表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

屋根裏令嬢と呪いの辺境伯

作者: こだれ

 『屋根裏令嬢。これは仮初めの婚約だ』

 『そのお言葉覆して見せますわ。呪いの辺境伯様』



 夕暮れの建物。とある一室に二人だけの世界。貴族を示す言葉が出るが、周りに御付きの者は居ない。



 『君の為でもあるのだ。俺の呪いは、周囲を不幸にする。いつでも婚約は取り止めて構わない』

 『辺境伯様はお優しいのね。でも、帰っても私を迎えるのは、屋根裏を共にしたネズミ位なの。だから戻る訳にはいかないわ』


 『俺と居ると君まで醜聞を被りかねない。近づかないでくれ』

 『噂好きにどうこう言われ様が、屋根裏令嬢に下がる評判も無くってよ』



 二人は微動だにしない。視線はたまに外すが、言葉を発する時は、相手を射貫くかの様に見つめる。声色は熱を帯び、部屋に強く響く。



 『この呪いは俺に関わる人の心を蝕む』

 『あら、私はそんな根性無しではないわ』


 『呪いで夜にしか動けないのだ』

 『良かった。私、夜型なの』


 『落ち着ける時は魔獣討伐の瞬間だけ。血塗られた人生だ』

 『魔獣に襲われる心配が無くて安心したわ』


 『何故そこまで俺に構うのだ』

 『貴方をお慕いしているから……ですわ』



 少し驚きながらも、やれやれと言った体で溜息を一つ付いた辺境伯は、手慣れた様子で部屋に明かりを灯す。熱が冷めて来た紅茶を一口飲み、見上げた天井を諭す様に言葉が零れる。




 『……見てくれ、呪いで蝕んだこの姿。まるで……魔獣だ』




 令嬢は辺境伯を優しく見つめる。明るくなった部屋では辺境伯の姿が良く見える。ふいに目線を外したかと思うと、俯きながら深く息を吸い、言葉を放つ。




 『私には、呪いの辺境伯の姿は分かりませんわ。私がお慕いしているのは……呪いの辺境伯を作り上げている”貴方自身”ですもの。貴方の事……大好きですよ』




 筋書き通りではない展開に、辺境伯は目線を右往左往した。







 「おーい、お前らもう下校の時間だぞー」


 廊下から現れた演劇部顧問の先生の気の抜けた声が、部室に響く。蛍光灯の下で台本を持つ二人は、やや間を置いて部室を出ていく。会話の無い廊下は長く、静寂が二人の揃わない足音を際立てた。



 二人だけの部員。二人だけの練習。いつもの呪いの辺境伯。いつもじゃない屋根裏令嬢の台詞(アドリブ)



 寒空の下、帰りのバスを待ちながら、男子学生は白く湯気の様な息を大きく吐く。


 バスのライトが見えた時、女子学生の手に不意に暖かさが触れた。

 辺境の様に遠かった、暖かな呪いの手。屋根裏なら届いて、ようやく握り返せた。

お読みいただきありがとうございました。おまえら二人末永く爆発しろという方はいいねやご評価など良ければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あーー寒空の下、青春を感じました。 今日のことだけでなく、いつもの、というくらいですから何度も練習があって、普段のふたりの様子を想像して楽しくなりました! 屋根裏令嬢と辺境伯様の掛け合い、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