5、旅館
「さて、それじゃ旅館に行こうか」
「はーい」
俺たちは住居を出て、裏口の廊下に出た。
目の前にはもう1つの扉。
旅館へつながる扉だ。
昨日、ここに来た時は旅館の方はきっと荒れてるだろうなと思ったけど
プルがいたんだったら、ある程度は綺麗に整ってるはず。
「よし、行くぞ」
何故か気合を入れて扉を開けた。
ガチャ
「え?なんじゃこりゃー!!!」
扉を開けると、そこには俺が記憶している旅館ではなく全く違う部屋が現れた。
「なんなんだ…これ…」
俺の記憶では、ここは旅館の入り口。
エントランスだったはず。
お客が来たら、靴を脱いで小さなカウンター前の椅子に座ってチェックインする感じだったんだけど…
俺の目の前にあるのは、なんか西部劇に出てくるようなどデカい酒場みたいな感じだ。
「え?ええー?」
「どうしたのー?」
俺が扉を開けてから動かないのでプルが心配そうに下から見上げてる。
「プ、プル…ここは旅館か?」
「そーだよーりょかんだよー」
これが旅館な訳ないだろ!
だってさ、靴脱いで入ってたはずなのに
もうそこは全然日本風とかじゃない床だしさ!
カウンターはあるけど、なんかその横にすげーデカい棚みたいのがあって、剣か?そんなん立てかけてあるしよ!
そもそも、入り口こんなだったか?
すげえ重そうな扉なんですけど!
「プル…じいちゃんはここを改装とかしたのかな?」
「かいそー?」
うん、分かんないよね…
「前からこんな所だったのか?」
「プルがきたときからこんなんだよー」
そっか…もしかしたらじいちゃん
ばあちゃんが死んだ後、自分の趣味に走ったのかもしれないな…。
何やってんだよ、じいちゃん。
「旅館を頼む」ってこの事だったのか?
お金かけて改装したから、頼むな!って事か?
「おいおいおい、どうしろってんだよ」
その場から一歩も動けないでいると
プルが先導するよう言った。
「あるじー、こっちだよー」
「うぇ?こっち?」
「そー!プルについてきてー」
そう言いながらポヨンポヨンと進んでいく。
プルはカウンター横から中に入り、その奥にある部屋に入る。
「お?こんな所に部屋なんかあったのか」
入るとそこは6畳くらいの部屋で
中には小さめの応接セットと大きめの机があり
その上にはいくつかの書類やらがあった。
そこにプルが寝ていたのか、小さなベッドみたいなのも置かれている。
「ここは?」
「うんとね、ここはね、じいちゃんとプルがやすむおへや」
と言う事は、旅館の営業中に待機する事務所的なものか…
「じいちゃんがいないあいだはね、ここでねてたのー」
「そうなのか、寂しかったな」
一緒に住んでたじいちゃんが急に帰って来なくなったんだもんな。
プルも寂しかったよな。
「さびしかったー、でもねプルはおりこうだからちゃんとあたらしいあるじがくるまでおるすばんしたんだよー」
グスン
なんかめちゃくちゃ悲しくなってきた。
「そっか、ありがとうな!偉かったな!」
「えへへー」
これからは寂しい思いはさせないようにしなくちゃな!
すると、プルは大きめの机の下から
大きな黒いものを取り出した。
「あるじ、これー」
プルが机に置いたのは金庫だった。
「あ、金庫。やっぱりあったのか!」
「じいちゃんがねー、あたらしいあるじがきたらこれをわたしなさいってー」
プルは、プルプルプルと震えると身体の中から何かを取り出した。
「はい、これー」
「鍵か?」
「わかんないー」
そうだよな…分かんないよな…
「ありがとうなー!これきっと大切なものだから、プルに預かってもらってたんだな!」
「プルはえらいー?」
「ああ、すごい偉いぞ!」
そう褒めるとプルはフルフルフルと小刻みに震えた。
「さてと、じゃあ開けますか」
プルから受け取った鍵で金庫を開けてみる。
ガチャリ
「よっしゃ」
重い金庫の扉を開けると
中には現金やら通帳やらハンコやらが出て来た。
「よかったー、あったー」
金庫の中は何段かに分かれていて
他の段には権利書とか保険証書とか色々な書類があった。
あ、そうだ!
電気代とか引き落としになってるか確かめないと。
そう思って通帳を開いてみる。
「なんじゃこりゃー!!」
本日2回目のなんじゃこりゃ。
通帳の残高が…
待て、落ち着け俺。
これ、0いくつある?
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうま……ひゃく…せんま…」
?
「いや、もう1回だ」
「いち、じゅう、ひゃく………まん………ひゃくま……せんまん…」
残高23752395円
「はぁーーーーー?」
いやいやいや、じいちゃんめっちゃ金持ち。
というか、これまだ他にも通帳あるんですけど!
恐ろしいんですけど!
通帳の表を見てみる。
「俺の名前?」
これも、これもこれも全部俺の名前じゃん!
今度は違う通帳の残高を数えてみる。
…………。
2つめの通帳。
残高17560000円
「なんじゃこりゃーーーー!」
短時間で3回目のなんじゃこりゃ。
「えー?この旅館、そんな儲かってたのか?どう見てもそんな感じには見えないけどなぁ」
もし、そんな儲かってたら
テレビとかさ雑誌とかさバンバン出てるだろ
あ、まさか俺が見てなかっただけか?
テレビ、ほとんど見てなかったもんな。
いやいや、もしそうだったとしても
こんなには儲からないだろー
だって、じいちゃんとばあちゃんがが二人で切り盛りしてた旅館だぜ?
最後の方はじいちゃん一人だし。
まあ、プルもいるけど
だからってそこまで儲からないだろうー!
「なんか頭痛くなって来た…」
「あるじー、だいじょうぶー?」
プルが心配そうに机の上に乗って来て俺を見てる。
「大丈夫だよ、ありがとうな」
とりあえず、この金庫は住居の方に持ってい…
?これ、むちゃくちゃ重くないか?
でもさっきプルが普通に持ち上げてたよな?
気のせいかと思って、もう一度金庫を持ち上げてみる。
いや、重いやん…
「プル、これさっき持ち上げてなかった?」
「うんー、もてるよー」
そう言いながら、プルはその金庫を軽々と持ち上げてる。
「え?あ、あははははは。すごいなプルは。力持ちだな」
「プル、ちからもちー」
とりあえず、この金庫は夜にでもプルに頼んで運んでもらおう。
実は、今日は行かなきゃならない所がある。
じいちゃんをばあちゃんのお墓に入れてあげなきゃな。
墓があるお寺には連絡済みだから、俺がじいちゃんの遺骨を持って行って住職さんにお願いして入れてもらおう。
お金はいくらぐらい持っていけばいいのかな?
一応、なんかあった時のために現金は多めに持っているけど…
あ、現金をそのまま渡すわけにもいかないよな。
って事はあれか?香典袋みたいなのを買ってその中に入れたらいいのか?
うーん、分からん!
とりあえず、あとで行く前に調べてみるか。
「プル、俺はこれから出かけてくるからさ!ちょっとお留守番しててくれるか?」
「いいよー!」
「おそらく夕方には帰って来るからさ!よろしく頼むな!」
「わかったー!プルりょかんのおてつだいしながらまってるー」
俺は、旅館の事をプルに任せ
急いで着替えを済ませて車でお寺へ向かった。