第7話 これから、どうするか?
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N:蒸留水
N:蒸留水
N:傷薬
N:傷薬
N:グレイ・ウルフ
N:携帯食料A
N:携帯食料A
C:ロングソード
C:フレイム・アロー
R:リペア
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「え?」
「タクロー?」
「ごめん、なんでもない」
「そう?」
変な声が出た。
傍から見ると不審者だったかもしれないが……『1日1回サービスパック』から『蒸留水』『傷薬』『携帯食料』あたりが出てきたことに驚いたのだ。
ユニットや魔法をはじめとした戦闘関係のカードもさることながら、このサバイバルな状況下において生存性能に優れているのは、とてもありがたい。
カードが10種類集まったから【万象の書】のレベルが上がった。
これでコスト上限は3になった。【万象の書】のレベルを3にするためには、ここから30種類のカードを集めなければならないらしい。
それが多いのか少ないのか、現段階では判断ができない。
「で……これから、どうするかって話だけど」
「タクロー?」
フェンス越しに外を見た。
眼下――学園の敷地内には、何匹ものゴブリンがたむろしている。
少し離れたところには、牛頭の人型やら動く石像やら、ほかにも一見しただけピンとくるモンスターもたくさんいたし、まったく心当たりのないモンスターもうろついている。
モンスター被害は現在進行形で拡大中だ。
「なんか、凄いことになってるわね」
「うん。これもう完全にゾンビもの……いや、待てよ」
呆れるリアに同意しかけて、引っかかりを覚えた。
状況はゾンビパニック系の映画に似ている……ように見えて、違う気がした。
ゾンビものにおけるゾンビは主人公をはじめとする人類を脅かすだけの存在だが、今、そこかしこで暴れまわっているモンスターは違う。
倒せばレベルが上がるし、レベルが上がれば強くなれる。
カードに封印すれば手駒として使える。
魔石でカードが買える。
つまり――
「RPGなんだ。積極的に戦うべき相手なんだ」
「『あーるぴーじー』って言うのはわからないけど、戦うのは大賛成よ」
リアはやる気満々だ。
初陣を前に気が逸っているようにも見える。
さっきまでの甘酸っぱい感じは、もうどこにも見当たらない。
――大丈夫っぽいな。
モンスターよりも強くなれば、命を脅かされることはなくなる。
安全圏を確保するためにも最優先でレベルを上げるべき、すなわち戦うべきだ。
――戦う、戦うなら……
手持ちのカードに目を走らせる。
戦うべきだと思っていても、戦うことは命がけだ。
リアひとりをモンスターと戦わせるのは、本人が何を言おうとハッキリ言って論外だ。
――当面は1匹でうろついてるゴブリンを狙うにしても、アドを取らないと……
起動できるユニットは『リュンクス』と『グレイ・ウルフ』の2枚。前者は攻撃力が0で、後者は攻撃力はあるもののコストが1多い。
コストの縛りがきついと思った。
――アド……盤面アド……
コストは自分のレベルと【万象の書】のレベルの合計まで。
手に入れたカードを見る限り、『アルビオン』を除けばレベルとコストには相関関係があるように思われる。
――待てよ。僕と同じレベルのユニットを起動したら、それでコスト使い切っちゃわないか?
その場合、余力は【万象の書】のコスト分だけになる。
レベル3に上がるために30種類必要で……次は何種類だろうか。
100種類と言われても驚かないし、そこまでやってもコストの余裕は4しかない。
その頃に自分のレベルはどれくらいになっている?
レベル10になっていたら、コスト4のユニットなんて起動する意味があるのか?
敵も味方もみんなレベル10の中で1体だけレベル4なんて、戦闘要員として考えるのは無理がある。
ユニットを起動せずに、魔法とアイテムを主軸に戦う――いわゆるバーン的な戦い方は有効だと思うが、現段階では手札が足りていない。
だったら――
「僕を1体のユニットとして数えるか」
「タクロー? タクローってば」
数的有利を押し付けて戦う。
発想としては間違っていないはずだ。
問題は拓郎には【万象の書】以外のスキルがない点。
この問題さえクリアすれば、明確なアドを取ることができる。
そして――その問題をクリアするためのカードは、もう手札に存在している。
「【気配察知】は必須だ。奇襲を食らうのはダメだ。常に先手を取っていきたい。だったら……『デモンズ・ハンド』を装備して『リュンクス』を起動する。コストは1残す。【気配察知】でモンスターに奇襲されないようにして、リアと一緒に【投てき】【暗黒魔法】と特殊能力で戦う感じか? でも、【投てき】って何を投げればいいんだ?」
「タクロー、もうっ!」
拓郎自身を1ユニットと見なすには、スキルが付与されている装備品こと『デモンズ・ハンド』は必須。
これは確定。
その前提で『グレイ・ウルフ』を起動してコストを限界まで使うより、『リュンクス』を起動してコストを残す方がよいように思えた。『フレイム・アロー』は校舎に燃え移るかもしれないから使わないとしても、『傷薬』とかはすぐに使う可能性がある。
最低でもコスト1は余裕を見ておくべきだ。
一度使ったカードは『コスト×日数』の待機時間を経過しないと再び使えるようにならないというルールも含めて考えると、やはり『グレイ・ウルフ』の起動は見送った方がよいと結論した。
レベルを上げてコスト上限が増えれば『グレイ・ウルフ』を出しやすくなる。
今は『リュンクス』だ。『リュンクス』の起動限界(24時間後)までに絶対にレベルを上げる。
これはマストだ。
【気配察知】がない状況は、危険すぎる。
「……それじゃ、行ってみるか」
戦い方は考えた。
武器もあれば、手駒もある。
傍にはリアもいてくれる。ひとりじゃない。
だから――今の自分に必要なのは、一歩踏み出す勇気だ。
「よし! 『デモンズ・ハンド』『リュンクス』起動!」
2枚のカードが光を放ち、拓郎の腕に禍々しいデザインの黒いガントレット『デモンズ・ハンド』が装着され、足元に白い猫こと『リュンクス』が姿を現した。
かわいい。
やはり、猫はいい。
「にゃ~ん」
「や~ん、かわいい!」
「よろしく頼むよ、『リュンクス』」
頭を撫でてやろうとしたら、すいっと手を躱された。
声が出ない。身体が動かない。汗がひと筋、たらりとこめかみから流れ落ちた。
「……だ、大丈夫かな?」
「みゃ~」
リュンクスは宙ぶらりんになった拓郎の腕を伝って肩に乗っかってきた。
小さいから重くないし、フワフワした肌触りが頬に心地よい。
撫でさせてくれない理由はわからなかったが……
「とりあえず……目標、ゴブリン4匹」
4種類のパックは、それぞれ1日1枚10PPでカードを購入できる。
合計で40PPだ。
まずは、ここを目指す。
「そんなショボいこと言わないで。ワタシがいるんだから」
「それはそうなんだけど、あまり大きすぎる目標を掲げるのもどうかなって」
「ま、慎重なことはいいことかしら」
「そうそう」
拓郎は覚悟を決めてこぶしを握り締め、腰を上げた。
ドアを開けて校舎に踏み込み、獲物を探すその瞳には――先ほどまでとは打って変わって強い光が宿っていた。