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第11話 生き残りとの遭遇 その2

【万象の書】の性能を調べていたときに、疑問に思ったことがある。

 魔法って、どうやってゲットするの?

 答えは、これだ。


「ははっ、ほとんどラーニングだな」


 笑えてきた。

 魔法をカードで直受けなんて、命懸けじゃないか。

 そんな危険な方法なんて――


――まぁ、命懸けはいつものことってね。


 笑いが込み上げてきた。

 いまだに女子にまとわりついたままだった魔法使いゴブリンたちは、自分の魔法が利かないとわかるや否や目に見えて慌て始めた。

 一匹は杖を捨てて背中を見せ、逃走しようとしている。


――バカなやつ。


 そちらは行き止まりだ。

 女子の肢体に夢中で、そんなこともわからなかったらしい。

 そのバカさ加減が、余計に腹立たしい。


「お返しだッ!」


 拓郎は獲得したばかりの『エナジー・ボルト』を掲げて、すかさずこれを起動する。

 カードは光を放ち、光の中から矢が放たれてゴブリンの背中に突き刺さった。

 ゴブリンがバチバチと帯電し、ブスブスと煙を上げて地に付した。

 カードは2枚、倒れたゴブリンは2匹。つまり――


――あと2匹!


 後ろから飛んできた炎の矢が、浮足立ったゴブリンに突き刺さった。

 リアが『フレイム・アロー』で援護してくれたのだと思った。

 背後を振り返る余裕はないが、感謝せずにはいられない。

 短剣を拾い上げ――いまだに女子から離れないゴブリンに叩きつける。

 技術も何もない、力任せな……怒りを乗せた一撃。


「食らえッ!」


 短剣。

 最初のゴブリンに突き刺したものだ。

 当人(?)はすでに消滅していて、短剣はちょうどいい感じの場所に転がっていた。


 ギギギギギギ

 ギギギギギギ

 ギギギギギギ

 ギギギギギギ


 短剣は、ゴブリンに刺さらなかった。

 拓郎とゴブリンの間に白くて透明なのようなものが出現し、刃を阻んでいる。

 盾の向こうで杖を構えたゴブリンが――嗤った。

 拓郎も――笑った。

 短剣を手放し、素早くカードを抜き放つ。


「その魔法、よこせッ!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:プロテクション

 タイプ:魔法【古代魔法】

 属 性:光

 コスト:1

 魔法力:1

 対 象:ユニット1体

 効 果:対象を【防御力:+3】する。


 レアリティ:C


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 魔法が、防壁が拓郎のカードに吸い込まれるように消えた。

 ゴブリンは驚き慌てふためいて――いなかった。

 短剣を拾って下から跳ね上がってくる。

 今しがた拓郎が手放した短剣だ。

 

「なッ!?」


「タクロー、逃げて!」


 完全に油断していた。

 リアの声が遠くに聞こえる。

 目の前で、自分が、ピンチだった。

 何もかもがスローモーションに感じて――


――ヤバい!?


 頭の中が真っ白になった。

 魔法使いのゴブリンは、魔法しか使ってこないと思いこんでいた。

 そんなことはなかった。ゲームっぽくても、これはあくまで現実だ。魔法使いが武器を拾って切りかかってきても、なにもおかしくはない。

 間に合わない。

 躱せない。

 死――


「させるかッ!」


 切羽詰まった声。

 ゴブリンの胴体に白いものが巻き付いた。

 白いもの、人間の腕。先ほどまでゴブリンどもに弄ばれていた女子の腕だ。

 背後からゴブリンに抱きついて、抑え込もうとしている。

 拓郎を、守るために。

 ゴブリンはもがいて、短剣の柄で少女を殴り飛ばそうとして――


「調子に乗るな!」


 その手を拓郎が蹴り飛ばした。

 短剣が宙を舞い……天井に当たって、離れたところに落下。

 ゴブリンが見上げてくる。言葉はわからないが、何を言いたいのかはわかった。

 命乞いだ。


「安心しなよ。殺しはしない」


 思ったよりも、穏やかな声が出た。

 無地のカードを掲げて、拓郎は笑った。


「死ぬまで……いや、死んでも扱き使ってあげるから」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:ゴブリン・メイジ

 タイプ:ユニット

 属 性:闇

 レベル:1

 コスト:1

 攻撃力:1

 防御力:1

 魔法力:1

 スキル:【古代魔法】レベル1

 特殊能力:なし


 レアリティ:N


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ドサッ


『ゴブリン・メイジ』が消滅して、その身体に抱きついていた女子が地面に倒れ込んだ。

 介抱しようとして――足が縫い留められたように動かなくなってしまった。

 ゆっくり身体を起こした少女と、拓郎の視線が重なる。


 煌めく漆黒の瞳。

 後ろで束ねられた黒髪。

 一糸まとわぬ、白くて眩しい肌。

 そして――見覚えのある凛とした美貌。

 拓郎の呼吸が止まり、心臓がドクンと跳ねた。


「篁さん?」


「ひ、桧川か……」


 安堵を滲ませた声、柔らかい笑み。

 毎日顔を合わせていたクラスメートの、見たことのない顔。

 拓郎の前で漆黒の眼差しが力なく閉ざされ、『篁 亜衣』は再び地に倒れ伏した。


「え、あ、ちょっと!?」


 廊下に寝かせてはおけなくて、亜衣を抱き上げた。

 拓郎の耳朶を『すう、すう』と可愛らしい吐息がくすぐってくる。


――息がある。


 生きてる。意識を失っただけだ。

 よかったと胸を撫でおろして――背後から猛烈な悪寒を感じた。

 どうしようもない恐怖に背筋が凍ってまごついているうちに、背後から伸びてきたロンググローブの手に首をひねられる。


「いいご身分ね、タクロー」


 地獄の底から響いてくるような声。

 今まで見たことがないリアの冷たい視線が胸に突き刺さった。

 その足元では『リュンクス』がそっぽを向いていた。『みゃ~』とも鳴かない横顔には、呆れが滲んでいるように見えた。


「ち、ちゃうねん」


「問答無用! とにかく、あっち向け――――――ッ!」


「は、はいぃ!」


 亜衣を助けた。

 助けて、それからどうする?

 後のことなんて、何も考えていなかった。

 とりあえず、ボーっとしてはいられない。それは間違いない。

 ゴブリンは掃討できたが、ここは断じて安全地帯などではないのだ。一刻も早くどこかへ移動しなければ――


「……って、僕が運ぶの?」

 

「人間の首って、これ以上曲がるのかしら?」


「……すみません、その、リア様、篁さんを運んでいただければと思うんですが」


「しょーがないわねぇ」


 冷たく素っ気なかった声に、ちょっと温度が戻ってきた。

 リアに亜衣を任せて(できるだけ見ないように努力した)、そっと自分の首を撫でた。

 依然として痛みが残っていて、『傷薬って利くのかなぁ?』とか考えながらも――口元が緩んだ。

 何かを成し遂げた、達成感があった。


――助けられてよかった……よね?

 これにて第1章終了となります。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 第1章終了時点のステータス等を記載して、明日から第2章に入る予定です。

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ポケモンゲット、かあ。戦った敵が味方になるのは胸熱展開と言われるけれど、ゴブリンじゃねえw 無地カードがあって、それを使えたのか。無地カードについては言及なかった気がするので、前話では何をしたのかがい…
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