2、その日の夜
家の中をって言っても、住居は1階しかないから部屋は居間の他に3つだけで
じいちゃんとばあちゃんの部屋と俺が昔使ってた部屋と今は物置きになってる部屋だ。
その他に風呂がある。
風呂は、昔から俺とばあちゃんしか使わなくて
じいちゃんは旅館の方のデカい風呂に入ってた記憶がある。
居間に戻って来て、台所に行く。
何気なく電気のスイッチを付けた。
「電気は通ったままなのか」
そう言えば、ここに帰って来た時
裏口の電気も俺付けたっけ…
「じいちゃん、勿体無い事するなぁ…
誰もいないんだから、電気いらなくねぇ?」
あ、体調悪くて入院してたんだから
そんなのやらないか…
ま、でもそのおかげで電気を通したりしなくて済んだもんな。
「電気料金とかどうなってんのかな」
まさか未払い…
いや、でも裏口にあるポスト見たけど
そういう類のはなかったから
おそらく口座引き落としか何かだろう。
それも後で調べなくちゃな。
その後、ガスや水道がきちんと出るかチェックして問題なかったのでひと安心。
1番心配だった冷蔵庫の中にも、缶ビールとか未開封のジュースと未開封のお菓子が入ってるだけで腐ったりして処分しなきゃならない物は見当たらなかった。
「本当にじいちゃんって綺麗好きだったんだな」
居間でくつろぐにはとりあえず軽く掃除してから…と思ったけど埃一つ落ちてなくて、台所も綺麗に掃除されててすぐにでも使えそうだし。
さっき見た風呂でさえも、汚いとかなかったな。
「すげぇな」
気持ちの問題で何となく、居間だけ掃除機をかけてから冷蔵庫の中にあったコーラを飲みながらくつろぐ。
あ、そうだ。
通帳とかどこにあるんだろう…
電気とかの料金もそうだけど
病院で見たじいちゃんの荷物には通帳とかなかったもんな。
俺はコーラをひと飲みして
それらしい場所を探し始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「だぁー!ねぇなー」
それらしき所で思い当たる場所は全部調べた。
でも全然見当たらないんだよな。
通帳どころか大切であろう書類関係が全然ない。
「あとは…旅館の方か」
もしかしたら旅館の方にデカい金庫とかあるかもしれないし。
そっちは明日にでも調べるか。
どっちにしても旅館の方も放置って訳にいかないもんな。
そうと決まったら、とりあえず買い出しだな。
ここの冷蔵庫、なんも入ってなかったしね。
俺の故郷のこの街にはデカいスーパーとかはなくて個人商店が何軒かあるくらいだ。
おそらくうちの旅館は、この街の色んな商店から食材とか買ってたと思う。
昔、配達の人とかよく来てたの思い出した。
この街じゃ欲しいものとか手に入らない可能性もあるので、車で1時間くらい行った大きな街にあるデカいショッピングモールへ。
じいちゃんが入院してたのもこの街にある病院だ。
俺は今後の生活で必要になりそうなものと
食材とかを多めに買って帰宅した。
「結構かかったな」
諸々合わせて3万くらいの出費だ。
サラリーマン時代は、安月給でボーナスなんかもあったがたいした事なかったし
彼女もいなかったから高価なプレゼントとかもしなくてよかったし…
使うと言えば唯一の趣味だった車だけ。
それも最後の方はほとんどできなかったし。
だからお金も使い道があんまりなかったのもあって、多少だが貯金はある。
「しばらくはここでゆっくりして、今後の事はそれから考えようかな。自給自足でスローライフってのもありだよな」
その日は、買って来たお惣菜とビールで
最近全然見ていなかったテレビを見ながら夕飯を済ませた。
とりあえずばあちゃんとじいちゃんにもビールと思って、他にも心ばかりのお供えもしたぞ。
久しぶりに帰って来た実家で
リラックス出来たようで
居間のソファでいつの間にか寝てしまっていた。
その日の夜、和が居間のソファでぐっすり寝ている横で何かが動いた。
音もなくスルスルと動く影。
ソファで寝ている和の姿をしばらく観察したような影は、仏壇の方へ。
そして、仏壇にある真新しい写真の前でまたしばらく影は止まった。
「キュる」
その影から発せられた音は
何故か寂しそうな感じがする音だった。
仏壇の前で止まっていた影は
やがてまたソファの側へ。
影はモゾモゾと動き、ソファの上に移動する。
そして、寝ている和の隣で影は止まり
そのまま朝を迎えた。