102、ふっかけ失敗
ユウトが作り上げたシフォンケーキは
ちょっとしたパティシエが作りましたと言ってもいいくらいのふわふわな仕上がりだった。
「すげーな!マジですげー!」
「いや、男がお菓子作りなんて恥ずかしくて言えなかったんですけど…」
そんな事ない!
これは凄い特技だぞ!
もっと早く言って欲しかった。
俺はお菓子作りなんて絶対出来ないタイプだからさ。
測ったりするのマジ苦手なんだよな。
何でも大体とか目分量とかだもん。
ユウトは几帳面なんだよな、きっと。
試しに作ったシフォンケーキを食べたうちの従業員と来たら…マジで動き止まってたもん。
コリーナさんなんて、ユウトを見る目が違ったよね。
満場一致で腰を抜かす茶菓子に決定したシフォンケーキ。
生クリームとフルーツを添えて、このエルミア商会との会合に出してみたら…マジで腰を抜かしたと。
俺の隣に座ってるプルは、シフォンケーキが食べたくて細かく震えてるよ。
さすがのリコルもシフォンケーキに釘付けだ。
これで、この会合はこちらにいい風が吹いて来たんじゃないか?
マルディニールさんがいい風を逃すまいと話を進める。
「こちらの茶菓子はこのマツヤでしか味わえないものでしてね、王都からはるばるお越しくださった皆さんに召し上がっていただきたいと特別に!特別に!お出ししました」
マルディニールさん、シフォンケーキの存在を知ったのは今さっきなんだけど
なんか上手く話が出来上がってる。
さすが、商人ギルドのギルドマスターだな。
ギルドマスターが言うんだから、本当に特別製なんだろうとエルミア商会のミリア商会長も難しい顔をしている。
このミリア商会長は、先代の商会長の一人娘。
先代が急逝していきなりエルミア商会を背負う事になった訳だが…
年齢でいうと20歳そこそこという感じだろうか?小柄だから幼く見えるけど。
明るい薄桃色の髪の毛を後ろでポニーテールにしていて、活動的に見える。
そして、そのミリア商会長の両隣には30代半ばの男性と50代くらいの気難しそうな男性が座っているんだが、側近なんだろうか…横から細かく指示を出してんだよな。
なんか、昔あった超有名料亭の会見みたいな感じっていうのかな?
こそこそしてるのが丸見えなんだから、両隣の側近の方々も話せばいいのにとか思っちゃうのは俺だけ?
今も50代の側近から何やらこそこそ指示を受けているんだけど、ミリア商会長は首を縦に振らないんだな。
ちょっと揉めてるのかな?
とりあえず、マルディニールさんに会合の進行は任せているので俺は黙っているんだけど
エルミア商会側はこのシフォンケーキのことでちょっと揉めてるみたいだ。
シフォンケーキを食べたミリア商会長、かなり気に入ってたもんな。
おそらくレシピが知りたいんじゃないかと思う。
「よろしいですか?こちらとしては、隣の土地を売る場合このくらいの額を考えております」
揉めていた50代の側近が急に土地の値段を提示して来た。
え?商会長無視なの?
いいの?それって。
見るとミリア商会長、かなりご立腹のご様子だ。
若い方の側近になだめらている。
「なるほど…そうですか…」
マルディニールさん、商人の顔になってるね。
考えるフリして全然納得してないの丸わかり。
見ると提示された土地の値段は、前よりも少し上がってる気がする。
んー、ふっかけられた。
「私共は、このマツヤの支店を作る意味で土地の購入を考えておりましてな…この額だと予算的にオーバーですね。それに商人ギルドに提出していただいた値段よりも高くなっていますが、これはどう言った意味で?」
強気!マルディニールさん強気!
チラッと後ろに座るユウトとタクマを見たけど、なんかソワソワしてるぞ。
タクマなんて、「やれー!」みたいな目してる。
マルディニールさんから指摘されたオッサンの方の側近は、言葉に詰まってしまっている。
確かに、不動産屋で見た物件をいざ借りようと思ったら家賃が聞いてたのより高かったら俺も文句言うわ。
「土地売買の書類の制作はギルドの専門職員が土地の広さや立地など色々な面から査定して金額を出すはずですが。おかしいですねえ…」
側近のオッサン、撃沈。
ふっかけに失敗。
「このようなご無礼、大変申し訳ありません」
撃沈したオッサンの代わりにミリア商会長が頭を下げた。
オッサンは、苦虫を噛んだ顔でそっぽを向いている。
あー、このオッサン…ダメな。
大人としてダメだ。
「私たちが王都からこちらに出向いたのは、ぜひ土地を買っていただきたいからなのです。実をいいますと…恥ずかしい話ですが我がエルミア商会の経営は厳しいです」
「商会長!」
「黙ってなさい!あなたに発言を許した覚えはありません!これ以上私の意と違う発言をしたら退出させますよ」
商会長にきつく言われたオッサンは、黙って下を向いている。
すると、ちょんちょんとプルが俺をつついてきた。
プルは内緒の話は、シーと口に指を当てて小声で話す事を覚えている。
そのポーズをしているから、内緒の話なんだろう。
でも今は大事な会合中だからな。
席を外すタイミングでもないし…と思ってたら急に頭の中にリコルの声が聞こえた。
「ご主人様。プルの言いたい事を僕が伝えるね?あのね、そのおじさん何か悪い気がするんだってさ」
悪い気?
「そう、僕も同じく感じるよ。良くない事を考えてるのか既にやっているのか分からないけど」
なるほどな。
俺たちには見えない何かを2人は感じているのか。
わかった、ありがとな。気に留めておくよ。
「プルもありがとな」
小さな声でプルに言うと、プルが返事をするみたいに震えた。
プルってば、場の雰囲気を読むなんて
大人になったなー!
俺は嬉しいよ!




