17 悪役令嬢に転生した干物女はちゃぶ台が欲しい。☆挿絵あり
前回までのあらすじ。
ウーロンハイとナスの煮浸しは悪魔的な組み合わせだった。
「うわぁああん! 食べないでください、ごめんなさい、ルールーはおいしくないですのよぅ!!!!」
えー、こんにちは皆さん。クリティアです。
私はいま、ウサギ獣人の女の子に怖がられています。
私も事態がよく飲み込めていない。
領地の山村で製造したマゴノテの売上が絶好調。その売上を村の施設整備に還元したら、村のおじいちゃんたちからお礼をしたいと言われた。
だから、「床に座ってつかえるローテーブルが欲しい」とお願いしていた。
いわゆるお茶の間のちゃぶ台。
こっちに転生してから常々思っていたんだ。
お上品なテーブルと椅子じゃなくて、座布団に座ってちゃぶ台でくつろぎたいと。
そのちゃぶ台が、ついに今日、屋敷に届くことになっていた。
西洋ファンタジーなお屋敷に超絶不釣り合いな和の物体。
荷台のホロを開けてみたらば、緩衝材代わりのワラの中にウサギ獣人の女の子がいた。
目が合うなりこの通り大騒ぎなの。
悪役令嬢だからツラが凶悪でごめんね。
でも私は悪いことしたことないはずなのよ。
顔は母上に似ただけなの。
私の意識が目覚める前のことは知らないけれど、弟と母上のスパルタを見る限り、悪いことしていたとは思えない。
顔だけで怖がられるって人生初めてだわー。
村長も荷台にルールーが隠れているなんて知らなかったようですごく驚いている。
私も転生してから獣人というものを初めて見た。
不思議の国のアリスのシロウサギが喋っている図ってこんな感じなのね、きっと。
小さい頃絵本で読んだ。
小学生低学年くらいの背丈。
灰色の毛並み。
もふもふでかわいい。
さすがファンタジーな世界。魔法があるなら獣人がいるのもふしぎじゃない。
「……私はクリティア。あなた、ルールーっていうのね? なぜこの荷に乗っているの?」
「ひっく、ひっく、ううぅ。人間の暮らしを見てみたくて、ちょっとだけ、里をおりたんですの。誰も住んでないおうちがあったから、そこで何日か村の人を見てたんですの。そしたら、聖女様へのミツギモノを運ぶって言ってたから、ひと目お会いしてみたくて……………」
つまり、食神の聖女(みんなが勝手に言ってるだけ)の私に会うために、ちゃぶ台の荷車に忍び込んだと。
「どうします、クリティア様」
村長は困り顔で私の判断をあおいでくる。我が家に害をもたらそうとして乗り込んできたようには見えない。言葉のとおり、人間に興味があって、ここまで来てしまっただけ。
私が処遇を決めていいなら、答えは一つ。
「ねえルールー。里に帰りたい? それとも、もっと人の世界を見たい?」
「っく、えう、クリティアは、ルールーを食べないんですの?」
「人の言葉を話すものを食べようとは思わないわ。人の世界をもっと知りたいと思うなら、うちで働くといいわ。ただし、一度故郷に戻って、ちゃんとご家族の許可を得てからになさい」
ようやく泣きやんで、ルールーは私をじっと見上げる。
「はたらく、ここで?」
「ええ。あなたに合うお仕事を用意するし、寝床もごはんも用意するわ。父上と母上に掛け合ってあげる」
しばらく考え込んで、ルールーははねた。
「決めましたわ。ルールーは、クリティアのお世話になりますの!」
「これ、お嬢様を呼び捨てにするなんて、なんと恐れ多い」
村長がたしなめるけれど、私は村長を止める。
「初めて人里におりてきたんだもの。人間社会の階級なんて知るはずもないわ。これから学べばいいじゃない。ルールー。それじゃあいったん、降りなさい。半日荷車に乗ったままならお腹が空いたでしょう? 何か用意するわ」
「よろしいんですの? ルールー、お野菜が好きですの」
あ、獣人でも基礎はウサギなのね。
さすがに母上も、腹ぺこな子に提供するためのご飯を作るなとは言うまい。
ちゃぶ台は私の部屋に運んでもらって、ルールーを私用の調理場に連れて行く。
「作るからそこに座って待っていてね」
鍋でお湯を沸かす。お湯には砂糖で甘みをつけておく。
にんじんを小さめの乱切りにして、煮込む。
別の鍋ではざく切りしたキャベツを出汁で煮る。
地球のウサギの生体と同じわけじゃないとは思うけれど、下手に油や肉を使わないほうがいいような気がする。
実はウサギより進化していて何でもいけるかもしれないから、今後のために聞いておこう。
とりあえずお腹をすかせているし、できたてを並べる。
「さあ、どうぞ。にんじんの甘煮とキャベツの出汁煮よ」
スプーンとフォークを添えれば、ルールーは目を輝かせてとびつく。
「むぐむぐむぐむぐ。ありがとうですの、おいしいですの! こんなふうに食べるの初めてですの!」
「気に入ってもらえてよかったわ」
「おかわりがほしいですの〜!」
あっという間に平らげた。小さなナリして胃袋大っきいね。
父上と母上、クロムは悩みはしたけれど、あまり交流のなかった種族との架け橋になればと、うちで雇うのを同意してくれた。
ルールーはいったん故郷に帰って、三日後。
晴れて親の許可を得て戻ってきた。
「クリティアさま、よろしくですの! ルールーはがんばりますの!」
「よろしくね、ルールー」
社会勉強も兼ねて、私専属メイドとなったのである。