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第一章6『動き出した陰謀』


旅は長く、過酷なものだった。絶え間ない揺れと困窮が続く永遠のような時間だったが、深く執拗な無意識の淵に沈んでいたエリカがそれを感じることは全くなかった。


一方でクリーグにとって、流動的な国境と猜疑心に満ちた文化によって切り分けられた九つの国を越え、アリアマナ領へと至る道程は、彼の決意と体力を試す長き試練となった。一行の進軍は、当初は迅速で隠密なものだったが、積み荷の富の噂を聞きつけた薄汚い盗賊団による突発的かつ残虐な襲撃や、国境検問所での複雑な外交上の制約と事務的な嫌がらせによって幾度も遅延を余儀なくされた。しかし、クリーグは驚異的な忍耐と機転を発揮し、ついに白の王女の壮麗な城館へと辿り着いた。そこは、穏やかで心地よい陽光に包まれた豊かな渓谷を見下ろす、白淡色の石造りの要塞だった。


私室に到着すると、クリーグはエリカの体を、比類なき安らぎを約束するような天蓋付きのベッドの上へと慎重に横たえた。不確かさを孕んだ安堵の溜息が彼の口から漏れる。


「よし、この長い旅が無駄にならず、目覚めが彼の回復に繋がることを願うばかりだ」


部屋の奥から、落ち着いた聞き覚えのある声が返ってきた。


「クリーグ……お前なのか?」


「ああ、ヘンリヒか」


クリーグが振り返ると、そこには使用人の服を纏い、長い待ち時間によって顔に疲労の色を浮かべた男が立っていた。


そのまさにその瞬間、エリカの体に意識が戻り始める兆しがゆっくりと現れた。鉛のように重い瞼が、気の遠くなるような遅さで持ち上がる。


最初に視界に入ったのは、鏡のように磨き上げられた白大理石の天井だった。そこにはカットダイヤモンドが施されたシャンデリアが飾られ、午後の光を捉えては無数の虹色の煌めきを散らしていた。これまでの旅の記憶とはあまりにも対照的な、虚飾に満ちた贅沢な光景だった。


「ああ、やっと目が覚めたか、エリカ。神々に感謝を、どれほど安心したことか! 気分はどうだ?」


クリーグの声には、抑えきれない感情がこもっていた。


「……たぶん、大丈夫だ。妙に……体が休まった気がする」


エリカは、まるでありふれた一晩の眠りから覚めたかのような驚くべき軽やかさで起き上がり、まだ呆然とした目で周囲を見渡した。寝室は広大で、確かな富と趣味の良さで装飾されていた。部屋には他に二人の男がいた。一人は旅の鎧を纏った大柄なクリーグ。もう一人は、不安の影を顔に宿した痩身の使用人、ヘンリヒだ。


「騎士エリカ様……ヴィクトリア様は、クリーグから状況を聞いて以来、ずっと、ずっと心配しておられました……。絶望の淵にいらっしゃったのです」


声の主であるヘンリヒの口調は、ハンスのそれよりも低くなく柔らかで、そこには献身と敬意が細い糸のように紡がれていた。


「ヴィクトリア……?」


エリカがその名を繰り返す声はたどたどしく、実体のない残響のようだった。


「あなたが昏睡状態に陥ってから、もう一ヶ月以上が経つのですよ」


「一ヶ月……?」


エリカの驚きは隠せなかった。混乱が彼を支配する。主観的には、ほんの一日ほど長く昼寝をしていた程度の感覚しかなかったのだ。一ヶ月もの無意識など、全くの予想外だった。それもそのはず、彼が素早く確認した自分の体は完璧な状態で、筋肉の衰えも衰弱の兆候も一切見られなかったからだ。


「私が責任を持って、栄養のあるスープを飲ませ、細心の注意を払って介抱してまいりました……。ですが、申し上げねばなりません。あなたの昏睡はヴィクトリア様を深い鬱状態と、恐ろしい不安へと突き落としました。私や侍女たちが何度お慰めしようとしても無駄でした。彼女は恐れていたのです……それが『また繰り返される』のではないかと」


ヘンリヒはその最後の言葉を口にすると、顔に陰を落として目を伏せた。


クリーグが一歩前に出た。その口調はより切迫し、直接的なものへと変わる。


「エリカ、立ち上がるんだ。今すぐヴィクトリア様に会いに行かなければならない。彼女は私室にいらっしゃる。お前が彼女を安心させるんだ。お前の不在が彼女を壊してしまった」


「ヴィクトリアとは誰だ?」


その問いは、あまりにも完全で誠実な拒絶を孕んでいたため、部屋の空気は突然凍りついた。「ヴィクトリアとは誰だ?」というその一言は、そこにいた二人の男を驚かせ、それ以上に狼狽させた。


