98、カニャク、初めての感想
「こりゃまた美味いのー!」
アローゼ子爵はカズが作った料理を頬張りながら言った側で、従者のカニャクも一口食べながら答えた。
アローゼ子爵家では、主人と従者が一緒に食事をするのは普通の事だ。
「これはサンドイッチというものらしいです」
正直言って、カニャクはカルニートでの宿泊先が最初は気に入らなかった。
ただ、気に入らなかったのは本当に初めだけでその後はどこの高級宿より居心地がいいと認めていた。
献上する武具の素材であるミスリルが採れる場所はこの国にも他にいくつかある。
王都から1日くらいで行ける場所もあるのだが、主人の旧友であるシルヴェストがいるカルニートに行くと主人が言い出した時は正直うんざりだった。
この世界の貴族の旅は馬車が基本だ。
アローゼ子爵家は財政的にも潤っている方なので、馬車もかなり乗り心地が良い。
それに関しては文句はないのだが、とにかく旅の最中の飯がマズい!
めちゃくちゃマズいのだ。
だがしかし、カルニートのマツヤで食べた珍しい料理の美味しさと言ったら
ポーカーフェイスのカニャクでさえも、一瞬歓喜の表情を出してしまうくらいだった。
あのスキヤキとやら…非常に美味しかった。
思い出すだけで、また食べたくなる旨さ。
そして、王都にいるマツヤの従業員の一行に食糧などを届ける代わりに受け取った数々の料理。
1泊目の野営地でまずは軽めのものをと思い、パン料理を選んだ。
それがこのサンドイッチというものだった。
「パンの中にハムや野菜が入っておるのー!野菜がシャキシャキじゃ!この白いソースがマヨネーズとかいうやつじゃろ!美味い!美味いのー」
カニャクが知っているパンは、硬くてパサパサしているものだった。
しかし、オーナーのカズが持たせてくれたこのサンドイッチのパンはしっとりとしていてふわふわだ。
うーむ、このパンはあそこで焼いているのでしょうか。
パンをめくるとハムと野菜がたくさん挟まっている。
そして、カルニートだけではなく
この国全土に広がりを見せているマヨネーズ。
そのソースの考案者がカズだったと知って、物凄く驚いた。
「酸味が効いていて、さっぱりいただけますね」
思わずカニャクが感想を言い、周りを見るとみんな開けた口をそのままに固まっている。
「どうしたのですか?」
「い、いや、お前…お前が食べ物の感想を言うなんて初めてじゃぞ」
アローゼ子爵が驚いた口調で言っているが、カニャクには関係ない。
今、この最高に美味しいサンドイッチを食べる方が先だからだ。
カニャクはサンドイッチを食べながら
朝、カズから受け取った沢山の料理を思い出す。
王都までの食事であれが食べられると思うと嬉しくて堪らなかった。
カニャクは初めて旅が楽しいと思えたのである。
ちなみに、サンドイッチのパンはカズが前から購入しているスーパーの安売りの食パン。
あまり美味しすぎるのだと悪目立ちするかも?という理由から選んだものだった。
最近は、買い出し担当がカズからタクマに変わったがパンは相変わらずそれを買っている。
その後、アローゼ子爵一行は無事に王都に帰って来た。
旅の間の食事が美味しすぎて元気がありあまり、予定よりも2日も早く王都に着いてしまった。
すぐさまカニャクは、セルトがいる貴族家に使いを出して伺う旨を伝えて預かった品を届けに出かけた。
「こういう事は早い方が良いですからね」
カニャクの中でカズの株が爆上がりして、そんなカズの頼みだからかいつもより足取も軽い。
カズの話では、王都の貴族であるカイウス男爵家に世話になっているらしい。
「カイウス男爵といえば、貴族位を買った新進貴族だったな」
新進貴族とは、貴族位を賜ったり買ったりして比較的新しい貴族家の事を言う。
アローゼ子爵は先代の王様から貴族位を賜ったが、それでも貴族世界では新しいのだ。
一方、その反対に古くから何代も貴族位を継承している貴族家は古参貴族と言われている。
貴族世界の大半は古参貴族家だ。
多くの古参貴族家は、新進貴族家を見下しているのが現状である。
これからカニャクが向かうカイウス男爵家も貴族世界では軽んじられている派。
アローゼ子爵家と仲間という事になる。
「何か上手く繋がりを作れたら嬉しいですね」
カニャクは向かう馬車の中で
色んな想像をしながらカイウス男爵家に向かった。




