第一章1 『俺は…』
「お前は誰だ?」
普通なら、この単純な問いには迷わず姓名を答えるだろう。だが、私にとっては……
「自分が何者か」と問われても、答えることは不可能だった。
私は「自分が何者か」の記憶を失っていたのだ。
自分が誰なのかも分からないのに、こんな質問にどう答えればいい? 適当な名前をでっち上げることもできる。だが、それが名簿になかった場合、奴らは嘘に対してどう反応するだろうか? 即座に死刑が執行されるのか、それともどうせ死ぬのだからと嘘にも無関心でいるのか?
ならば、「自分が何者か」を知ろうとすることに何の意味がある?
——私は誰だ?
何も思い出せない。ただ、あの林檎をかじった後、瞼がひどく重くなったことだけは覚えている。完全な暗闇の中にいた。
だが、瞼の重さが消え、目を開けた時、私は馬車の中にいて、他にも二人の人間がいた。
一人は銅の服と熊の首飾りを身につけたカールという男。もう一人は私と同じ麻の服を着たオットーという男だった。
道中ずっと……いや、正確には目を覚ましてからの僅かな時間、彼らが言葉を交わすのを見ていた。私が眠っている間にも話していたのかもしれないが、彼らが「私が何者か」を尋ねてくることは一度もなかった。
カールの話によれば、オットーは私の後に乗せられたらしい。つまり、最初は私とカールの二人だけだったということだ。しかし、囚人として目覚める前の「自分が何者だったか」も、あの林檎をかじった時の「自分が何者だったか」も、全く記憶にない。
「おい、黄色い肌。さっさと答えろ」
「黄色い肌」というその言葉は、明らかに私に向けられていた。
ここにいる他の者たちとは違い、私以外の全員が白い肌をしていた。私の肌は「黄色み」を帯びており、それは私が異国の出身であることを意味していた。
「この辺りでお前のような奴は見たことがない……お前が、リンゴ・エリカか?」
「リンゴ・エリカ」——それが「お前は誰だ?」という問いに対する答えだった。
「私は、リンゴ・エリカだ」
曖昧な記憶が蘇る。二人の大人の姿……シルエットははっきりと見えなかったが、男と女であることは認識できた。
「エリカ、『黄色い肌』の『林檎喰らい』よ。処刑人の元へ行きなさい」
エリカは自身の死に場所へと歩みを進めた。




