15 悪役令嬢に転生した干物女は孫の手が欲しい。 ☆挿絵あり
前回までのあらすじ
煮豚ウマーーーですわ!!
「食べ物を作るたびお酒を飲むから太るのです、クリティア。しばらく料理は禁止です!」
「そんな、ははうえええええええ!!!! おにぎりは私の体でビールは私の血なんです、私からビールをとりあげないでえええぇ!!!」
血涙レベルで懇願するけれど、母上は聞いてくれない。
「ビールが血なわけありません! その手に握るビールジョッキを水に変えてダイエットなさい!」
「ぐすん……」
そんなわけで、ビール腹になったことにより、料理禁止令が出されてしまいましたわ。
ダンスレッスンと言う名のダイエットでしごかれていたら、飽きれ顔のクロムがやってきた。
「聞きましたよ。落ち込んでいますね」
「クロム。ビールをちょうだい」
「母上に、「クリティアを甘やかしてはなりません」と言われたので無理です。水で我慢してください」
「ぐふ!」
どこの世界でも母は一家で一番強いらしい。次期領主のクロムも母に頭が上がらない。
「領地の視察に行くので、姉上も同行してください。現状把握は領主一族の勤めです」
「そうね。ここにいたらビールのことばかり考えてしまうわ。仕事しましょ」
「そんな、失恋した人みたいなことを」
「まさに最愛のビールを失っているわ」
男よりビールがほしい。
礼服に身を包むクロム。私はよそ行き用のいい布で作ったジャージ装備で馬車に乗った。
屋敷から西に行くこと半日。
フローレンス領の農村についた。
フローレンス領は林業と畑作が主な産業。
大きな鉱山を持つ公爵や候爵に比べたら半分以下の収入だ。
農村には農村のいいところがあるから、一概に公爵領がいいとは限らない、と思う。
村長は、「仕事を探して若い者が街に行ってしまうから、村に残るのは高齢者と女子供ばかり、廃れる一方です」と嘆いている。
異世界でも田舎の過疎化は深刻ね。
鳥や犬、猫の形の木彫り人形を売っているけれど、木彫り人形は他の領地でも作っている。
もっと他との違いを出したい。
「そうね、ではこのあたりの木々を活かした新しい商品を開発しましょう。街でこのあたりの木彫り細工は人気だから、新商品を作るの」
「姉上、そんな簡単に言いますけれど……」
「これでも、市場で買い出しするときに一通り見ているのよ。目新しい、かつ生活の役に立つものだと顧客の目を引くと思うの。こういうのを作りましょう」
この世界にない、きっと人気になりそうな日本によくある木彫りアイテム。
紙に書き起こして、さっそく木彫り職人のおじいさんに再現してもらう。
「さすが我が領地の誇る職人! 私の理想通りの仕上がりよ! マゴノテステッキ!」
出来上がった代物は、肩たたき付き孫の手だ。持ち手のところにゴルフボールサイズの玉をつくっているから、肩たたきもできるスグレモノ。
「…………ま、マゴノテ? 姉上。なんていうか、その、奇抜なデザインの杖ですね。ジャージと妙に相性が良いというか。木製だと退魔属性は付与されそうですが、なぜこのような形に」
「背中の痒いところに、この手が届くの。このボールで肩を叩くと程よくほぐれるの」
「そんな得意げな顔で言われても」
困惑気味のクロムに反して、クリエイターのおじいさんおばあさんたちには好評だ。
「あれまぁ。これなら手が届かないところが凝っていてもほぐれていいねぇ。身近な余っている木材でこういうのを作るのも悪くないねぇ」
「そうでしょそうでしょ。これをフローレンス領の特産品にしましょう」
「ださ…………コホン。姉上。もうすこしデザイン、なんとかならないんですか」
「そうね、じゃあこの玉の部分をおにぎり型にしましょう」
「ウワァ、より一層ダサくなっていく……」
弟には不評だけど、職人のおじいさんたちが喜んでるからオーケー!
見本用に作ってもらったおにぎり玉つき孫の手を持ち帰ると、屋敷に客が来ていた。
ロブソンに似た顔立ちのハイティーンだ。
黒髪緑目ベビーフェイス。
客間で、まるで主のような顔をして優雅に紅茶を飲んでいる。
「やあ、君がクリティアだね。ボクはダニー・リフジンスキー。君の元婚約者、ロブソン・リフジンスキーの従弟さ」
「はぁ。ロブソンさんの従弟がなんの用でしょう」
私とロブソンは婚約解消しているから赤の他人。つまり私とこの人も赤の他人、なのだが。
「叔父貴がロブソンに家督を譲るのを止めると言ってね。ボクが後継者に決まった」
「あのダメっぷりならそうでしょうね。それで、なんで貴方がここに来たのですか」
もう取り繕うこともしないで毒が出る。
使用人達も散々迷惑を被ったから、静かに頷いている。
「ボクがリフジンスキー家を継ぐから、三番目の妻にならないか! 本妻と第二婦人に話を通しておくからさ」
「帰れ花畑2号!!」
持っていた孫の手をドタマ目掛けてフルスイングした。
クリティアはジャージを装備した。
防御力が1上がった。
かっこよさが100下がった。
クリティアは孫の手を装備した。
攻撃力が1上がった。
かっこよさが50下がった。