88、セルトくんに投資する
旅館のあるカルニートは、レイスリニア王国で5番目くらいに大きな街。
だから街中には様々なお店があるんだけど、今日はその中の洋服屋に来ている。
俺がこっちで浮かない為に急ごしらえで買った洋服屋のような庶民向けではなく
貴族、あるいはお金持ちの平民しか行かないような高級店だ。
店内には俺たちしかいないんだけど、店のソファに座っているナディアさんは居心地が悪そうだ。
「では、採寸致しますね」
鏡の前で沢山の店員さんに囲まれてセルトくんが採寸してもらっている。
今朝、ナディアさんと俺はセルトくんの王都行きについて話していた。
俺は家族のようなセルトくんに色々してあげたいんだけど、勝手に突っ走るわけには行かないので、まずはナディアさんに相談した訳だ。
でも、なかなかナディアさんが首を縦に振ってくれなくてさ。
「オーナーにそこまでしてもらう訳には…2人一緒にここでお世話になってるのに」
でも、俺は引き下がらないぞ。
だって、うちから送り出すんだからしっかり準備してやりたいんだ。
ありがたい事にうちの旅館はかなり儲かってるし、それに庭から掘り出される魔石もあるからかなり潤ってるんだ。
ナディアさんとああでもないこうでもないと話してあっていると、シルヴェストさんとクラスティアさん、そしてユストフさんがやって来た。
「ナディアよ、ここはカズの申し出を受けてやれ。わしらもセルトの事は家族だと思っておるんじゃ」
「でも、セルトもあたいもかなりいいお給料もらってるんですよ?その上、セルトの薬だってオーナーにお世話になったのに」
「ナディアさんの言いたい事も分かります。でもね、カズ様が私たちを大切に思ってくださっている事も理解してあげてほしいのですよ」
みんな、俺の後押しをしてくれてナディアさんも少し考え込んでいるみたいだ。
後ひと押し!って所で、ユストフさんが言ってくれた。
「私は…セルトくんの将来に期待しております…お世話になった分セルトくんが頑張って結果を出して、恩返ししてはどうですか?…学校を主席で卒業出来たら…かなりいい職に就けるはずですし」
「それです!僕は、セルトくんが何も気にせずに学業に専念してほしいんです。だから、心のケアと身体のケアはナディアさんにお金の事は僕に任せて欲しいんです。これはセルトくんの将来に対しての投資だと思ってください」
「投資…」
ナディアさんがまた考え込んでいる。
「ナディアよ、そんな難しく考える事はないんじゃ。王都の学校に通うとなったらどうしても金はかかる。まだお前にはそこまでの蓄えなんぞないじゃろ。学校に通っている間はカズに面倒見て貰えば良い、それで卒業したら少しずつその恩を返して行けばいいだけの話じゃ」
「セルトくんは僕の弟みたいなもんですからね、だから沢山頼って欲しいです」
そこまで言うとナディアさんも納得してくれたみたいだ。
「何と言っていいのか…本当にありがとうございます!このご恩は決して忘れません!一生かけてお返ししますっ!」
そう言ってナディアさんは深々と頭を下げた。
こんなやり取りがあって、早速その日のうちにマルディニールさんにこの洋服屋を紹介してもらったんだ。
「まずは、試験を受ける時に着る勝負服だな」
「勝負服?」
ナディアさんには聞きなれない言葉だったみたいだ。
「うーん、いわゆるここぞ!って時に着る服ですね。分かりやすく言うとナディアさんがすげー強い魔物に挑む時に着る鎧とか武器みたいなもんですよ」
そう言うと、ああ!と言う感じで分かったみたい。
「マルディニール様からお聞きしましたが、王都の学校を受験されるそうですね?そのような大事な場面で当店をお選びいただきありがとうございます」
この店の店長さんがにっこりと微笑んでお辞儀してくれた。
俺、こう言う高級店って平民には冷たいもんだと思ってたんだよな。
映画でもよくあるじゃん?
金を持ってないと思われて嫌味を言われて追い出されちゃうやつ。
あれはロデオドライブって言ったっけ?
でもさ、実際来てみたらみんなちゃんと対応してくれんだよな。
まあ、マルディニールさんのご紹介ってのが効いてるんだろうけど。
さて、それじゃあ!セルトくんを大変身させちゃうか!




