9、四度目のなんじゃこりゃ
次の日、俺はプルを連れて
従業員だったという人たちに会いに行く事になった。
プルは何故か裏口から外には出られないので
本日、ここに来て初めて旅館のどデカい扉を開ける。
この扉の鍵はプルが大事に保管?してくれてた。
身体の中にね…
「さて、行くとするか!」
「たのしみー」
扉の内鍵を開けて、重い扉をぐいっと開けた。
そして、見えた景色に俺は…
「なんじゃこりゃーーーーーーー!」
今まで一番大きななんじゃこりゃが出た。
しかも四度目。
「あわわわわわわわわ、こ、こ、これなに」
目の前にあるはずだった、見慣れた旅館の庭先ではなく
目の前に広がるのは、全く知らない景色。
南仏にありそうなちょっとおしゃれな感じの庭の真ん中に白いレンガが敷き詰められた小道。
その先には花のアーチだろうか
そんな感じの門が見えた。
「おいおいおい…なんだってんだよ」
扉を開けたはいいが、一歩も外に出られない俺。
「あるじー、どうしたのー?はやくいこうよー」
プルがひと足先に入り口から飛び出した。
「あ、ちょっとプル!」
明らかにこれは普通じゃねえ!
「プル…ここってどこ?」
なんかびっくりし過ぎて、思考がおかしくなってる。
ここってどこ?って言うのもおかしな話だよな。
「ここー?ここはまちだよー。プルがいたまちー!」
え?待って!プルがいた街?
プルって山奥でじいちゃんが拾って来たんじゃないの?
いや、待てよ…そうだよな
スライムなんて存在する訳ないもんな…
よく考えたら分かるよなー
って分かるかよ!!!
じいちゃん…本当になにやってんだよ。
そんな事をやっていたら、門の方から中を見ている人がいた。
ひぇっ!
俺はびっくりして入り口から中に戻ろうかと思ったけど、プルがポヨンポヨンとその人の方に向かってる。
「あ、プル!」
ちょっと待って!
危ねーって!
「あ!おひげのおじさんだー」
え?おひげのおじさん?
って事は旅館の従業員ってこと?
俺は恐る恐る、プルの後を追って行った。
「おお!プルじゃないか!久しぶりじゃのう!んで、じいさんは帰って来たのか?」
「ううん、じいちゃんはかえってこないんだってー。でも、あたらしいあるじがきたよー」
「新しい主じゃと?」
そう言うと、その人は俺の方を見た。
「こ、こ、こ、こんにちは」
「おう!お前さんじいさんの孫だな?」
目の前には、確かに髭の生えたおじさんがいた。
でも、すげえ小さい。
「あ、あの、はい。孫の岩井和と言います」
「そうかそうか!俺はここで働いてたシルヴェストってもんだ!見て分かると思うがドワーフだ」
ドワーフ…
ドワーフかぁ…
「お前さん、ドワーフ見るの初めてか?」
「あ、はい!初めて…です」
「そうかー!ガハハハハ!俺はここで設備とか力仕事しとったんじゃ!」
「そ、そうですか…」
「んで、お前さんが来たって事は…ここ再開するのか?」
「え、いやぁ〜どうしようかなって思ってる所でして、はい」
「なんだよそうなのかー?いつ再開するのかって気になってよ!毎日近く通るたびに見に来てたんだよ」
「そ、そうですか」
なんか思考が追いついて行かないんだけど
ちょっと落ち着きたいんだよ俺は。
「あ、あの…宜しければちょっと中で話しませんか?」
「ああ?おう、いいぞ」
俺たちはとりあえず旅館の中で話す事にした。
「なんじゃ、お前さん何も聞いとらんかったのか!」
「は、はい…」
俺は、じいちゃんとずっと疎遠でここに帰って来たのも10年ぶりくらいだと話した。
この旅館の事も何にも知らなくて、じいちゃんに「旅館を頼む」としか言われてない事も。
「まあ、それなら驚くわな!」
「え、ええ」
目の前にいるドワーフのシルヴェストさんは
元冒険者で魔物の討伐中に足に負った怪我が原因で引退したんだとか。
これからどうしようかと考えていた所、顔見知りだったじいちゃんにうちで働かないか?と言われて働き出したそうだ。
「ここの風呂はよ、俺が作ったんだ!」
あ、露天風呂の事か?
「それなら見ました。二階にある露天風呂の事ですよね?」
「おうよ!露天風呂だけじゃないぞ?中に石造りの風呂もあっただろう?あれも俺が作ったんだ」
すげー!この人すげーな。
「あの風呂に入りたいってやつは多くてな!風呂だけ入りにくる奴らも大勢いたんだぜ」
と言う事は、日帰り風呂みたいなもんか?
「そうなんですね」
「そうよ!それにな、じいさんの出す珍しい食いもんも人気があってだな、あれは何つったかな?えーと、すき…すき…」
「すき焼きですか?」
「お!それそれー!すきやきってのがえらい人気でよ!それ目当てに泊まる奴らも居たなあ」
「お前さんもすきやきってやつ作れるのか?」
「うーん、そうですねぇ…作れる事は作れますけどじいちゃんと同じ味になるかは自信ないです」
「そうかあ、まあでも作れるなら食べたいやつはいくらでもいると思うぜ」
「レシピとか残ってたらいいですけどね」
「れしぴ?」
「あ、作り方のメモというか覚え書きみたいなものです」
すると、今まで俺たちの話をゆらゆら揺れながら聞いていたプルが突然飛び上がった。
「プル、それしってるー!」
「レシピをか?」
「れしぴかわからないー、でもじいちゃんがごはんつくるときにかみにかいてたー」
「「それだ!」」
「プル、それどこにあるか分かるか?」
「んー」
プルはまたゆらゆら左右に揺れ始めた。
きっと思い出してるんだろうな…
プルがんばれ!
「……………あ!」
「「!!!」」
「きっとあそこー、いってくるー」
プルはポヨンポヨンと調理場の方へ入って行った。
プルが調理場に入るのを見て
シルヴェストさんが少し小さな声で話しかけて来た。
「じいさん、死んじまったんだろ?」
「え、ああ、はい。プルには詳しくは話してません」
「そうかあ、まあここを休む時かなり具合が悪そうだったからな。俺たちにもしばらく療養して来るけど、このまま俺が死んだら後のことはよろしくなってよお」
「そうだったんですか」
「そん時に俺たちに結構な額の金を渡してくれてなあ。その金で俺たちもしばらくは大丈夫だったんだけどよ、こう何ヶ月も帰って来ないと流石に心配になってよ」
「すみません、ご心配を」
「いやいやいやいや、いいんだよ。特に俺は冒険者を引退して行くあてもなかったからよ、拾ってくれたじいさんには感謝しかねぇんだ。でもよ、プルはここでじいさんと一緒に暮らしてたからよ。飢えてるんじゃねぇかって他の奴らとも話してよ。たまにだけど、食いもんを持って来たりしてたんだよ」
あ、あの時プルが言ってたのって
シルヴェストさん達だったんだ。
「プルに初めて会った時に、街の人が食べ物持って来てくれたって言ってました。本当にありがとうございます」
「いや、いいってもんよ!プルは俺たちにとっても可愛いガキだからよ」
ここでずっと気になってる事を聞いてみた。
「あの…プルって何歳なんですかね?」
「うーん、確か1歳くらいだったと思うぜ。ちなみに俺は176歳だ!まだまだ現役だぜ!」
「176…ですか…」
それってドワーフじゃ、若いのか?
なんかよく分かんなくなって来た。