女の声は甘い嘆きのようであり、感情によって途切れ途切れになったメロディのようだった。
若い女性はエリカに向かって駆け寄り、両手を広げて絶望的なまでの抱擁を求めた。数ヶ月、あるいは数年にも及ぶ不在と不安を消し去るための融合だった。
「俺は……あなたのことを、知らない」
その言葉は、目に見えない短剣の一撃だった。それを聞いた瞬間、若い女性は空中で撃ち落とされたかのように、彼から数歩離れた場所でピタリと立ち止まり、その勢いを砕かれた。
「クリーグから聞いたわ……記憶喪失になってしまったと」
息を整えながら彼女は言った。その口調は、受け入れざるを得ない運命、乗り越えねばならない新たな試練に直面した者のそれだった。
「たぶん、そうなんだと思う」エリカは力なく答えた。
若い女性は天蓋付きのベッドの端に重々しく腰を下ろし、底知れぬ憂鬱に満ちた虚ろな目で床を見つめた。エリカを見た時のあの柔らかな輝きは消え去り、絶望と苦い失望に取って代わられていた。
「私はもう、お父様とお母様を失ったわ。そして今度は、あなたの番なのね」
重圧に押し潰されるように囁かれたその言葉には、二重の喪失の重みが込められていた。
彼女は涙で潤んだ目で彼を見上げた。
「私のことを、本当に覚えていないの?」
「ああ……覚えていない」
「私たちが十三歳の頃、狼の群れに追われて、お父様が助けてくれた日のことも?」
「ああ……覚えていない」
「子供の頃、あなたが宮廷のみんなの前で、耳まで真っ赤にして吃りながら私に愛を告白した日のことも?」
「ああ……覚えていない」
「白鳥の湖のそばで、月明かりの下で散歩しながら、二人だけの秘密の誓いを交わしたことも?」
「ああ……覚えていない」
「私たちがよく喧嘩して、でも最後にはいつも笑い合って、もう二度と怒らないと約束した子供っぽい諍いのことも?」
「——ああ……覚えていない」
「私が誘拐された時、あなたが命懸けで無慈悲な盗賊たちの手から私を救い出してくれた日のことも?」
「ああ……覚えていない」
「どうして……どうして私が誰だったか、忘れてしまったの?」
嗚咽が彼女の喉を引き裂き、鋭い苦痛の音が寝室の静寂を切り裂いた。
王女は泣き崩れ、熱く苦い涙の激流が彼女の頬を伝い落ちた。
自分が引き起こしているこの悲しみに耐えきれず、エリカは自分が持っている唯一の真実にすがりつこうとした。
「本当のことを言うと……この身体は、俺のものじゃないんだ」
彼は目を伏せながら告白した。
若い女性は信じられないといった様子で、言葉を失って彼を見つめた。
「これは、ハンスという名の男の身体なんだ」
「何を言っているの?」
まつ毛に涙を浮かべ、すがるような目で彼女は尋ねた。
「ハンスが俺の心臓に剣を突き立てて、俺を殺した。そして気付いたら、俺は奴の身体の中で目を覚ましていたんだ」
震える声で彼は説明した。
「私はハンスなんて人は知らない……私はずっと、あなたを知っているわ。リンゴ・エリカ、あなたのことを」
彼女の声は強さを増し、その現実を拒絶して抗議した。
「でも……でも……俺は、そのすべての思い出を生きた男じゃない……それを生きたのはハンスだ……ハンスなんだ……」
「私はハンスなんて知らない……!」
混乱と悲しみが混ざり合い、彼女の声は裏返った。
「俺は、あの男の身体を奪って、奴の人生を破壊してしまったんだ」
その言葉を口にした時、リンゴ・エリカは自分が受けた力――他者の身体での転生――が、最悪の呪いであることを理解した。それは人々の人生を丸ごと破壊し、彼らの本質、絆、そして歴史を空っぽにしてしまう力なのだ。
「やめて……やめて……やめて……やめて……やめて……やめて! お父様とお母様が、私を置き去りにする前に言ったのと同じ言葉を言わないで!」
涙越しに彼女は囁き、崩れ落ちそうな顔を両手で覆った。親に見捨てられたという言及が、彼女の悲痛さにさらなるトラウマの層を重ねていた。
「俺はもう自分の父親のことも母親のことも覚えていないが……もし、俺が少しでもハンスの代わりになれるなら……目の前で泣き崩れているこの王女様が……少しでも安らぎを取り戻せるのなら……俺はハンスの役割を引き受けよう。ハンス・フォン・アドラーシュタインの役割を」
その言葉を口にしながら、エリカは心の中で静かに誓った。王女の従騎士になることを。たとえそれが、ハンス・フォン・アドラーシュタインがヴィクトリア・フォン・ホーエンヴルッセンに対して抱いていた、深く悲劇的な感情を背負うことを意味するとしても。この女性の痛みを和らげるためなら、彼は他人の歴史を自分のものにする覚悟があった。
だがその直後、突然の鋭い思考が彼の精神を引き裂いた。
『どうして俺は、フォン・アドラーシュタインという名前を知っているんだ?』
彼はその名前を、ハンスのフルネームを、まるでずっと前から知っていたかのように、ごく自然に、一切の躊躇なく口にした。クリーグやヘンリヒの口から一度も聞いたことがないにも関わらずだ。それはこの身体の記憶の底から浮かび上がってきた名前であり、彼自身のものではない記憶だった。
「あなたはハンス・フォン・アドラーシュタインじゃない。あなたはリンゴ・エリカよ。存在したこともない男の代わりになろうとしないで。それに、フォン・アドラーシュタイン家には娘しか生まれていないわ」
リンゴ・エリカは、純粋な悲痛の衝動から、突然ヴィクトリア王女を抱きしめた。彼女を強く抱きしめ、自分のものではない、しかし重荷として感じる悲しみを癒やそうとした。彼には彼女の愛を返すことはできない。しかし、彼女の避難場所になることはできた。
「ああ、俺はリンゴ・エリカだ。あなたの、最も忠実な従騎士だ」




