第5話 キミの名は?
虹色の光。
いつの間にか焚かれていたスモーク。
やたらとカラフルな煙の中心に、ひとりの少女が立っていた。
――おお……
髪は、キラキラと輝くピンクのサイドテール。
紫色の瞳が印象的な、生まれてこの方お目にかかったことがない美貌。
透きとおるような、でも、生命力に満ち溢れた瑞々しい白い肌。黒を基調とした露出度が高い……高すぎる衣装――前は首から胸元、そこからおへそが見えるところまで布地がなかった。股間のまわりは、これまたすごい角度で切れ上がっていた。腕にはロンググローブ、脚にはロングブーツ。
お尻からは電源コードみたいな尻尾が伸びていて、先端はハートマークだった。
背中からは1対の翼――コウモリっぽい奴が広がっている。
総じてサキュバスっぽい。
……って言うかサキュバスのコスプレっぽい。
「キミね、ワタシを呼んだのは!」
ビシッと指をさされて……拓郎は後ろを見た。誰もいない。
べしっと頭を叩かれた。振り向くと少女が目と鼻の先――拓郎の目の前にはとんでもない美貌があって、視線を降ろすと胸の谷間に意識が吸い込まれそうになった。
「キミに決まってるでしょ! 他に誰もいないんだから!」
「……どういうこと?」
「なんでそこで首をかしげるの!?」
「いや、でも、だって……あれ? あれ、これって……」
拓郎は右手を見た。
1枚のカードを握り締めている。
――いつの間に?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
名 称:情熱の聖杯ベリア・ルリア
タイプ:ユニット
種 族:デーモン/???
属 性:火
レベル:0
コスト:2
攻撃力:0
防御力:1
魔法力:2
スキル:【精霊魔法(火)】レベル1
特殊能力:この杯を●●で満たそう(対象:このユニット)
・対象のプレイヤーは【MP:対象のコスト×10】を消費してもよい。
効果適用後、対象のコストを0として扱う。
※1枚制限
レアリティ:UR
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「UR……あれ?」
しげしげとカードを見て、眼前の少女――『情熱の聖杯ベリア・ルリア』を見た。
ベリア・ルリアは思いっきり胸を張っている。
めっちゃドヤ顔だ。
――そういえば……
すでにバナーは消えてしまっているが、『UR1枚確定パック』は10+1枚封入されているはずで、さっき『デモンズ・ハンド』をゲットした段階ではまだ10枚しか見えていなかった……最初に【万象の書】から出てきた光が10個しかなかった……ような気がする。
「つまり、僕はキミを自力で引いてきた? 0.003パーセントを?」
「イエス! この確率、運命を感じるわ!」
「マジか」
「マジもマジ、大マジよ!」
超絶ご機嫌なべリア・ルリアを見つめているうちに、ようやく実感が湧いてきた。0.003パーセントと言うクソ確率に勝利した実感だ。
「それで、キミの名前は?」
「えっと、拓郎。僕は『桧川 拓郎』って言います」
「敬語はいらないわ。えっと……タクロー家のヒカワくんってことでいいのかしら?」
「拓郎が名前です」
「オッケー、タクローって呼ぶわ。私のことはリアって呼びなさい!」
「リア……さん?」
「はぁ?」
おずおず小声で名前を口にしたら、思いっきり嫌な顔をされた。
言われたとおりに呼んだはずなのに、実に解せない。
意思の疎通が難しそうな相手は困るなぁ。
拓郎は、心の中でそう唸った。
「……距離を感じる。呼び捨てでいいわよ」
「えぇ?」
そっちかよ!
予想外の反応に変な声が出た。
出会い頭に、ここまで難易度がクソ高いことを要求されるとは。
唖然とする拓郎の前で、リアが『ショックなんだけど!?』みたいな表情を浮かべた。
「嫌がられてる!? ワタシを『リア』って呼べるのは大変な栄誉なのに!?」
「……そのすみません生まれてこの方妹以外の同年代の女の子とまともに話した経験がない僕的にいきなり呼び捨てはキツイです」
「すぐに慣れるわ!」
押しが強い。
じーっと見つめられると胸が苦しくなってくる。
もの凄い期待されているように見えるし、なにがなんでも呼び捨てしないと許さない的な圧も感じる。
超早口の弁明はまったく通用しなかった。
これは、逃げられない奴だ。
「え、えっと……リ、ア」
「声が小さい!」
「リア」
「もっと大きな声で!」
「リア……リア!」
「うん、よし」
ベリア・ルリア――リアが笑った。
さっきまでの体育会系のノリとは打って変わった、柔らかい笑みだった。
リアは腰に手を当てて胸を張ったまま、キョロキョロとあたりを見回して――ズイッと顔を近づけてくる。
近い!
近い近い近い!
油断も隙もあったもんじゃない!
「それで、何がどうなってるのか説明してほしいんだけど?」
「……それが、僕も全然わけわかんなくて」
「どーして?」
「どーしてって言われても、えっと……」
今日、突然ゴブリンと遭遇した。
ゴブリンを倒したらレベルが上がった
ステータスウィンドウが見られるようになった。
【万象の書】と言うエクストラスキルを習得していた。
スキルを使ったら、リアが勝手に出て……違う、リアを呼び出した。
「僕らの世界にはモンスターなんていなかったし、レベルとかステータスとかスキルとかもなかったんだ。今日の昼ぐらいから、ホントいきなりだったんだ」
「それは、その……確かにワケわかんないわね」
リアが小さく首を傾げた。
ピンクの髪がサラリと流れ落ちる。
リアは――いつの間にか隣に腰を下ろしていた。
距離がやたらと近くて、触れていないのに体温を感じる。
精一杯説明している間も、拓郎は汗ダラダラで心臓は爆発寸前だった。
「それで、タクローはどうするつもりだったの?」
「……リアが言ったとおり、本当にワケがわからない。わからないけど……わからなくても死にたくない、生きたいって気持ちはあるんだ」
だから、戦う。
レベルを上げる。カードを集める。
食べ物、飲みもの、住むところ……やるべきこと、必要なものはたくさんある。
「なるほど。状況はわからないけど、やるべきことはわかってるわけね」
優秀だわ。
さすがワタシを引き当てただけのことはあるわね!
リアは嬉しそうな表情のままスッと立ち上がって、拓郎に手を差し伸べてきた。
「……と言うわけで、早速行くわよ、タクロー」
「行くって、どこへ?」
「モンスターを探すのよ! 初陣よ!」
「……僕の初陣は、さっきのゴブリンで終わってる気がするんだけど」
あまり深く考えて発した言葉ではなかった。
でも、リアの表情がピシッと固まって、ギギギと首が回って、白いうなじから汗がダラダラ流れていて……
「その、わ、ワタシの初陣?」
「あ~、やっぱり」
「『やっぱり』って……気づいてたの!?」
リアがグルンと回転した。
詰め寄ってくる瞳は、大きく見開かれている。
拓郎はわずかに後ずさって……申し訳ないと思いながらも、首を縦に振った。
「レベルが0だったし……モンスターを1匹でも倒せばレベルが上がるって考えたら、リアは戦ったことないのかなって思ったりは、した」
「みぎゃ~~~~~~~~~~~~!」