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幕間・冒険メシの準備

冒険初心者たちによる、ある昼下がりの日常ほのぼの話です!

 リマジハを出発して数日。

 ナイトに聞きながら、すこしずつ旅知識を増やしていく。徒歩移動の仕方、野宿の仕方、火起こしなど。それでも覚えることはたくさんあるし、知識だけでは補えないこともある。


「はぁ〜。スキップされがちな冒険メシが食べれる日が来るとは……」


 山菜を集めてきて今日の拠点である場所に戻ってくると、ユーリは光悦こうえつとした表情でまたよくわからないことをつぶやいていた。


「おい、ユーリ。ご飯を食べたいなら、ちゃんと準備を手伝えって言っているだろ」

「うげっ! 見つかった!」

「サボっている自覚があるなら、もうすこし考えて行動してくれないか?」


 思わずため息がこぼれてしまう。

 ユーリは食事の準備をサボっているというのに、いつものように想像力豊かな妄想をしている。しかも座っている場所が、これから食事をしようとして選んだ平坦な場所だ。

 そんな場所にいて、なぜ見つからないと思っているのか俺には不思議でならない。


「あ、ははは。いやー、悪いとは思ってるんだけど。現代っ子にはファンタジーじゃないリアル寄りのものなんてさ、難易度高すぎなんだよー」


 頭をガシガシときつつ焦りながらも、そう理由を語るユーリ。

 だがしかし、会話の意味を表すと思われる箇所にユーリ語が入っているから意味はよくわからない。

 とは言え、長い付き合いの俺たちだ。その辺りは培ってきた経験でなんとなくユーリがなんとなく言いたいことは感じとる。


「ナイトは優しいから、お前を甘やかしてくれるだろうけど。俺はそうじゃないってわかっているだろ?」


 逆にユーリも俺の考えていることはわかるはずだ。

 ユーリはいま、リハジマではいなくなってしまっていた甘やかしてくれる存在・ナイトが現れたことで、文字通り甘えている。

 そのことを嗜めてやるが、それでも喚き続けるユーリ。


「くっ。最強の癒しキャラなのに、真面目すぎて全然、優しくないー!!」


 俺は仕方がなく、ユーリに向かって、すんと目元を細めてみると、ピタリと動きを止めた。

 ユーリいわく、俺がそういう表情をすると一段と恐怖を感じるそうだ。


「なんか言ったか?」

「な、なんでもありません。でもさ…まじ、火起こしか…山草採りで、手を打たないか?」


 今回は珍しく、ユーリは口ごもりながら代替案を提示してくる。


「じゃあ、肉が足らないだの、肉が食いたいだの文句を言うな」

「えぇー! そんな殺生せっしょうなー! 育ち盛りの男子と言えば肉が主食じゃないかよぉぉ!」


 駄々をこねる幼子のように、悲痛な声を上げるユーリ。


「はぁ。だったら、狩りに協力しろ」

「うぐっ」

「いや、だってですね。二回言うけど、現代っ子には狩りは厳しいって言うか…なんと言うか、ですね」


 歯切れの悪いユーリは両方の人差し指をつけて、もじもじと動かしている。


「だからなにもお前に狩りをしろとは言っていないだろ。協力しろと言っている」

「いや〜。それが、その協力が厳しいと言いますか……」


 俺が注意したからか、その場からは移動しないユーリ。それでも視線だけでも俺から逃れようと、ユーリはつつつと視線を横へ逸らす。

 この話し合いは初めてではない。リハジマいる頃から何度も話し合っていることだ。


「あのな、ユーリ」


 町いるだけであれば、続けてもよかった。

 だけど、もう俺たちは町を出ている。もう、以前のようにユーリとじっくりと話し合うことはできない。

 こうなってくると俺も結局はユーリに甘かったのだろう。

 俺は息を小さく吐いて、区切ったて、ユーリを見据える。

 

「魚はよくて、鳥や猪、鹿をさばくのは無理とか。なにを子どもみたいなわがままを言っているんだ。どっちも生き物だろが。なにが違うんだ」


 そう、ユーリはいまいち理解ができない理由で、狩りの協力ーー獣をさばいて料理の準備をすることから逃げている。


「全然、違う! 魚はさ、一人暮らししてたし、節約のために捌いていたから抵抗はないけど。猪や鹿はさ……無理だよ! 毛皮を剥いで、その上、内臓を取り出して……えっぐぅーだよ……えぐすぎるんだよ!」

