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異世界旅館松や  作者: ぎゆり
第1章
93/104

93、ドワーフとドワーフ


目の前に、俺が会いたかったドワーフ子爵がいる。

王都にいるはずのドワーフ子爵が何故この旅館に?と頭の中がぐるぐるしている俺。


旅館の店先には、ドワーフ子爵とそのお付きのドワーフ達。

今、この旅館はドワーフ密度が異様に高い。


「おーい!シルヴェストー!おらんのかー」


なかなか返事が来ないので、大きな声でシルヴェストさんを呼ぶドワーフ子爵。

その声の大きさに俺は現実に引き戻された。


「あ、あの?」


「ん?何じゃ?シルヴェストはおらんのか?」


「あ、シルヴェストさんなら2階に…」


と言い終えない所で

2階からもの凄い音が聞こえて来た。


ドドドド…ドタドタドタドタ…


あ、階段降りてる…と分かるくらいの大きな音でもう1人のドワーフが降りて来た。


「なんじゃ!アローゼじゃないか!何しに来たんじゃ!!」


「お前がまだ生きてるか確認しに来たんじゃ!まだ生きとったか!!」


などと言っているが、顔はもの凄い笑顔だ。

2人の会話から相当仲が良いと伺える。

シルヴェストさんは階段から降りてドワーフ子爵の所に行き、ガハハハ!と笑いながら背中をバンバン叩いていた。


「それはそうと、本当はどうしたんじゃ?王都の方はいいのか」


「実はな、新しい武器を鍛えたいんじゃが…ちとその材料が足りなくてな。それを採りに行く最中なんじゃ」


「材料?どんなもんじゃ?」


「う、うむ…」


ドワーフ子爵は言いにくそうにしているが、シルヴェストさんはお構いなしだ。


「お前!人に言えないようなもんか!?」


「違うわい!…ミスリルじゃ、ミスリル!」


「なんじゃ、ミスリルか…っておい!ミスリル!?」


ミスリルは俺も聞いたことあるぞ!

ゲームとかで武器屋で買うとめちゃくちゃ高いんだよな!

ってミスリルを採りに来たって事は、ミスリルってどっかにあるもんなのか!


ふと、周りを見るとシルヴェストさんとドワーフ子爵のやり取りを従業員が何事かと見に来ていた。


「あ、あの…シルヴェストさん?」


このまま放っておくとドワーフとドワーフの会話で益々盛り上がって行きそう。


「おお!すまんすまん!カズ、これがこの前話しとったワシの馴染みのアローゼじゃ!アローゼ、こちらはここのオーナーのカズじゃ」


「ん?ワシの話をしとったのか?まあ、それは後から聞く事にするわい。アローゼじゃ!よろしく頼むぞい。いきなり尋ねてすまんかったな、シルヴェストから宿があると聞いとったからなしばらく泊めてもらおうかと思ってな」


「宿泊ですか…」


「ん?なんか不味かったかの?」


「いや、実は…」


俺はこの宿を継ぐ経緯をドワーフ子爵改アローゼ子爵に話した。


「そうなのか…それはお前さんも大変じゃったの?しかし…部屋がないとなると…困ったのう」


後ろを見るとアローゼ子爵のお付きのドワーフさん達が15人ほどだ。

宿泊用の部屋は従業員の住居にしてあるけど、いくつかは空いている。

しかし…相手は貴族だ。

どうしたもんか…


すると、しばらくその場を離れていたクラスティアさんが戻って来た。

俺の背後に回って、俺にだけ聞こえるような声で言った。


「残りの客室を点検してまいりました。掃除は行き届いておりますので、問題ないかと。ベッドとタタミのあるお部屋に子爵様はお泊まりになれます。残りの1室は広めのタタミですので、従者の方々5人ほどならば」


なぬーー!

クラスティアさん、いつそこまでチェックしたんだよ!

凄技すぎるだろ!!


アローゼ子爵の従者が慌てて宿を探しに走ろうとしているので、俺は提案してみた。


「アローゼ子爵、よろしいですか?」


「ん?なんじゃ?」


「実は、前に客室として使っていた部屋が2部屋空いておりまして…先程従業員が点検しましたが、毎日掃除もしてありますのでアローゼ子爵がお泊まりになるには問題ないという事でした」


「なんと!良いのか!」


「はい、ただ従者の皆さん全員はお泊まりにはなれないので…部屋の広さを見ていただき入れない方々は他の宿にお願いします」


「ありがたい!では、早速見せて貰えるかの?」


「どうぞ、こちらです。案内は…」


俺の後ろで待ってました!とばかりにピョーンと跳ねる物体が1つ。


「あるじー!プルがごあんないするよー」


「え、プルが?」


いや、それはさすがに…シルヴェストさんの知り合いとは言え相手は貴族だぞ?

大丈夫か?


「カズ様、前はプルちゃんがお客様をお部屋まで案内する係でございましたので大丈夫です」


そ、そうなのか…

確かに激かわスライムに案内されたら最高だけどさ…とプルを見ると

期待に満ちた目で見上げている。


うっっ。


はあ…プルには弱いなぁ、俺。


「じゃあ、プルにお願いできるか?」


「はーい!まかせてー!では、おひげのみなさんこちらへどーぞー」


あわわわわ!プル!お髭って!

俺が慌てふためいているとシルヴェストさんが横から顔を出した。


「大丈夫じゃ、プルはあれでも客の本質を見抜いておる。お前さんが思うより出来るやつじゃ」


そう言われて、アローゼ子爵達を見ると

プルにお髭の皆さんと言われて嬉しそうだ。


「あははははは!このスライム!なかなかやるのー!」


「ありがとー!かいだんはきをつけてくださーい」


「おお!わかった!気をつけるとしよう」


本当だ…杞憂だったな。

プルはここに来た時から一緒だから、子供だと思っていたけど

考えてみれば俺が来る前からじいちゃんとこの旅館で働いていたんだ。

心配なんてするのはプルに失礼だったな。

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