3、出会い
「んん、ん、…朝か」
カーテンの隙間からの日差しで目が覚めた。
ソファでそのまま寝ちゃったんだな…
「身体痛てぇ」
固まった身体を伸ばそうと身体を起こすと
お腹の上が重たい。
「ん?なんだ?」
そこには半透明の物体があった。
そして、その物体はモゾモゾと動いて
こちらを向いたかのように見えた。
「あ、おきたー」
しゃべった…
「うわぁーーーーー!!」
俺はソファから飛び降りて腰を抜かした。
「な、なん、なんなんだよ」
その物体はポヨンポヨン言いながら
こちらに近づいてくる。
「く、来るな!来るなよ!」
俺は必死に手を振りまくってその物体を追い払う。
その物体はそれでも逃げる事なくこちらに向かってくる。
「うわ、来るな!」
どうにかして逃げないと…
必死に立ちあがろうとするが腰を抜かしててチカラが入らない。
最後の足掻きとでも言おうか
俺は手足をバタバタさせて抵抗する。
ジリジリと近寄ってくる物体。
それはもうすぐ側まで来ていた。
「頼む、食べないでー!」
俺は手を頭に当ててうずくまった。
ポヨン
「たべないよー?プルはそんなことしないもん」
そのしゃべる物体は、そう言いながら俺の膝の上に乗った。
「…………え?」
恐る恐る目を開けてみると
その物体は俺を見ていた。
「ねぇねぇ、あたらしいあるじでしょー?」
そう言いながら、左右にプルンプルン揺れている。
「あたら…しい、あるじ?」
「そうー、あたらしいあるじがくるからまってなさいってじいちゃんがいってたの」
じいちゃんって、うちのじいちゃんの事か?
って言うか、これ…あれだよな?
ゲームとかに出てくる…スライムってやつか?
そんな事を考えている間も、スライムらしき物体はゆっくり左右に揺れていた。
おい、なんかちょっと可愛いんだけど…
いやいやいやいや、可愛く見えてもスライムって魔物とかなんだよな!
そのうちガブリっとかされないのか?
「ねぇ、どーしたのー?」
「え?あ、ああ。その君って…スライムとか?」
俺がそう言うと、そのスライムらしき物体はポヨンと飛び上がって
「うん!そーだよー、スライムだよ」
やっぱりそうなのか…
「で、君はなんでここにいるのかな」
「きみじゃないよ、プルだよ!」
「プル?名前か?」
「そうー!」
プルという名前のスライムは、また嬉しそうに飛び上がって答えた。
「そのじいちゃんってのは、おそらく俺のじいちゃんだと思うんだけどさ…その君じゃなくてプルはここに住んでるとかなのかな?」
飛び上がっていたプルは、パッと動きを止めてこちらに向いた。
「うん、プルはじいちゃんのおてつだいしてるの」
「お手伝い?」
「そーだよー!プルはじいちゃんのりょかんのおてつだいなの」
旅館のお手伝い…か。
というかスライムっていたんだな。
俺、ゲームとかの世界の生き物だと思ってた。
まあこの山奥じゃ、知らない生き物とかいるかもしれないよな…
「ねえねえ」
「ん?」
「あたらしいあるじなんでしょー?」
新しい主か…
じいちゃんが主だったんなら、じいちゃんの孫である俺はこいつの新しい主かもな。
「うーん、おそらくそうだと思うよ」
「わーい!やったー!あたらしいあるじー!」
プルは俺の膝の上から飛び降りて、そこらじゅうをポヨンポヨンと飛び跳ねてまわった。
可愛いー!
しばらく話して危険はなさそうなので
俺からも色々聞くことにした。
「なぁ、プル」
「なーにー?」
「新しい主って事は、これからは俺とここに住むって事なのか?」
「うーん、そーだとおもう」
「そうか…じゃあ、とりあえず自己紹介な」
「じこしょうかい?」
「そうか分からないか。自己紹介ってのはこれからよろしくね!みたいな挨拶の事だよ」
「そっかぁー、じゃあプルもじこしょうかいするー」
「俺は岩井和だ。プルが言ってるじいちゃんの孫だよ」
「まごー?」
だよな、スライムに孫とか言っても分からんよな。
「うーん、孫ってのはじいちゃんの子供の子供だ」
「こどものこどもー?」
いや、いいか…孫で躓いてたら話が進まん。
「そう、子供の子供!それで、これから俺がここに住む事になったんだ!よろしくな!」
「わかったー!あ、じいちゃんはもうかえってこないの?」
うっ…それ言われたら、なんて答えたらいいのか困る。
「うーんと、そうだな。じいちゃんはすごーく遠い所に行ったんだよ。それで、これからはそこにばあちゃんと住むからここの旅館の事は俺に頼むぞって」
「うーん、わかんなんけど、わかったー」
分かったんかい…。
「それじゃあ、今度はプルの事を教えてもらえるかな?」
「えっとねー、プルだよ」
うん、それは分かってる。
「他には?いつからここに住んでるとかさ。あと、どうしてここに住む事になったとか教えてくれかいかな?」
「えっとねー、プルがおっきいひとたちにおいかけられて、それでにげたの」
うん、人間に追いかけられて逃げて来たって事だな。
「それから?」
「うんとね、そしたらじいちゃんがこらー!ってしてくれてだいじょうかーって」
そうか、じいちゃんがそいつらを追い払ったのか。
「そのときからプルはここにいるんだよ」
「そっかー」
うん、かろうじて分かる気がする。
「じゃあ、こう言う事かな?プルが人間に追いかけられてた所をじいちゃんが助けてくれてここに一緒に住むことになって旅館のお手伝いをしてるって事?」
プルは考えて理解しようとしているのか、一点を見つめて動かない。
「プ、プル?」
「うん!そー!」
「そうかぁ!ありがとうな」
まあ、いいか。
ここにいる理由なんてどうでもいい事だもんな。
「あたらしいあるじー」
「ん?」
「あたらしいあるじのこと、あるじってよんでいいー?」
「もちろん!いいぞ!俺もプルって呼ぶからな!」
「はーい!」
プルはポヨンポヨンと飛び跳ねて嬉しそうだ。
なんか、分からんが
突然話せるスライムが一緒に住む事になった。
一人でこの山奥に住むのも寂しいなと思ってたとこだったし。
スライムの存在とかも色々調べなきゃならんけど、目の前に生きてるスライム、しかも話せるスライムがいるんだから…
とりあえず、仲間が出来てよかった…かな。