14 悪役令嬢に転生した干物女は煮豚を食べたい。 ☆挿絵あり
前回までのあらすじ。
やっぱ焼き鳥はウメェですわ!!!!
この世界に転生したと気づいてから、はや半年が経った。
私はツマミ……こほん。WASHOKU作りに勤しんでいる。
レシピ本の売り上げが好調で、第二弾を求める声が上がっているから、このビッグウェーブに乗るっきゃない。
ジャージもマージンが入ってくるから、そのお金で自分専用料理小屋を建てた。料理をするためだけに作られたここは、食材保存庫と調理台、石窯がある。
調理器具も一式揃えて、あと和食に近づけるためにちょこちょこ市場に行って舶来品の調味料を探している。
焼き鳥屋をして顔馴染みになった農夫、ノーカーさんの露店に立ち寄る。ちょび髭がトレードマーク。フライドチキン屋のマスコットみたいな容姿をしている。ノーカさんが、麻袋たっぷりにつまった茶色い豆を見せてくれる。
「よう、クリちゃん。今日は出店じゃなくて客なんだな」
「ええ。酒のツマミになるものを作りたくて。豆はここにあるので全部?」
「この中豆なんてイチオシだよ。柔らかく煮てスープにすると美味いぞ」
「じゃあ中豆もください」
醤油そのものでなくていいから、それに近い風味のものが欲しい。ないなら作ろう。豆で。
パンやワインがあるんだから、醤油に使える酵母も存在する気がする。
とりあえず戦利品を後回しにして、今日のところは肉でツマミを作ろう。
調理場の面々も手伝いに来てくれた。
「今日は煮豚を作ろうと思う」
「煮豚。かたまり肉を使うんですね」
デールはメモに余念がない。
豚ロースのかたまり肉、豚バラのかたまり肉。目算400グラムずつ。
フォークで全体に穴を開けて、太めの木綿糸で縛りあげる。凧糸なんてないから、専用に作ってもらった。塩をまんべんなくまぶす。
横で見ていたクックが震えだした。
「ちょ、お嬢様。なんで肉を滅多刺しして縛るんですかーー!? 傷口に塩まで」
「型崩れしないようによ。あと肉汁を閉じ込めるため」
「あ、ああ、よかった。そういうことでしたか。てっきり新しい趣味かと……」
悪役令嬢、SM嬢疑惑浮上。
そんな趣味はない。
「何言っているんだよクック。ローストビーフだって味が染みるように刺すだろう。覚えておけよ」
「はぁい、デールさん」
まだ見習いひよこのカラが取れないから、デールに小突かれている。がんばれ若人。
フライパンでじっくり表面を焼いていく。
狐色の焦げ目がついたらトングで転がして側面と裏面も同じように焼いていく。
鍋に市場で買ってきた香味野菜たちを刻んでいれる。
ニンニク、ショウガ。日本でよく見るネギは流石になかったから、香りがネギに似ている香草を入れる。水と白ワインを注いで沸かし、焼いたかたまり肉を投入!
じっくり時間をかけて弱火で煮込んでいく。
いい匂いがしてきて、横で見守っていたデールのお腹がなった。
「ローストビーフとはまた違う調理で勉強になりますなあ」
「私もデールの料理は見ていて勉強になるわ。すごく手際がいいもの」
「祖父の代からフローレンスの料理人として仕えておりますゆえ。祖父から包丁さばきやら火加減やらみっちり叩き込まれました。厳しかったけれど、だからこそ今のわたくしめがおります」
「いいわね、そういうの」
子供の頃に料理の基礎を教えてくれたのは、おばあちゃん。元気にしているかな、ヒロエばあちゃん。
できるなら、ばあちゃんの打ったうどんを食べたいわ。
鍋を火からおろし、肉を料理用の紙で包んで、粗熱が取れてから魔法冷蔵庫で冷ます。
「まだ完成じゃないんですかぁ。早く食べたいです」
「クック、お嬢様に失礼よ」
ご飯ができるのを待ちきれない子供みたいなことを言い出したクック。嫁にたしなめられて、しょぼくれた。
肉を冷やしている間に、肉を転がしていたフライパンに煮汁をお玉で注ぐ。
砂糖と塩、ニンニクを入れて煮立たせたら煮豚用のタレが出来上がり。
糸をとって切り分けた煮豚にタレをかけて、いただきます!
「うーーん、美味しい!! さすが私! 肉の旨みが、肉汁がタレに滲み出ているからコクがあるわあ。ビールビール! ビール飲まなきゃ!」
「ああーーーー、僕たちにも試食させてくださいよ!」
「わ、わたしも!」
みんなで試食タイム。白米も進むわあ!
多めに作ったけれど残らなそうね。ワイワイ食べていたら、母上がやってきた。
ジーーーっと上から下まで私を見ている。
「どうしたんです、母上。母上も試食します?」
「ねえクリティア。こう言ってはなんだけど……その、あなた最近体型が……鍋みたいになってきたんじゃないかしら」
「!?」
試食のたびに飲んでいたから、私の腹は見事に成長し、ビールっ腹に近づいていたのである。
ダイエットをしなさいと言われて、やけ酒するしかなかった。