84、黒猫のネロ
ユストフさんに用意してもらった魔法契約書で
ユウトとタクマの2人とは無事に魔法契約を交わす事が出来た。
正直、異世界人以外に効果があるのか不安だったんだけど大丈夫だった。
魔法契約をした後に、うちの旅館が日本と繋がっている事と庭から魔石が発掘される事を告げるとものすごい喜んでいた。
もしかしたら、日本に帰っちゃうかもしれないと思ったんだけど案外日本の生活には未練はないようでここで働きながら暮らしたいと言ってくれた。
ただ、ユウトは飼い猫が心配だから迎えに行きたいって事だ。
本当は俺が行って連れて来るつもりだったんだけど、どうしても自分で行きたいってさ。
「では、行って来ます!」
俺は旅館から新幹線が通ってる街まで車で見送りに来ていた。
ユウトの住んでいた場所は、新幹線で2時間くらいの県だから、夜には戻れると思うって事だった。
「それじゃあ、連絡待ってるな!電波の繋がる所にいるようにするから」
「はい、ありがとうございます」
俺は駅に入って行くユウトを見ながら思った。
もし、このままユウトが帰ってこなくても責める事はしないでおこうと。
もしかしたら、心変わりする可能性だってある。
いきなり異世界に召喚されて訳もわからないまま放り出されて…
そんな事を思いながら自宅でのんびりしていると携帯が鳴った。
「もしもし?」
相手はユウトだった。
「あ、和さん!これから新幹線に乗ります!到着は…」
ユウト、戻って来てくれるんだな。
あの声の感じだと飼い猫にも会えたんじゃないかな。
実は、ユウトもタクマも携帯をもっていない。
こっちに召喚された時に持っていた携帯は使えなかったんだ。
「おそらく、料金未払いとかで解約になったのか…」
「もしくは、死んだと思って解約したか…」
どちらにしろ、ここで働いてもらうなら頻繁に元の世界に行く訳だから携帯はないと不便だよな。
今回は間に合わなかったから、公衆電話使ってもらったけど…
今度、隣町で携帯の契約して来ないとな。
そんな事を思いながら、俺は朝送り届けた新幹線の駅に着いた。
しばらくすると駅の中からユウトの姿が。
手には大きな荷物とペットキャリーを持っている。
「和さん!お待たせしました!」
「おお!お帰り!どうだった?猫には会えたか?」
すると、手に持っていたペットキャリーを上に上げて見せてくれた。
中には小さな黒猫がいる。
みゃ〜
「お陰様で預けたペットホテルで保護してもらえてました。ずっと預けっぱなしだったので、かなりの金額になってました…お陰で貯金も減りましたよ」
「ははは、そっか!でも良かったな!元気に再会できて」
「はい…本当にそれだけが救いです。貯金が減ろうがこいつが元気だった事が何より嬉しいです。
おい、ネロ?この人が俺の恩人の和さんだぞ?ご挨拶しろ?」
「お?ネロって言うのか?よろしくな!」
みゃみゃ〜
聞くと預けた時は6ヶ月だったんだけど、1年弱会わないうちに1歳と6ヶ月になってんだ。
ユウトはネロに無事に会えたら事が余程嬉しかったらしく、旅館までの車内ではマシンガンのように話まくった。
その時に聞いたんだけど
ユウトが召喚された後、何故か周りの人たちはユウトの事存在を忘れてしまっていたみたいだという。
マンションの解約の為に不動産を訪ねた時も、覚えていなかったようであちらが困惑していたそうだ。
ペットホテルでも同じだったようで、ネロの飼い主だと認識してもらえるまでちょっと時間がかかったそうだ。
「でも、ネロだけは覚えていてくれたんです。めちゃくちゃ嬉しくて!」
みんなが忘れてしまうのか…死んだとか行方不明とかではなく存在自体が消し去られるって事なのか?
きっと、何か不思議な力とか魔法的なものが関わってるんだろう。
「こっちに残して気掛かりだったものは全て片付けてきました!あ、後大きな荷物とかは旅館の住所に送りました」
「そうか、じゃあこれでスッキリだな」
これでユウトとネロは晴れて旅館松やの従業員の仲間入りを果たした。




