28 悪役令嬢に転生した干物女は夜の怪談話で盛り上がる。 (夏合宿編2)
前回までのあらすじ。
刺身はうめーですわ!
クリティアです。
合宿の夜。海辺にあるユージーン家の別荘にて。なぜか談話室に集まって百物語が展開されている。
今の語り部はミゲル。雰囲気を出すためだと言って部屋の灯りは落とされ、目の前にある魔法の光ランタン一つだけになっている。
ぼんやりしたランタンを囲んで円になって座る。
ミラは私の腕にすがりついて震えている。コリンとヨイは真剣な顔で聞き入っている。
クロムはわりと平気そうだ。
私は夏の世の怪談番組を見ながら笑ってビールを飲むタイプだから、平気。
「……それ以来、事故のあった時間にその浜辺を通ると、”助けて、助けて”という子どもの声が聞こえるようになったのです」
「きゃーーーー!!」
「わーーーー!」
ミラは真っ青、コリンはたぶん作り話だとわかっていてノッている。コリンの悲鳴だけわざとらしい。
「なかなか興味深いお話でしたわ」
ヨイはパチパチ拍手をする。怪談ナイトを楽しんでいるようでなによりだ。
「おかしいな。あの浜で海難事故があったなんて記録はここ数年ないはずなんだが」
クロムが空気を読まない発言をかます。話の腰を折られてミゲルがへそを曲げた。
「うっさいなクロム。こういう怪談話で大事なのは、聞き手を怖がらせること。本当かどうかなんてどうでもいいんだよ」
「そういうものなのですか。それは失礼」
クロムって絶対、小中学校の修学旅行で夜中にほかの男子が盛り上がっていても一緒にバカ騒ぎしない学級委員長タイプよね。わが弟ながら、お固い。
「そんなに否定するならクロムが本当にあった怖い話してよ。作り話じゃない怖いやつ」
「……そうですね。伯父上の領地の話なら」
コホンと咳ばらいを一つ。
「10年前のことだ。ソノ村という村で盗難事件が相次いだ。はじめのころは置物だったり、ペンだったり、些細なものだった。村人は犯人を捕まえようと話し合い、張り込んだけれど、その間事件は起こらず。あきらめて張り込みをやめたころにペンダントが盗まれた。まるで張り込みがあるのを知っていたかのような犯人の行動パターンを怪しみ、一人の若者が誰にも言わず張り番をした。そうしたら、犯人はなんと村長だったんだ」
ものすごく真剣な顔で話すからどんな怖い話なのかと思ったら、盗難事件の話だった。
「……クロム。それのどこが怖い話なの?」
「怖くないですか姉上。信頼して村を任せていた村長が窃盗犯なんですよ!? 領主は誰を信じたらいいんですか」
「あーはいはい。領主目線だとたしかに怖いかもしれないけどさ、うん。おれが聞きたいのはそういうんじゃないんだよクロム。ホラー! ゴーストが出るやつ!」
「そうだったのか」
怖いの意味がかみ合わない次期当主二人。
「次はわたくしですわね。これは先週の話です」
ミラがきりりと背筋を正して座りなおす。
「クローゼットにこっそり隠しておいたおやつのドライフルーツが消えていたんです! 寝る前につまもうと思っていましたのに!」
あまりにもな内容で、コリンが声を上げて笑う。
ミゲルが不自然にあさってのほうを向いた。
「そ、それは大変だね姉上。怖いなー。おばけもイチゴが好きなのかもしれないね」
「まあミゲル。なぜわたくしが隠しておいたのがイチゴだと知っているの? ……ミゲル、まさか」
「ごめんなさいいいいいっ!」
犯人が自爆した。
家に帰ったら話し合いね。わかるわかる。
蛇に睨まれた蛙ならぬ、ミラに睨まれたミゲル。
ミラが怒っているところなんて、VSロブソン以外で見たことがなかったわ。
コリンが大きく息を吸って話し始める。
「だめねえミゲル。こうなったら真打のあたしが怖い話をしようじゃない。あたしの話は……」
話している間に、外から誰かの声が聞こえてきた。
「……い、おおおおい、誰かあああ!」
男の声?
みんなで顔を見合わせて、窓の外を見る。耳を澄ませると、声は海のほうから聞こえる。
「ま、まさかミゲル様がさっき話していた幽霊」
作り話じゃないですかー、と笑っていたクロムが一番青ざめている。
「まっさかあ。あれはさっき思い付いた嘘のホラーだし」
「でもほら、何度も呼んでいるわ。ミゲル。もしかして本当のことなんじゃ」
ミラまでもが信じ始めた。
「でもここってユージーン家のプライベートビーチだし、庶民が入りこんで勝手に泳ぐなんてことないでしょ」
私が気休めに言ってみるけれど、正体不明の声は今も聞こえている。
「幽霊でもきっと物理攻撃は効くのではないかしら。幽霊にわたしの領地で悪さをされたら大変よ」
ヨイが部屋に置いてあったコート掛けをつかんだ。
「ヨイ様一人で行かせるわけにはいきません。わたくしも!」
「おれも」
幽霊だと信じ込んだみんなが手に手に、枕やグラスを掴んでうなずく。
ユージーン家の護衛も呼んで声のするほうに行ってみたら
「ああ、やっと気づいてくれたー。仕事が終わったから来たんだけど、この時間だから門は締まっているし門番もいなくて、砂浜で野宿するしかないと思ったよー」
声の正体は、遊ぶ気満々のカインだった。
早めにこれたら泳ぐつもりだったのか、海パンをはいている。
ヘラヘラ笑う王子がみんなに頭を叩かれたのは言うまでもない。
乙女ゲームの海イベントに来て、初めて拝んだ水着は王子の海パンでした。(ミゲル)
夏の夜の思い出と言えば?
私は夜に提灯一つだけもって墓参りに行かされました。(肝試しではなく、そういう風習)