 

 お酒を飲んだ酔っ払った大人たちのように、ぶつぶつと話したかと思えば、突然大きな声を出す。ユーリの言動が支離滅裂すぎて、収集がつかない。

 俺たち以外の冒険者や旅人などがいなかったことは、不幸中の幸いかもしれない。


「と言うか、ユーリ。お前、一人暮らしなんてしたことないだろ。何を言っているんだ」

「この世界じゃなくて、前世ではしてたんだよぉ……」

「あー。わかった、わかった。とにかく協力できないなら、肉を欲しがるのはやめろ」

「うぅー……」


 俺の宣告に対してユーリは諦めきれないのか、唸り声を上げている。

 ユーリは肉への執着心が強い。それだけの想いがあるならば、頑張って家事手伝いを習得してほしいのところだ。


「とは言え、ナイトばっかりに負担がかかるだろが? お互いの負担を軽くするための、当番制になんだろ?」

「ぐっ」

「そんな風にいつまでも経っても覚えないままでは、ナイトになんかあった時、肉が一切食えなくなるぞ」

「ぐぅ!」


 俺はいままで言葉にでなくても行動してきたつもりではあった。

 しかし、ユーリはばたりと地面に倒れ込んで「うっ…うっ…」とうめき声を上げている。


「正論すぎて、何にも言い返せない〜〜」


 さすがに不安になって声をかけようと手を伸ばした時、空に向かって声を上げ嘆くユーリ。

 少々、意地悪し過ぎたか? いやでも、このままだと甘えに甘え倒してしまうだろうし。リマジハにいるときはじっちゃんばっちゃんはもちろん、町全体としてユーリのことを受け入れていた。

 しかし、今後いつまでも続くかわからない旅をする中、ナイトに頼れない状況が必ず出てくる。その上、ユーリは落ち込みすぎると、なかなか気持ちが浮上してこない。

 この状況もまた、ナイトが心配してしまう。


「はぁ……なにも今すぐとは言っていないだろう。こう言う俺も生き物を捌くの苦手だ」

「え、は、セイ…苦手なの、か?」

「そうだ。だから、ユーリ。一緒に覚えていこう」

「一緒に?」

「あぁ。俺たちの付き合いは長い。だからお互いの出来ること、出来ないことを痛いほどわかっているだろう。おぎない、助け合っていこう」

「セイ……」


 地面からゆっくり起き上がったユーリ。顔は地面につけていたので泥だらけだ。

 ユーリのこういうところが変わらなくて、ふっとちからが抜ける。


「ほら、ユーリ。手をだせ。起こしてやる」

「ほんと、セイってたまに主人公より主人公らしいよな」


 ユーリの調子がすこしずつ戻ってきたらしい。


「そのユーリ的な表現。俺にはよく分からないって言ってるだろ」


 そう言うと、ユーリはフヘッと吹き出すには抜けた音を立てて、楽しそうに笑った。

 

「そうだな。でも、嫌いじゃない」

「それは分かってる」


 これでひと段落。と思った瞬間、ドサドサとものが落ちる音が聞こえてきた。


「ん?」


 音がした方へ顔を向けると、そこにはあわあわと口を動かしているナイト。そして、足元には採取してきたであろう木の実などの食材が落ちている。


「お、お二人の関係はやはり、やはり……」


 ナイトは乾いた喉を無理やり動かすように、ハクハクとぎこちない。

 気の優しいナイトのことだ。喉が乾いても水分補給もせず、俺たちのためにせっせと食材確保をして疲れているのだろう。


「幼馴染だが?」

「幼馴染だよ?」


 ナイトがなにを今さら確認をしようとしてきたのかわからない。だが、ナイトは時々、よくわからないところで驚いたりする。


「ふぇっ!? え!?」


 やはり、貴族と俺たち平民との間には見えない壁のような一般常識があるのかもしれない。


「ナイト。ひとまず水でも飲んで、喉を潤した方がいい」

「あ、はい。え、はい」

「なーなー。今日のおかずはこれ?」

「おい、ユーリ」

「すみません」


 今日も騒がしい食事の時間になった。

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