8、面倒くさい
山奥の実家に帰って来てから1週間の間に
じいちゃんが死んでからやらなきゃならない事はあらかた片付いた。
気になってた相続の事とかは
じいちゃんの遺言状にあった法律事務所に問い合わせしたら
じいちゃんが生前に色んな事を考えてくれてたらしくて、法律事務所の方で書類とかは揃えてくれるって。
おれは山奥にいるし、そっちに行くのも結構大変だからって事で
諸々の事は郵送とかでやってもらえるみたいだった。
どうしても直接会わなきゃならない事もあるから、その時はこっちに来てくれるそうだ。
何回か、ここにも来た事あるみたいだからお言葉に甘えてそうしてもらった。
ありがたいね。
法律事務所の人もなんか色々事情を知ってるっぽくて「ちゃんとやっておきますから」って感じで話が早かった。
その時もあの通帳とかの話は出てこなかったから、あれはそのままでいいのか?
今度、法律事務所の人が来たら
雰囲気見て切り出してみようかな。
「プルはさ、旅館のお仕事をこれからもやりたいか?」
夕ご飯の後、俺はプルに聞いてみた。
「んー、りょかんのおてつだいはたのしいから、プルはこれからもおてつだいしたいー」
「そっかぁ」
「りょかん、またはじめるー?」
「んー、どうしようかなって考え中」
「わかったー」
プルは最近テレビがお気に入りで
夕ご飯の後、いつもテレビでアニメを見てる。
左右にゆらゆら揺れながら
何だか楽しそうだ。
最近の俺の悩みは、この旅館をどうするか?と言う事。
俺自身、まだ30手前だし
まだまだこれから働き盛りではあるんだけど
いかんせんブラックにいたからな…
しばらくは働かないでゆっくりとって思ってたけどさ。
収入がある訳でもないし
退職した時に出た退職金だってほんのちょっとだしな。
俺名義の貯金はすげーあるけど、あれを使うのもなんか気が引けるしな。
そんな訳で、細々と旅館を再開してもいいのかな?とか考えたりしてる。
じいちゃんには悪いけど、あの通帳使わせてもらってちょっとばかり改装して
一日限定一組とかの旅館みたいのだったら
俺一人でも出来るかな?とか。
あ、そういえば今までじいちゃんって
どうな風に旅館の経営してたんだろう?
「プルー」
「なーにー」
お気に入りのアニメが終わったらしく
プルが俺の膝の上に来た。
「この旅館ってさ、お客さんは結構いたのか?」
「んー、いたよー」
「そうなのか!?」
えー、お客さん居たんだ!
ってじいちゃんに悪いけど…
リピーターとかで持ってたのかな?
「あのねー、いつもたくさんおきゃくさんいたのー!だから、プルもとってもたのしかったー」
「た、たくさん?」
「うん、だからねー、プルとじいちゃんとおひげのおじさんとみみのながいおねえさんとおにいさんといっしょにやったのー」
え?なんか初めて聞く人が出て来たんだけど…
おひげのおじさんってのは露天風呂作った人か?
それからみみの長いおねえさんとおにいさん?
「プル、その人たちは今はいないのか?」
「うん、じいちゃんがいなくなるからおやすみだよーって」
従業員いたのかー!
全然知らなかったよ…
「プル、その人たちってまた来てくれるのかな?」
「んー、わかんなーい」
そうか、分かんないか…
そりゃそうだよな。
ってじいちゃん、ちゃんとその人たちの連絡先書いといてくれよー。
明日、事務所で探してみるか。
給料払ってたならなんか残ってるだろう。
「プル、その人たちの名前わかる?」
プルはしばらく小刻みに揺れて
「わかんなーい」
「だよな」
「あ!でもねー、おうちはしってるよー」
「マジか!」
「まじー」
プルを外に連れて行くのはちょっと心配だけど、その人たちはプルの事分かってるわけだから大丈夫かな。
「よし!じゃあ明日、その人たちに会いに行こう!」
「はーい」
よしよし、これでこれから旅館をどうするか決められそうだな。




