76、推薦人・マルディニール
「お二人とも、忘れていませんか?」
マルディニールの言葉に頭の中が???でいっぱいのセルトとナディア。
「目の前に推薦人にぴったりの人物がいるではありませんか?」
そう言いながら、マルディニールは自分の事を指差している。
その仕草を見て、2人の姉弟は目を丸くしていた。
「あ!そうでした!でも、ギルドマスターが僕の推薦人になってくださるんですか?」
「ええ、もちろん!」
「本当ですか?やったー!ありがとうございます!」
ナディアも目に涙をいっぱい溜めながら何度も何度も頭を下げた。
「そのかわりセルトくん」
「はい!」
「試験までの間、毎日夕方私の所に来てください。もちろん!マツヤの仕事をきちんと終えてからです」
「はい!」
「試験まで私がしっかり勉強を教えてあげますからね!私は厳しいですよ?大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫です!頑張ります!」
「よろしい。では、まずカズさんの許可をとってくださいね?それから、貴方は身体が弱かったと思うのですが?それはもう大丈夫なのですか?」
マルディニールの記憶の中にあるセルトは、弱々しく青白い顔でナディアに抱えられていた。
「それは私からも大丈夫だと…」
ユストフは旅館でセルトと一緒に仕事をしている事が多いので、セルトの体調をよく見ている。
そのユストフが太鼓判を押したのだから、大丈夫なのだ。
しかし、マルディニールは年を押す。
「もし、仕事と勉強を両立した事で体調を崩すようであれば推薦は取り消しますからね?」
「大丈夫です!」
「よろしい。では、カズさんの許可が取れたら明日の夕方から始めますよ?」
「はい!よろしくお願いします!」
ナディアも精一杯頭を下げた。
病弱な弟だったセルト。
自分はセルトの為に生きて来た。
自分が頑張らなくては!とその思いが力になった。
セルトがいたからこそ亡命してこの国やって来た。
そして、セルトは今自分のやりたい事を見つけて旅立とうとしている。
正直な気持ちはおそらく淋しい。
でも、それよりもっと嬉しい。
自分の元を巣立って行く弟を応援したい。
そして、1人で生きていける力を手に入れて欲しい。
その為に、これからも沢山働いて弟を支えて行こう。
これからセルトにかかるお金は想像もつかない。
いくら学校の学費が免除されるとはいえ、王都への旅費や寮に入るための準備もある。
それから、これから毎日勉強を見てくれるギルドマスターにもお礼をしたい。
あとで、ユストフさんにお礼をどうしたらいいか聞かないといけないね…
そう思っていたナディア。
顔に出ていたのだろうか?
マルディニールがピシッと言い放った。
「ナディアさん、今私にお金を払おうとしましたね?」
「え?あ、えっと、は、はい。毎日勉強を見ていただくのに…」
「お断りします!!」
「へ?」
「いいですか?私はこのセルトくんに期待しているのですよ!この子ならやれると思ったから推薦人にもなるし勉強も教えるのです!」
「は、はい…」
「お礼が欲しいからやる訳ではないのですよ!ナディアさん、そんなにお礼がしたいのなら試験までの間セルトくんを支えてあげてください。貴方がセルトくんの体調や睡眠をしっかり管理して健康でいられるようにしてあげてください。そして!セルトくん!貴方が試験に合格して、無事に卒業するのが私への恩返しですからね!」
「はい!僕、頑張ります!絶対に、絶対に!合格してみせます!」
「うんうん、それで良いのです!」
旅館に帰ったセルトとナディアは、早速カズにこの事を報告。
もちろん、カズから即OKをもらった。
「そんな事なら、セルトくんは仕事しなくていいよ?」
「いえ!ダメです!仕事も勉強もきちんと両立させるのがギルドマスターとの約束なので!では、僕は帳簿の整理を終わらせて来ます!それが終わったら明日からの予習をします!」
セルトは強い足取りで旅館の事務所に入って行った。
「すげーな…セルトくん。あ、そうだユストフさん。セルトくんが無理しないように見ていてあげてくださいね」
「心得ております…ただ…大丈夫だと思います。彼はやる気ですから…」
それからの数ヶ月。
セルトは王都の学校の試験までの間、ほとんどの休みなく昼間は旅館の仕事、夕方夜までは商人ギルドで勉強という日々を過ごした。




