冬休みのはずの学園と、嘘の実話祭り
最終エピソード掲載日:2026/01/14
十二月下旬、雪で外部との連絡が途切れた私立学園の寮に、孝太郎と春花を含む八人が取り残される。食堂の鍋の匂いは温かいのに、廊下の先には旧校舎の時計塔が黒く立ち、夜更けにだけ窓が深い青に灯った。春花は毛布の端を握り、言い出しかけて飲み込む。孝太郎は得点表を作りながら「ルールがあると落ち着く」と笑ってみせるが、笑いの裏で時計の針だけが進む。
不安を薄めるために、翔夏子は夜九時、図書館の丸テーブルへ全員を呼ぶ。ひとり一つの嘘と一つの本当を語り、聞き手は点を付ける「嘘の実話祭り」だ。ノブヤは場を軽くしようとして言葉を滑らせ、智香里は怒りそうになって息を整え、量大は翌日の雪かき手順までノートに書き足す。弥風は年鑑の端をめくり、伸篤は誰にも言わず毛布を椅子に掛ける。点が動くたび、安心が増える。けれど、青い光は消えない。
勝った者だけが鍵穴に挑めるという噂に背中を押され、八人は手袋と懐中電灯を握って旧校舎へ向かう。扉の鍵穴を触ると、青い粉が雪へ落ち、欠片が指に冷たく残った。点数の夜が重なるほど、鍵穴の粉は少しずつ増える。誰かが「怖い」と言い、誰かが「渡す相手が分からない」と止まり、誰かが冗談で丸めた角を見つけて黙る。春花は靴ひもを結び直す仕草で迷いを隠してきたが、孝太郎の隣で歩幅だけを合わせられるたび、言葉を置き去りにできなくなる。
やがて紙片に残された七つの一行が見つかり、八人はそれを読み上げる。春花が最後に「迷ったって言えるの、強い。……私、今夜は言える」と声に乗せた瞬間、時計塔の扉が一度だけきしみ、雪の粉を落として開いた。狭い階段を上り、最上段の箱を開けると、光らない青い石が現れる。誰かを救う呪文ではない。けれど、誰かに手渡せる形で自分の言葉を残すための、静かな合図だった。
年が明け、バスが学園を離れる朝。孝太郎はポケットの上から石を軽く叩き、春花は隣の席で小さく息を吐く。「帰り道って、はじめてだね」。曇った窓の丸の向こうで、二人は迷いを責めない選び方を覚えていく。
不安を薄めるために、翔夏子は夜九時、図書館の丸テーブルへ全員を呼ぶ。ひとり一つの嘘と一つの本当を語り、聞き手は点を付ける「嘘の実話祭り」だ。ノブヤは場を軽くしようとして言葉を滑らせ、智香里は怒りそうになって息を整え、量大は翌日の雪かき手順までノートに書き足す。弥風は年鑑の端をめくり、伸篤は誰にも言わず毛布を椅子に掛ける。点が動くたび、安心が増える。けれど、青い光は消えない。
勝った者だけが鍵穴に挑めるという噂に背中を押され、八人は手袋と懐中電灯を握って旧校舎へ向かう。扉の鍵穴を触ると、青い粉が雪へ落ち、欠片が指に冷たく残った。点数の夜が重なるほど、鍵穴の粉は少しずつ増える。誰かが「怖い」と言い、誰かが「渡す相手が分からない」と止まり、誰かが冗談で丸めた角を見つけて黙る。春花は靴ひもを結び直す仕草で迷いを隠してきたが、孝太郎の隣で歩幅だけを合わせられるたび、言葉を置き去りにできなくなる。
やがて紙片に残された七つの一行が見つかり、八人はそれを読み上げる。春花が最後に「迷ったって言えるの、強い。……私、今夜は言える」と声に乗せた瞬間、時計塔の扉が一度だけきしみ、雪の粉を落として開いた。狭い階段を上り、最上段の箱を開けると、光らない青い石が現れる。誰かを救う呪文ではない。けれど、誰かに手渡せる形で自分の言葉を残すための、静かな合図だった。
年が明け、バスが学園を離れる朝。孝太郎はポケットの上から石を軽く叩き、春花は隣の席で小さく息を吐く。「帰り道って、はじめてだね」。曇った窓の丸の向こうで、二人は迷いを責めない選び方を覚えていく。
第1話 冬休みのはずの学園
2025/12/23 12:10
第2話 嘘の実話祭り、開幕
2025/12/23 12:20
第3話 ノブヤの一杯だけ危ない話
2025/12/23 12:30
第4話 弥風、校史の端に青い線
2025/12/24 07:00
第5話 量大の“改善ノート”が爆笑を呼ぶ
2025/12/24 12:00
第6話 春花は初めての廊下で迷う
2025/12/25 07:00
第7話 翔夏子の“堂々とした嘘”
2025/12/25 12:00
第8話 強い言葉の裏側
2025/12/26 07:10
第9話 第一の鍵、青い欠片
2025/12/26 12:00
第10話 勝者はひとり、と書かれていた
2025/12/27 07:00
第11話 孝太郎のサンタは遅刻する
2025/12/27 12:00
第12話 旧校舎の階段、鳴らない段
2025/12/28 07:00
第13話 ノブヤ、トラブル回避に失敗する
2025/12/28 12:00
第14話 弥風の知識が走り出す
2025/12/29 07:10
第15話 量大は嘘より先に軍手を出す
2025/12/29 12:10
第16話 春花の“はじめての人”
2025/12/30 07:10
第17話 翔夏子、堂々と先頭で転ぶ
2025/12/30 12:10
第18話 智香里の紙片、破られなかった言葉
2025/12/31 07:10
第19話 伸篤は沈黙を守る
2025/12/31 12:10
第20話 青い欠片が二つに割れる
2026/01/01 07:20
第21話 点数が、心を刺す
2026/01/01 12:10
第22話 ノブヤの回避術、通じない夜
2026/01/02 07:10
第23話 弥風、旧校舎の地図を描く
2026/01/02 12:00
第24話 量大は“勝つ方法”より“戻る方法”を選ぶ
2026/01/05 12:10
第25話 春花の直感が外れる
2026/01/06 07:10
第26話 孝太郎の“どちらでも満足”は嘘だった
2026/01/06 12:10
第27話 翔夏子の勝負服、雪に負ける
2026/01/07 07:10
第28話 智香里の“強さ”が崩れる瞬間
2026/01/07 12:10
第29話 ノブヤの“好き”がこぼれる
2026/01/08 07:10
第30話 第二の鍵、青い溝が合う
2026/01/08 12:10
第31話 時計塔の扉、開かない
2026/01/09 07:10
第32話 “嘘の実話”が最後に残すもの
2026/01/09 12:10
第33話 春花は初めて“渡す相手”を選ぶ
2026/01/10 07:10
第34話 午前零時五分、五枚の紙片が行き先を変える
2026/01/10 12:10
第35話 午前六時二十分、ココア没収の朝
2026/01/11 07:10
第36話 最終夜、嘘が一つも出ない
2026/01/12 12:10
第37話 時計塔へ、言葉を持って行く
2026/01/13 07:10
第38話 ディープブルークォーツの正体
2026/01/13 12:10
第39話 勝者の席、譲らない渡し方
2026/01/14 07:10
第40話 冬が明ける、はじめての帰り道
2026/01/14 12:10