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異世界旅館松や  作者: ぎゆり
第1章
89/104

89、セルトくんは負けない


「王都に入る時の服…試験当日の服…後は王都を出る時の服…それから…」


セルトくん大変身はスムーズに進んでいる。

店員さん達も可愛らしいセルトくんに似合う生地やデザインを取っ替え引っ替え持って来てはあれこれ相談しているんだ。


「やはりここはもう少しボタンを多めに」


「これには半ズボンが良さそうね」


セルトくん本人はなんのこっちゃ?って顔で言われるまま着せ替え人形中。


というのも、今回王都ではマルディニールさんの知り合いという貴族のお屋敷に滞在させていただく。

そんな凄いもてなしをしてもらうのに、いつもの普段着で行く訳には行かないからな。

ここは王都滞在中の洋服までしっかり選ぶぞ。

と言っても、全部をオーダーしちゃうとナディアさんが失神しちゃうかもしれないんで

試験当日のだけオーダーにして

後は既製服から選ぶ事にした。

既製服って言っても、そこは高級店だ。

ありとあらゆるデザインがあって、またセルトくんは店員さんのいいおもちゃになってる。


かなり長い時間着替えてたので、ちょっとここで休憩を挟む事にした。


「セルトくん、大丈夫?疲れてないか?」


店員さんが出してくれたお茶とお菓子を頬張りながらセルトくんが頷いた。


「初めての事で最初はちょっと戸惑いましたけど…でも大丈夫です!とっても楽しいです」


そうかそうか、セルトくんが楽しいなら俺も嬉しいよ。


「オーナー、ありがとうございます」


セルトくんが深々と頭を下げた。

隣に座っているナディアさんも。


「あたしらにこんなに色々してくださって。セルト!絶対に試験は合格しないとダメだよ」


「うん!あ、はい!頑張ります!」


今までナディアさんは俺の好意に戸惑って遠慮するばかりだったが、この間シルヴェストさんやクラスティアさん、ユストフさんが色々話してくれたので納得してくれたみたいだ。

でも、毎日ありがとうございますって言われるんだよ。


「あたしら、今まで朝にオーナーに感謝の気持ちを込めてお祈りしてましたけど最近は朝晩祈ってます」


俺は神様かよ(笑)

まあでも、喜んでるくれてるみたいだから俺に感謝を祈るくらいは良しとするか。


休憩を挟んで、セルトくんの着せ替え人形がスタート。

昼前に来たんだけど、全てを終えたのは夕方だった。


「では、よろしくお願いします」


「はい、心を込めて準備させていただきます」


セルトくんの洋服はオーダーと既製服なんだけど、既製服も少し手直ししてくれるそうだ。


俺たちを見送りに出て来た沢山の店員さんにお礼を言って店を後にした。


「いやあ、お疲れ様でした。でも、いい物が選べたから良かったですね」


「本当にありがとうございます。これでセルトを王都にしっかり送り出せます」


「ありがとうございます!」


街をゆっくり歩いていると、街中からいい匂いが漂って来た。


あ、そういや昼飯も食べてないや。

2人もお腹空いたかな。


「お腹すきませんか?」


「僕、お腹ぺこぺこです」


「こ、こら!セルト!」


「何か食べていきましょうよ!今日は旅館も休みだし、急いで帰る事もないでしょ?」


「わー!やったー!」


はしゃぐセルトくんの横でナディアさんが申し訳なさそうにしている。


「よーし!じゃあセルトくん何食べたい?」


セルトくんは街中の屋台をぐるっと見渡して

美味しそうなものを探している。

その顔は本当に子供でとっても可愛いんだ。


「あ!僕、あのソーセージが食べたいです!」


「お!ソーセージか!いいな!それにしよう。ナディアさんもそれでいいですか?」


「はい、何でも大丈夫です」


俺たち3人は美味しい匂いのソーセージの屋台に向かった。


「すみません、普通のソーセージを3本とハーブのソーセージを3本お願いします」


「あいよ!ちょっと待ってな!」


見るとソーセージの横で肉が焼かれている。


「このお肉は何ですか?」


「ビッグバードだよ!脂が乗ってて美味いぞ?」


「じゃあ、そのお肉も2枚」


「あいよ、毎度あり!」


カルニートの広場にはいつも屋台がいくつか並んでいて、その真ん中にはイートエリアがある。

俺たちもそこに陣取って先程のソーセージとビッグバードのお肉を並べた。

俺が買ってる間に、ナディアさんが飲み物を買って来てくれたみたいだ。



「それじゃあ、セルトくんの王都行きの無事を祈ってー乾杯!」


「かんぱーい」


3人が飲んでいるのは、レイスリニア王国でよく飲まれている木の実のお茶だ。

味はウーロン茶みたいな感じでとっても飲みやすい。


「セルトくん沢山食べろよ!足りなかったらおかわりも買うからな!」


「はい!」


「ほら、ナディアさんも遠慮しないで!」


「ありがとうございます」


こっちの世界でもソーセージは普通に食べられてて、結構ポピュラーな食べ物なんだけど

うちのビアガーデンで色んな味のソーセージを出してから街中の肉屋でも新しい味のソーセージを見かけるようになった。


ここのソーセージはどうかな?


パリッ!


お!これは当たりだな。

皮がパリッとしてて肉汁もなかなかいいぞ。

中身は…オーソドックスな感じかな。


食べながらふむふむとしているとセルトくんが笑いながら言った。


「オーナー、いつも新しいもの食べる時同じ顔するんですね」


へ?


「この前、ルドガーさんがくれたお菓子も同じ顔して食べてた」


「そ、そうか?悪い悪い、なんかうちで出せる物はないかな?って思っちゃうんだよ」


「凄いです!いつもマツヤの事を考えてるなんて、尊敬します!」


「え、尊敬?待って待って、そんな凄くないから」


「そんな事ないです!オーナーは凄い人です!僕、将来はオーナーみたいに本当に困ってる人を助けられる大人になりたいんです!隣の国から来た僕たちをマツヤに雇ってくれて、その上僕の病気まで治してくれて…初めはお姉ちゃんとこの国に来てもきっと僕のせいで苦労をかけると思っていました。でも、オーナーのお陰で僕たちの人生が変わりました!本当にありがとうございます!」


「セルトくん…」


そんな風に思ってくれてたのか。

何か感動して胸が詰まってしまう。


「だから、僕は何があっても負けません!だって、僕は病気に勝てたから!病気に勝てたんだから、何が来ても負けません!」


「うん、そうだな!頑張れよ!」


「はい!」


「よし、食べろ食べろ!このソーセージも食べろ」


俺たちは泣き笑いしながらソーセージとビッグバードのお肉、その後違う屋台にあったケーキまで完食した。



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