俺には、幼馴染みさえ居てくれればいい
データを意図的に消して、再び復旧しました。
違和感があった。
それは高校一年生の冬。
いつも通り幼馴染みと登校して、いつも通り教室に入り、席につく。
ただそれだけのことなのに、俺は何処と無く違和感を覚えていた。
視線。
そう視線だ。
廊下を歩いている時も、教室の扉を開けた時も、俺は自分に向く多数の視線を感じていた。
そんな視線を多少気にしながらも、自意識過剰だと思い自分の席につく。
だがしかし視線は時が経っても消え去ることはなかった。
周りを見渡す。
するとクラスメートたちはこちらを見ながらも、俺と目が合いそうになると露骨に目をそらした。
その瞬間、俺は違和感が正しいものだと気付く。
それと同時に視線の原因を思考するが、俺に思い当たる節はなかった。
『....一年三組の今村祐輔くん、一年三組の今村祐輔くん、至急職員室にお越しください』
俺が思考をしていると、スピーカーから放送が流れる。
今村祐輔、俺の名前だ。
こうして生徒が名指しで職員室に呼ばれることはまず無い。
呼ばれるのは、校内もしくは校外で生徒が問題を起こし、それが発覚した時だ。
俺はその放送にひどく動揺した。
冷たい汗が大量に全身から吹き出してくる。
息が詰まる感覚がする。
視界がひどく揺れるなか、俺は立ち上がり、とりあえず職員室に向かった。
◇
職員室で俺を待っていたのは、担任の倉田先生と生徒指導の森宗先生、そして見知らぬ同学年の女子生徒だった。
女子生徒は俺を少しちらりと見ると怯えるように、またばつが悪そうに目をそらした。
「....来たな今村、では森宗先生、水瀬、移動しましょう。今村も着いてきてくれ」
俺の姿を確認すると、倉田先生は他二人と俺に声をかけ、廊下に向かう。
俺は訳がわからず、先行く三人の後を追った。
◇
「ここは....校長室?」
歩くこと数十秒。
着いた場所は校長室だった。
「失礼します、倉田です。校長、該当二名をつれて参りました」
『どうぞ、入ってくれ』
倉田先生が校長室のドアをノックし、声をかけると中から声がする。
倉田先生は静かにドアを開け、校長室に入っていく。
俺たちはそのあとに続いて入室した。
明かりがついてなく薄暗い廊下から、温もりを持つ明るい校長室に変わる。
校長室はドアから一番奥に校長机、そしてその手前に長い卓子が置いてあり、卓子の長辺両方に座り心地の良さそうな革製ソファーが置いてある造りになっていた。
「よし、全員いるな。倉田先生、水瀬さん、こちらのソファーに。今村くんは反対側に座ってくれ。森宗先生はすまないが扉の前にいてくれないか」
校長は俺たちを迎えるとそれぞれ指示をだした。
指示通りに俺はソファーに座る。
そしてその対面には見知らぬ女子生徒、水瀬を挟むようにして校長、倉田先生が座り、校長室の扉の前にはまるで誰も通さないというように森宗先生が佇んだ。
その配置はまるで....罪を犯したものを自白させ断罪するかのようだった。
「さて、朝早いなか呼び出してすまないね今村くん。こうして来てもらったのも、勿論理由あってのことだ」
ソファーに座ると同時に校長は俺に話しかけてくる。
俺は激しく鼓動する心臓の音を感じていた。
「理由、君には心当たりがあると思うが....いや、能書きはやめよう。結論から言うと───────」
俺の鼓動はさらに激しくなる。
喉も乾いてきつい。
「─────────君に、強姦未遂の疑いがかかっている」
........は?
一瞬にして頭が真っ白になり、思考のスピードが極端に落ちる。
強姦....未遂?........俺が?何で?....誰に?....
