91、出発の時
「がんばってねー!」
「セルトに会いに行くからね!」
虎の獣人のセルトくんとスライムのプルとリコルの抱擁…可愛いが渋滞…
俺は、朝から神聖なものを見せてもらった気がする。
みんなそれぞれ思い思いに別れの挨拶を済ませ
いよいよ、セルトくんが王都へ出発する。
今回の旅は、セルトくんにナディアさん、馬車の御者と護衛の“疾風の刃”のみなさんだ。
しかし、その横に当初の予定にはなかった人物が旅の支度をして並んでいた。
ソウガさんである。
昨日さ、セルトくんの激励会の後
こっそりソウガさんを呼んで2人でしばらく飲んだんだ。
「心配ですね…」
俺がそう言うと、ソウガさんは黙って頷いたけどこう言ったんだ。
「セルトの事は心配していません…あいつはやる時はやる奴だから…でも…」
そこまで言って少し間が空いてから、また一言一言考えながらソウガさんがポツリと呟く。
「ナディア…あいつの方が心配です。セルトが病気になってから方時も離れずに生きて来たから…セルトが寮に入った後が心配です…」
「そうですよね、僕もそこを心配してます。今までずっと一緒だったんですもんね…」
ソウガさんは頷いたけど、何も言わなかった。
でも、俺は用意していた提案を言ってみる。
「ソウガさん、王都まで付いて行ってあげてください」
「え?!」
「ナディアさんがセルトくんと離れがたくて王都に居座ったら大変だしね」
ソウガさんにとってこの提案は突然だったが、願ってもない事だったようだ。
いつもより口数が多くなって来てる。
「俺はありがたいが…でも俺もナディアも王都に行ったらここの警備は」
「何言ってるんですかー!うちには元冒険者のシルヴェストさんに現役冒険者のクラスティアさんとユストフさんも居るんですよ?それにプルやリコルも結構強いみたいだし。何とかなりますって!あ!もし不安だったらルドガーさんにお願いするので!」
うちの古株従業員3人は、冒険者としてもかなりの実力だというのはトールソンさんからも聞いていた。
それに忘れがちだけど、リコルはスライムだけど本当はユニコーンだしな!
プルだってじいちゃんと一緒に昔はクエストに行ってたらしいし。
「いや、しかし…俺まで王都に行くなんて…」
「あれ?ナディアさんが心配じゃないんですか?」
「え??」
「あーあー、もしかしたらセルトくんと別れた悲しみで旅の途中に誰かと恋仲とかになっちゃうかもよー?そーゆー時って間違いが起こりやすいって言うしなー…俺の世界でもそーゆー物語結構沢山あるんだけどなー」
ちょっと白々しく大袈裟に言ってみたら、ソウガさん慌ててアタフタしちゃったよ。
ムキムキのイケメンなのに、可愛いよな…
なるほど…これがギャップ萌えというやつ…
まあ、あんまりイジメるのも可哀想だから
とりあえずちゃんとここは真面目に。
「これはオーナーとしての仕事のお願いですよ。うちの大事な家族の1人を無事にカルニートまで連れて帰って来てください!」
そこまで言うと、ソウガさんは唇をギュッと噛み締めて大きな身体を折り曲げて俺に頭を下げた。
「ありがとうございます!!」
「では、そーゆー事ですからすぐ出発の準備してくださいね」
「あ、はい!じゃ、俺…準備して来ます!ありがとうございます!」
と言う事が昨日の夜にあったのだ。
ソウガさんが一緒に行くって知った時のナディアさん、嬉しそうだったな。
セルトくんはおそらく試験に合格するだろう。
セルトくんの居ない帰り道、誰か気心の知れた人がいた方がナディアさんも安心だろうしな。
そんな事を考えてると、出発の時間になっていた。
「オーナー!先生!行って来ます!」
「ああ!身体に十分気をつけて頑張って来いよ!」
「はい!」
俺はセルトくんとガッチリと抱き合った。
そして、出発したセルトくん一行が見えなくなるまでみんなで手を振って見送った。




