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プロローグ 『私は誰?』

尿と濡れた土が染み込んだ馬車の木材は、鼻をつく悪臭を放っていた。揺れるたびに衝撃がガンガンと頭に響いたが、何よりも神経を逆なでしたのは、絶え間なく続く鎖の金属音だった。


目を開けると、陽の光に目が眩んだ。

目の前には、中年の男が二人。一人は銅の胴衣を纏い、熊の頭を模した首飾りをつけている。もう一人は私と同じく、麻袋のような粗末な服を着ていた。


「やっと目が覚めたか」


熊の首飾りの男が話しかけてくる。頭はまだ混乱している。「俺は……一体何をしていたんだ?」


「道中ずっと眠っていたからな……そう言えば、もう一人囚人を拾ったんだった」


もう一人の男が彼を鋭く睨みつける。


「俺はあんたらの革命とは何の関係もない。こいつもな」その『こいつも』は、明らかに私を指していた。


「友よ、ナタンギア領がお前を捕らえたのなら、理由がないはずはあるまい」


「俺はただ国境を越えようとしただけだ」


「運命を受け入れろ、友よ。我々は鎖に繋がれ、護送されている身だ。逃げようとすれば死刑だぞ」


外では蹄の音が単調なリズムを刻み直し、私を現実へと引き戻す。揺れる木の箱、ずきずきとする不快感、そして目に見えぬ目的地の脅威。御者が目の前で話す二人の囚人に罵声を浴びせる。


「黙りやがれ、反逆者ども!」


「どうせ死ぬんだ、今のうちに楽しませろよ」私の左にいる男が吐き捨てるように言った。


「待て、死ぬって?」


熊の首飾りの男が彼を見る。


「友よ、死こそが我々の終着点だ。恐れることはない」


「死にたくない……村で皆が待ってるんだ」


「出身はどこだ……」


御者が熊の首飾りの男を激しく鞭打った。まるで無理やりにでも黙らせるかのように。


「ぐっ……わかった、静かにするよ……十一の神々が我らに最後の救いをもたらさんことを」


静寂が訪れた。状況に怯えた男は、手錠代わりの縄を密かに解こうと試みる。必死の形相で、馬車のざらついた壁に縄を擦り付けている。車内に響くのは、繊維が木に擦れるシュルシュルという音だけだ。


縄は頑丈で、逆に彼の皮膚が裂けていく。血が馬車の壁を伝い、木の裂け目に染み込み、床へと滴り落ちる。その血は、吸血蜘蛛の餌となるだろう。


「目的地に到着だ」


御者が、ある木の扉の前で馬車を急停止させた。巨大な石壁からして、砦の入り口だろう。他の馬車も止まる。我々だけではないようだ。


突然、城壁の扉の上にいた男がレバーを引き、通路を開けた。馬車が再び動き出す。


「我らの死に場所へようこそ」男は私の目をまっすぐ見て言った。


目の前には広大な森、いや、見渡す限りの暗い林に囲まれた巨大な広場が広がっていた。枝の間から陽は射しているものの、空気は重く冷たい。奇妙なことに、動物の気配が全くない――鳥のさえずりも、虫の音すらもしない。生き物は、ナタンギア領の兵士たちだけだ。


「ああ、見ろ……ジュール将軍だ。蛇人へびびとたちと一緒にいるようだな」


「蛇人……奴らがなぜここに?」


「友よ、我々は死ぬのだ。そんな疑問を持つ必要などもうない」


臆病な男が「チッ」と舌打ちをした。


やがて五台の囚人馬車は壁の前で停止させられた。横一列に整然と並ぶ。


私を含め、囚人全員に降車命令が下る。ほとんどの虜囚は、私の前にいた男と同じ格好をしている。銅の服と、熊の頭の首飾りだ。


対照的に、私ともう一人の囚人は、何の守りにもならない麻のチュニック一枚だ。胸と背中、腹を覆うだけで、腕や肩はむき出しである。ズボンも、以前の囚人の排泄物で汚れていた。


虜囚の中に一人、異彩を放つ者がいた。同じ銅の鎧だが、熊の頭をあしらったマントを羽織り、何よりその目は布で覆われている。


「旨いワインを飲みましょう、ティティス将軍。大いなる楽園が待っています」


「カール……楽しみだ」


カールというのは道中私の向かいにいた男の名で、ティティスは目隠しをした男の名だ。


「名簿の確認を始める!」


女性の声が響いた。鉄の鎧を纏い、風になびく赤い髪と緑の瞳を持つ女が、囚人一人一人を見定めている。


「名前を呼ぶので、処刑人の元へ向かうように」


斧を手にした処刑人が待ち構えていた。我々の首を刎ねる準備は万端だ。刃にこびりついた乾いた血を見れば、これが初めてではないことは明らかだ。


「熊の革命軍指導者、ティティス将軍」


「栄光あれ、将軍」


ティティスは処刑人の元へ歩き出す。


「革命軍副官、カール」


「楽園が待っている」


カールが後に続く。


「移民のオットー。国境侵犯者。お前は死刑ではない」


「あ、ありがとう」


「その代わり奴隷となってもらう。買い手はすでに見つかっている」


「奴隷……冗談だろ!」


「衛兵、こいつを檻に放り込め。処刑が終わり次第移送する」


女よりも腕の太い、兜をかぶった鉄鎧の衛兵たちがオットーの両脇と足を掴んで持ち上げる。そのまま金属製の檻へと投げ込んだ。


「そして最後、お前」


その言葉は私に向けられていた。


「お前は誰だ?」


そうだ……私は誰なんだ?

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