「昨日の出来事だ。君は放課後、十七時あたりにここにいる水瀬さんを人気の無い図書準備室に呼び出し、片手で水瀬さんの両腕をつかみ壁に押さえつけ、胸の二回触った。このような出来事があったと聞いている」
頭が回らない途中も校長は言葉を続ける。
その言葉に俺は吐き気が込み上げてきた。
だがしかしその吐き気のお陰で意識が正常に稼働する。
とりあえず反論しなくては───────
「──────ま、待ってください!俺が強姦!?そんなこと知りません!!」
俺は目一杯、声を張る。
「落ち着かなさい今村くん。....水瀬さん、それであってるね?」
叫ぶ俺を校長が静止する。
俺は口を紡ぐしかなかった。
校長の問いかけに、軽くうなずく水瀬。
そして震える指をこちらに向けると、同様に震える声で話した。
「そ、そうです....わ、私はこの人に....お、おか、犯されそうになりました....幸い人が近くに来て無事だったのですが........と、とっても怖かったです....」
俯きながら、大粒の涙を流し、水瀬は声を発する。
俺はその言葉に怒り心頭になった。
「何を言っているんだこの女は!?嘘をつくんじゃない!!」
俺は目の前にあるテーブルを強く叩きながら叫ぶ。
そんな事実どこにもない。
俺は昨日、いつも通り幼なじみと一緒に帰ろうとして用事があると断られ、一人で帰路に着いたのだ。
それにこんな女、顔も知らなければ、名前も知らない。
「俺は強姦なんてしていない!!」
このままでは俺は強姦未遂をした犯罪者だ。
そんなこと許容できない。
だがしかし、そんな俺の訴えもあっさりと崩れ去った。
「....ではそれを証明する方法は?言っておくが昨日の放課後、水瀬さんの悲鳴を聞いたと言う生徒もいるし、実際に泣いている彼女を保護したと言う生徒もいる。君はこれらの証言をどう退けるつもりかね?」
「─────」
俺は校長の言葉に絶句した。
そして再び頭が真っ白になる。
悲鳴?保護?....俺はとにかく強姦なんてしていない....してないのに....
「....黙りか。それは強姦未遂を肯定したと見るが、それでいいのかね?」
「今村、正直に話してくれ。まだ未遂だ。俺たちも大事にはしたくない。話してくれれば警察は呼ばず学校内だけで終わらせる」
校長に続き、倉田先生も俺を諭してくる。
何なんだ本当に、何なんだよっ....!
「........」
「黙りか....呆れた。倉田先生の気持ちも蔑ろにするなんて....もういい、警察に連絡だ。今村祐輔を警察につきだす」
ソファーの革を掴んで震えることしかできない俺を、校長はため息を吐くと軽蔑するかのようにこちらを見て、宣言した。
すると───────
「─────待ってください!」
突如水瀬が声をあげた。
「....?....どうしたんだい水瀬さん?何か決定に不満があるのかね?」
校長が首をかしげながら、水瀬に問う。
すると水瀬は変わらぬ震える声で話した。
「け、警察につきだすのは....な、無しで....退学も止めてあげてください....」
「ん?どういうことかい?君は今村祐輔を許すと?未遂とはいえ犯罪者だぞ?君も心に傷を負ったはずだ」
水瀬の突然の発言に戸惑いを隠せない校長。
俺も彼女がなにを言いたいのかが分からなかった。
「....その....あのですね....か、彼にも家族がいるんですよね....その家族はなにも悪くない....悪いのは彼自身であって....で、ですからその悪くない家族にまで迷惑をかける必要は無い....と思うんです....」
水瀬の言葉にその場にいた全員が目を見開く。
俺はそれと同時に怒りが再燃した。
嘘をついているのはお前の方だと言うのに!!この女は聖人ぶりやがって!!
怒りが感情の全てを飲み込み、今すぐこの女を殺したくなるが歯を食い縛り耐える。
ここでこの女を殺したら、それでこそ俺は犯罪者になってしまう。
「....そうか....当人がそう言うなら、私たちはその意思に従おう」
校長は納得がいかないといった表情をしながらも、水瀬の意思を尊重した。
「では誠に遺憾だが、今村祐輔を三ヶ月間の停学処分とする。せいぜい、次に登校したときに生き恥を晒せ」
そう校長が言った後、追い出されるように校長室から俺は退室した。
それから先はよく覚えていない。
早退させられたのか気付いたら家にいて、口の中が吐瀉物の味がしていた。
◇
それから約八ヶ月後....
