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明らかに、着実に近づいている。
迂回はない。
周囲を探る様子もない。
二つの反応は、一直線に洞窟へ向かってきている。
「……ヤト」
名を呼ぶと、
ヤトは即座に意図を理解した。
姿勢を低くし、腰の刀に手をかける。
次の瞬間、黒刀から青白い電撃が迸った。
雷纏。
魔気を雷へ変換し、刀身に纏わせることで、
抜刀速度と切れ味を大幅に引き上げる能力。
同時に、俺は《隠れ身》を発動する。
認識できない短剣を、静かに構えた。
二つの反応が、ぴたりと止まる。
位置は、洞窟の入口手前。
姿が見えた瞬間、
一気に距離を詰めて首を刎ねる。
正面からの一対一では、
おそらく勝てない。
だから、不意打ちだ。
ヤトと目が合う。
短く、頷き合う。
数十秒後。
小石が一つ、洞窟の中へ転がってきた。
……スキルか?
ここで動くべきか。
いや、これ以上こちらの手を悟らせるのは得策ではない。
さらに、もう一つ小石が投げ込まれる。
何だ?
挑発か? 確認か?
その時、洞窟の外から声が響いた。
「敵意はない!」
続いて、少し焦ったような声。
「本当に、戦うつもりはない!
だから――話をさせてほしい!」
罠か。
そう思った直後、
二つの影が洞窟の縁に姿を見せた。
一体は、
緑色の大柄な巨体。
背中に大剣を背負っている。
もう一体は、
大型の狼のような獣。
どちらも、
敵意がないことを示すように、
ゆっくりと両手を上げていた。
「動くな!」
ヤトが鋭く叫ぶ。
「それ以上近づけば、斬る!」
緑色の巨体が、慌てたように首を振る。
「待ってくれ! 本当に違う!」
一瞬、言葉を選ぶように間を置き、
ヤトをまっすぐ見て続ける。
「……あなたは、従者だろ」
ヤトの動きが、わずかに止まる。
「なら、主人に判断を仰ぐくらいの猶予はあるはずだ。
ここで斬られて終わる覚悟で来た。
それでも、話す価値はあると思っただけだ」
……なるほど。
俺は《隠れ身》を解除し、
玉座の前に姿を現した。
「――話を聞こう」
洞窟の空気が、
一段、張り詰めた。