クリーグは目を細め、顎を食いしばった。


「おい、エリカ。我々をからかっているのか? お前はヴィクトリア様の従騎士じゅうきしだろう! この三年間、ずっと彼女の側に仕えてきたお前が、彼女を知らないはずがない!」


エリカはゆっくりと首を振った。その顔には完全な無知という当惑させるような表情が浮かんでいた。


「……誓って言う。ヴィクトリアなんて女性は知らない」


城館に待ち受ける次の試練を予感させるように、冷たい風が部屋に吹き込んだ。


「エリカ……」


ヘンリヒの声は、抑えきれない不安に震えて消えた。彼はエリカと呼ばれる男の虚ろな瞳を見つめていた。そこには奇妙な親しみやすさと、決定的な不在が共存していた。


「クリーグ、よせ。彼は……完全に記憶を失ってしまったようだ」


白の王女の掴みどころのない従騎士、リンゴ・エリカ。彼は、自分が今住んでいる「ハンス」という男の抜け殻を、本当の意味で知ることはなかった。彼は(リンゴ・エリカ)であり、それ以前は生まれた時に与えられた「リンゴ・エリカ」であった。しかし、エリカになる前のハンスという男は、彼にとって幽霊に等しかった。何の記憶もない。それは単なる記憶障害ではなく、前世の存在が完全に拭い去られた、空白のタブラ・ラサだった。


気短な性格のクリーグは拳を握りしめ、その顔を怒りで歪めた。


「……またあのクソ野郎、総統フューラーの仕業に違いない。精神をこれほどまで無残に破壊する手段と残虐さを持ち合わせているのは、奴しかいない」


ヘンリヒが慌てて駆け寄り、クリーグの腕を掴んだ。


「クリーグ、早まるな! 滅多なことを言うものではない。総統派プロ・フューラーの耳はどこにでもある、ここですらな。一言が命取りになるんだぞ」


だが、クリーグの激情は慎重さを超えていた。彼は荒々しい力でその手を振り払った。


「知ったことか! 奴らに分からせてやらねばならん。我らこそが王冠の忠誠派ロイヤリストであり、彼女のためにどこまでやる覚悟があるかをな! もしエリカの……白の王女の従騎士の記憶喪失を仕組んだのが奴らなら、その血で償わせてやる」


彼の声は地を這うような唸り声となった。


「我々にできることなど、何もないのだ……」


ヘンリヒは疲労と恐怖に苛まれながら、両手で髪をかき乱した。


「総統は軍事改革された議会を掌握し、この国を鉄の拳で支配している。我々が公に動けば、即座に処刑を命じられるだろう。それだけではない。最悪の場合……フォン・ホーエンヴルッセン王家の方々の命まで奪われかねない」


「ヴィクトリア様は我々の保護下にある。体制の目から離れた、安全な場所に……」


クリーグは唯一の慰めを口にして言い返した。


「だが、皇帝陛下カイザー皇后陛下カイゼリンは神殿に幽閉されている。あの中枢を簒奪さんだつした政府の人質なのだ」


ヘンリヒは暗い顔で頷いた。


「軍事議会の改革以来、王室の支持者たちは恐怖に震え、力を失い、身を潜めている。我々の努力はすべて無に帰した。それどころか、我々を支持していた議員たちも、総統が捏造した『国家反逆罪』によって次々と逮捕されている始末だ」


不吉な予感の煌めきが、クリーグの顔を照らした。


「待て……もしエリカが記憶喪失だとしたら……奴らにとっては権力を完全に掌握する絶好の機会ではないか。ついにあの過酷な法律を施行し、残存する反対勢力を根絶やしにする……そして最悪なことに、ヴォルスカ公国に対して宣戦布告するつもりか」


ヘンリヒは恐怖に満ちた低い声で肯定した。


「もしそうなれば、第二次大陸戦争が勃発する。もはや避けられん。外交危機はすでに限界に達しているのだ」


クリーグは悪態をつき、机を拳で叩きつけた。


「クソが……何としてでもエリカの記憶を取り戻させねばならん。秩序を取り戻し、この流血の惨事を防ぐ唯一の希望は、彼なのだから」


クリーグとヘンリヒは、エリカが座っているベッドの上の壁に掛けられた旗を見上げた。


それは、上下に二本の黒い帯が入った白い旗だった。中央には三つの頭を持つ鷲(三頭鷲)が描かれており、中央の頭には王冠が戴かれ、左の頭は中身のない空洞、そして右の頭は頂部が尖ったピッケルハウベを被っていた。


それはホーエンヴルッセン家の旗であり、かつてのヴルッセン公国の象徴でもあった。

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