俺は学校でいじめを受けてた。
始まったのは恐らく停学中。
家のポストに俺宛の怪文書がいくつも投函されていた。
そしてクラスでの連絡ツールからも疎外され、SNSのDMでも脅迫じみた内容が送られるようになった。
停学が終わってからもいじめは続く。
最初は無視される程度、遠巻きからこそこそと悪口を言う程度だったが、次第に悪化。
ものを隠す、恐喝にあう、それは日常になっていった。
終いには顔を撮られ、個人情報をネットに拡散される等のことも起きた。
それらに対する先生の対応も粗野なもの。
まるでそれが贖罪であるかのように俺の日常は壊れていった。
もう死にたいと思うことも何度もあった。
だが、それでも俺は学校に通っている。
彼女がいたからだ。
「ゆーくん♪」
俺が高校二年生になり、いつも通りの朝。
欠伸を噛み殺しながら登校していると、背中にいきなり抱きついてくる者がいた。
背中に柔らかいものを感じる。
俺はその感触を意識しないように努めながら後ろを振り返った。
「おはよ、咲弥」
挨拶をすると背中の柔らかさが離れる。
振り返った先には、華やかな笑顔をした美少女がいた。
「おっはよ、ゆーくん♪いい天気だね!」
彼女の名前は、小倉咲弥。
肩まである綺麗な髪、整った鼻梁、が特徴的な美少女で、文武両道、公明正大という言葉が似合う完璧超人でもある。
そして俺の幼なじみだ。
彼女が幼なじみであることは俺の数少ない自慢だ。
彼女の笑顔を見るだけで今日も頑張って行ける気がする。
彼女は俺の心の支えなのだ。
俺が停学中だった頃。
俺は、無実の罪を着せられ、この世のすべてがどうでもよくなっていた。
部屋に引きこもり出てこない俺。
家族すらも腫れ物を扱うように接するなか、彼女は無理矢理俺の部屋のドアをこじ開けて入ってきた。
『いいの?ゆーくん....負けたままでいいの?このまま全部諦めていいの?』
突然投げ掛けられる言葉。
その時自暴自棄だった俺は、彼女のその言葉に怒りを覚え、彼女に散々当たり散らした。
『うん....信じるよ。いや、信じていたよ最初から....だってゆーくんは私のヒーローだもの....ゆーくんはそんなことする人じゃない。私だけはゆーくんの味方だよ』
互いに口論、もとい売り言葉に買い言葉の末、彼女が俺を抱きながら言ってくれた言葉。
一言一句覚えている。
あの日から俺は彼女さえいてくれれば、なんだってできるような気がした。
「じゃあ学校にいこっか」
軽くスキップをしながら、俺の先を歩く咲弥。
俺はその背中を微笑みながら眺めた。
「あ、そだ....」
すると突然、咲弥は何か思い出したかのように立ち止まると俺の横に並んで歩きだした。
「ん、どうした?」
疑問に思い問いかける。
すると咲弥はこちらをチラチラと伺いながら、いじらしく問いかけてきた。
「ね、ねぇゆーくん、今日の放課後予定ある?」
少々緊張も孕む声で、問いかけてくる咲弥。
これはまさか....
「放課後?今日はなにもないが....」
俺がそういった瞬間、咲弥は花が咲いたような笑みを浮かべた。
「じゃあさ、じゃあさ!デートしようよ!」
やっぱりか!
俺は内心ガッツポーズをする。
咲弥とデート、これは俺の人生における一大イベントのひとつだ。
大好きな咲弥からのデートのお誘い。
断る理由がない。
「デートか、いいな!」
俺の肯定の声に咲弥はより一層笑みを濃くする。
満開だ....咲き誇ってやがる....
「やったぁ!じゃあ約束ね!」
跳び跳ねながら喜ぶ咲弥、その姿を見れるだけでもデートを計画する価値はあると思う。
「よぉしっ!じゃあデートのためぇ、今日をさっさと終わらせようっ!エイエイオー!」
咲弥は元気よく空に拳を掲げる。
「いや時間は変わらないから、さっさと終わらせることはできないだろ」
「気持ちの問題ですぅ」
そうして軽口を叩きながら、俺たちは学校に向かった。
◇
そして放課後、俺たちは街に繰り出していた。
相変わらず学校生活は糞だが、放課後にデートあると思うとあっという間に時間が過ぎていった。
まずは家族にデートする事を一報入れ、街をめぐる。
そして咲弥と共にカラオケボックスに入った。
「lalala♪君と二人きり~♪」
「あはは!ゆーくん相変わらず歌下手いねぇ」
「うっせ」
そのあとはゲームセンターへ。
「ゆーくん、あとちょっともう少し奥!」
「こうか?」
「そう!そのまま掴んで....やった!リッチクマのぬいぐるみゲット!」
「....毎回思うが、それのどこが可愛いんだ?」
今日という放課後を、俺たちはこれでもかと言うくらい遊び尽くした。
「あぁ楽しかった!今日は楽しかったねぇ」
「本当に....最高な一日だったな」
そして帰路。
空が紫紺に染まり、太陽が山際に沈むその頃。
俺たちは住宅地を歩いていた。
「........」
「........」
電灯の明かりと住宅の窓から漏れる明かりが道を照らす。
自分達の足音と、どこからか聞こえるテレビの音だけが響いていた。
思いっきり遊んだあとの余韻。
それが全身に染み渡り、なんとも心地よかった。
二人でいれば無言でもずっといれる気がした。
すると、ふと咲弥が足を止める。
俺は数歩歩いた先で止まり、振り返った。
「....どうしたんだ?」
首をかしげ、問いかける。
咲弥は俯いていて、上手く表情を伺えなかった。
UFOキャッチャーで取ったクマのぬいぐるみの耳が風で少し揺れる。
咲弥は静かに語りだした。
「ねぇゆーくん....今日、楽しかったね」
「........うん」
咲弥の穏やかな声が鼓膜を揺らす。
「ゆーくんといっぱい遊んで、嫌なことも全部忘れて、二人っきりで楽しんで....」
咲弥の言葉にそっと耳を傾ける。
「ねぇ覚えてる?初めて会った日のこと....」
咲弥とは初めて会った日....
