8.
森の中に入って、食用となる植物を採取をする。
リマジハから遠く離れていないのもあるが、馴染みのある植物が多くて選別するのも簡単だ。
「ふぅ。こんなもんだろう」
植物はいたむのがはやいので食べれる分だけを採取するのが基本。
しかし、これから旅を続けていく上では長期保存が可能なものを備蓄すべきか。だけど持てる荷物量は限られている。日常生活しかしていなかった俺は体力に自信はない。荷物を増やして、歩き続けるのは・・・ユーリではないが、俺もつらいものがあるな。
「うん、ナイトに相談だな」
旅の素人が考えるより、遠征などもあったであろう騎士であるナイトの方が実用的で役立つ答えが出るだろう。
とりあえず採取ポーチにまとめて、ユーリの場所に戻るとナイトの背中が見えた。
はやい。やっぱり、遠征とかで慣れているんだな。
「あ、ナイト」
「あのっ、しず、あ、っと……」
なぜか小声で、身振り手振りをしながら慌てているナイト。手元には捕まえてきたらしい鳥がなんの処理もされずある。いろいろと、とても挙動不審な状況だ。
でも、すぐにその理由は判明した。
「あー……寝ちゃったか」
ナイトの足元には香り袋を手に、ころりと寝入っているユーリがいた。
雲もなく、陽だまりの元では眠りに誘われるのも仕方がない。
「よいしょ」
ユーリとの足元側に置いていた自分の旅行鞄からブランケットを取り出す。それから、そっとユーリの体を覆うようにブランケットをかけてやる。
「大きな音を出さない限り、起きないと思うから、俺たちは昼食の準備をしよう」
「あ、はい」
俺がそう声をかけると、ナイトは意外そうな表情をした。
きっと、俺がユーリのことを起こすと思っていたのだろう。
「ユーリはさ、図太いんだけど繊細なんだ」
俺とナイトはユーリから少し離れた場所で火を起こして食事の準備をはじめた。
そこで俺はどうしてユーリを起こさなかったのか、その理由をナイトに説明することにした。
「あ、まぁ…その」
「図太いとも、繊細とも言いにくいよな。これは俺の独り言みたいなもんだけど……聞いてほしいんだ」
ほぼ見知らぬ人間と旅をするのは精神が擦れる。
でも、お互いを理解するには余裕がない。
だからこそ、勘違いしてほしくないことは伝えたいし、これから時間を共にするのだから分り合いたい。
「ユーリは自分が”これだ!”と決めるとなかなか折れないし、発言も突飛すぎるから分かりにくい」
注ぎ口のついた小さな鍋に採取した葉を入れて、水を入れて煮込む。
さすがにユーリも自分の仕事、火起こしをしてから寝落ちたようだ。
「だけど、繊細なんだ。なんだかんだ言ってここ数日寝れてなかったみたいだし」
ナイトは静かに鳥を捌いて加工をしている。
「”責任感が強い”って言うと美化し過ぎなんだけど、でも責任を持っているのは確かなんだ。期待に応えなきゃとか、いろいろ。ユーリはユーリになりに一生懸命に考えてはいる」
採取と合わせて拾ってきた小枝を焚き火に足す。
「その結果が俺たちに理解できないことだったりして困らせることもあるけど。だけど、ユーリってそんな奴なんだ」
パチパチを音立てながら、足した小枝に火が移り燃えはじめる。
「だから、それをすべて受け入れてほしいってワケじゃなくて、アホだなーって思って流していいんだよ」
ゆらゆらと立ち上がった炎が小鍋を囲みはじめる。
「ナイトはすごく真面目で誠実なんだろうって思う。でも、それはすべてじゃないと思うんだ」
「それは……」
ナイトは鳥の捌きを終え、かたまりとなった肉を細く長い枝に串刺しにしていく。
そして焚き火で炙り焼くように焚き火を囲むように地に刺した。パチパチと火が鳴る。
「弱気なところも、へこんだりすることもあると思う。情けないとか、見せちゃダメとか思っているかもしれないけれど、それだとナイトも疲れちゃうと思う」
ぽつ、ぽつ、と鍋の中はゆっくり沸き立ちはじめた。
これぐらいがちょうどいいだろう。
「これから長い時間一緒にいるんだからさ。ナイトも困るなら困ったとか、遠慮しないで言ってほしい。俺も言うから」
焚き火越しに合ったナイトは困ったように笑った。
「そう、ですね……善処します」
「うん。強制するつもりはない。ただ、吐き出していいってことは知っていて欲しかったんだ。ずっと理想の騎士様でいることはないんだって」
そろそろ、ユーリを起こそうと立ち上がる。
「あ、あのっ。セイ様の言葉は嬉しいと思いました! なので、その……」
ぎゅっと握った手を胸にあてながら、必死に言葉を出そうとするナイト。
簡単に変われるものでも、理解できることでもない。
それでもナイトは精一杯、俺たちに応えてくれようとしている。
「ありがとう。それだけでも俺は嬉しいよ」
言葉がすべてじゃない。
真摯な姿勢で伝わることもある。
たった一言で変わることもある。
できることからはじめれればいいと思う。
「ユーリ、起きろ、昼飯できたぞ」
「んー・・・昼飯?」
「そうだ。ほら、しゃんとしろ」
しょぼしょぼとハッキリと動かないまぶたのユーリは重そうに目をうっすらと開けた。
数日の寝不足のことはわかっているが、甘やかすつもりもない。
のっそりと起き上がったユーリの背中を軽く叩いて刺激する。
「うおー…! 院長みたいだな」
「なに寝ぼけてるんだ」
「ん? いい匂いがする!」
ナイトが準備した串刺しの肉から香ばしい匂いが流れはじめていた。
「昼飯だって言っただろ。温かいスープも、鳥の串焼きもできてるぞ」
「なにっ!? 早く、食おうぜ」
数秒前まで寝ていたとは思えないぐらい、俊敏に動きはじめたユーリ。
そんなユーリの動きにナイトは静かに笑った。
「はぁ。今回は特別だからな。次回からちゃんとお前も作るんだぞ」
「もちろんだぜ! 任せろ!」
ユーリは威勢のいい返事をしたものの、肉の前に陣取っているし、視線は肉に固定されている。
まったく、仕方がないな。
小鍋で作ったスープをそれぞれの円柱型の器についで、手渡していく。
3人分を揃ったのを確認したユーリは、手をパチンを合わせた。
「いただきます!」
「んっ」
「いた、いただきます?」
これはユーリ特有の食事作法。
ご飯を食べる際に、神に祈りを捧げる場合があるけれど、ユーリのこれはちょっと違うらしい。食材となった植物や生き物などに感謝する前世の言葉らしい。ユーリと過ごすうちに慣れてしまい、言葉にしなくても、俺も食事の前につい手を合わせてしまうようになった。
ナイトは不思議そうにしながらもユーリにならって同じ言葉を繰り返して、食事をはじめている。
あとでナイトに説明しとかないと。
そう思いながら、急激に食欲が増した腹に供給すべく、脳内を食事に切り替えた。
一番最初に手を伸ばしたのはナイトが作ってくれた串刺しの鶏肉だ。ユーリが釘付けになる気持ちが分かる。本当に香ばしい匂いがして、ある食欲がさらに加速する。
「うん、うまい」
「だよな! あつっ…けど、うんまぁー!!」
「あ、ありがとうございます」
旅に出た日、ありふれた青空が見える場所で食べた昼ごはんは、いつもより賑やかで晴々としていた。




