9 伯爵子息に転生したヒモ男は親子丼を食べたい。
前回までのあらすじ。
クリティアは煮干しと乾燥昆布を手に入れた!
おれはミゲル。
今年で12歳になる貴族だ。
ちなみに元日本人。
カノジョが読んでいた、少女漫画みたいな中途半端ファンタジー世界に転生したと気づいたのは去年のこと。
金持ち両親と美人の姉がいて、使用人に世話してもらえる生活バンザイ! と思ったのは数日だけ。
おれってば長男だから、家を継ぐためお勉強の日々。
しかもメシは元カノが作るみたいな横文字オシャレなもんばかり。
贅沢だと言われそうだけど、自由とジャンクフードがないのはけっこう辛いぜ。
おれが牛丼食いたいとかバーガー屋行きたいって言っても、「化学調味料は体に悪いから嫌」と切り捨てられ、オーガニックレストランにしか行けない。
エンスタにアップするとかで光や角度にも拘って時間をかけて撮影するもんだから、せっかくの料理も冷める。
あ~もう無理だなと思って別れて刺されて。
もし結婚するなら、映えとかイイネ数とか、くだらないことにこだわらない女がいいな。
そして栗田玲奈……クリティアに出会った。
日本食を作れる、働く気満々で自立した女なんて最高じゃないか。
しかも大ざっぱな干物。
恋愛経験なしなら、軽く落とせるじゃーん。
そう思っていた時期がおれにもありました。
フローレンス家に通ってはやニ月。
婚約打診しているのに、なかなか首を縦に振ってくれない。
ジャージという令嬢にあるまじき姿で鍋を持つクリティアが、眉を釣り上げる。
「ちょっとミゲル! つまみ食いしないでって何度言ったら覚えるの!」
「いいじゃん、あとでお金払うからー」
今日のメニューは親子丼。
的確な火の通り具合のとり肉、甘くなった玉ねぎと卵。つゆが染み込んだごはん。
スプーンでかき込むと甘じょっぱい風味が口の中に広がる。出汁の風味がイイ。
こういうのがいいんだよ!
ご飯が見えないくらい具がモリモリ、運動部の学生が大歓喜の食堂飯みたいなやつ!
「仕方ないわね……。食べるなら丸のみしないで、ちゃんと味わって食べなさい」
「ありがとう〜。こんなに料理上手でさ、君っていいお嫁さんになるよ」
「それ、元カノたちにも言ってきたんでしょう? ありがたみないわ」
クリティアに冷たい目で見られるのすら快感になってきた。
「前世では養ってほしくて嘘で言ってたけど、今は本音で言ってるよ」
「ダメ人間すぎて引く」
なんて辛辣。おれにこんなこと言う他人は初めて。家族だとじいちゃんくらいか。
真面目に勉強して伯爵家を継ぐって言ったらクリティアは嫁に来てくれるかな。
「あー、美味しかった。ごちそうさま!」
最後のひと粒まで食べると、キッチンに通された。
「器とスプーンは自分で洗って」
「なんで!」
「働け、ヒモ」
「貴族のおれに洗い物をさせるなんて鬼か」
「使用人のお給料は、雇い主が働いた稼ぎから出てんだよ」
クリティアに睨まれながら洗い物したよ。おれ、がんばった。