小学二年生のとき、俺の家の隣に住んでいる老夫婦の家に咲弥が引っ越して来たときだ。
「あの時事故で両親を亡くして、自暴自棄になっていた私をゆーくんは無理矢理にでも外に連れ出して、一緒に遊ぼうって言ってくれたでしょ?」
嗚呼、今でも聡明に思い出せる。
新しい子が隣にくると聞き、遠巻きからその子を眺めに行ったとき、酷く絶望しているように見えたのだ。
子供の直感のようなものだろうか....とにかく何とかしなければと思い、遊びに誘った。
それが咲弥との出会いだ。
「はじめの頃は、なんだこの子ウザいなーって思ってたけど、ゆーくんの笑顔に元気付けられていって、いつの間にか好きになっていた....」
「....咲弥」
咲弥の泣きそうな声色に思わず、咲弥に手を伸ばす。
すると咲弥は俺の手を自分の両手で包み込んだ。
思わず顔をあげる。
「ねぇゆーくん....好きです。大好きです──────」
突如の出来事に俺の瞳は揺れる。
咲弥は俺の手をより強く握った。
「─────貴方の笑顔が好きです。それに支えられ、元気をもらいました」
咲弥が顔をあげる。
「だから貴方を私が支えます。貴方と支えあって生きていきたいです」
その表情は、祈るような泣きそうなそんな複雑な顔だった。
「貴方の隣は私がいい。私の隣は貴方がいい。私だけを愛してくれませんか?」
咲弥からの愛の告白。
俺はそれに一瞬脳がフリーズするも、次の瞬間には多福感に溢れ、気づくと咲弥を抱き締めていた。
「あぁ....あぁ!勿論だとも、俺だけの咲弥。俺の唯一の好きな人、大好きな人....」
俺だけの咲弥。
俺の唯一の味方。
咲弥以外にはなにもいらない。
ただ咲弥さえいればいい。
邪魔するやつがいたら、絶対に許さない。
◇
咲弥Side
ゆーくんが強く私を抱き締めてくれる。
私は今、幸せの絶頂にいた。
勿論、この幸せはこれからもずっと続くのだが....
しかしここまで長かった。
ゆーくんと私が結ばれる未来。
そこまでこじつけるのに、どれだけ苦労したことか....
ゆーくんはモテる。
いや、モテていたという方が適切か....
とにかく、ゆーくんは顔がいい。
好きな人だから....とか抜きにしてもかっこいいと思う。
そしてそんなゆーくんには、昔から顔しか見ないですり寄ってくる蝿が多かった。
私はそんな蝿どもに常日頃から嫌気が指していて、定期的に排除はしていたが、蝿どもはウジャウジャと直ぐに湧いてくる。
どうにかして根絶やしに出来ないかと考えたとき、その方法を思い付いたのは高校一年生の秋だった。
それは単純に『ゆーくんの評判を落とす』というものだった。
評判さえ落ちてしまえば、ゆーくんに近づく蝿もいなくなる。
私は直ぐに行動に移した。
まずは、今の時点でゆーくんが好きな蝿どもをそれぞれ脅し服従させる。
すると結構な人数が集まった。
そしてその内の一人にはゆーくんに犯されそうになった嘘をつかせる。
まぁ設定とはいえ、ゆーくんが蝿と関係を持つなんて吐き気がするが....
そして他の蝿には、その出来事を事実と認識させるために証言。
また噂の拡散をさせた。
そしてそれを信じた馬鹿どもは、ゆーくんを攻め、迫害し始める。
自暴自棄になるゆーくん。
そしてそこに颯爽とゆーくんを慰め、寄り添う私。
ゆーくんに味方は私しかいないと思わせる。
そしてゆーくんからの私への愛を暖めたところで告白。
私とゆーくんは晴れて結ばれる。
いやしかし見事に上手くいってしまった。
あぁゆーくんの匂い、体温、すごくいい。
これからずっと私のものだ。
誰にも渡さない。
嗚呼、ゆーくん。大好き。大好き。だぁい好き。
邪魔するやつがいたら、絶対に許さない。
主人公は依存型。
幼なじみは排除型。
共依存のタグつけるの忘れてました(意図的)
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