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【君の名前】



「とっ、、とりあえず、これから半年間は身体を整えて、貴方の使命を全うする為の準備とします。手始めに剣術を教えるわ!」



「ハァ、とりあえずか・・・」




「大事な大事〜な”アレ”を差し出したんだ。生物として大事な大事ィ〜な生殖器という器官!だったら余程良い権能を与えられてるんだよなァ!??」




「そうね...きっと!フフ」




オイオイ、返しも適当な上笑ってるじゃねぇか。

そんなに人の不幸が面白いか。

つくづく嫌な女だぜ・・・





先程まで降っていた雪はどこ吹く風。

外は夜更けの割に何故か妙に明るかった。




「なァ、あの光っているのはなんだ?」




「ああ〜、あれは魔石ね」



「この辺りは多いのよ。昔”ルクス・オキュラ”っていう大きなクリスタルが各地に点在して空を覆っていた神話時代の名残りで、木々や大地に岩や水にも溶け込んでいるわ」




「フゥン...」




「だから夜でもあんな風に明るいのよ」




「そっか」



まぁそういうものか...記憶が欠片程でもあれば、驚いたり感動したり出来たかもしれないな。




しかしまァ、こう記憶が無いと一般的にビックリドッキリする様な話も、生物として最も大切な器官がなくなってもすんなり受け入れられてしまう。




いわば理解のできる赤子にモノを教えているのと同じで、まるで底知れないコップに注がれる水の様だ。




しかし、かなり寒い。

さっきまで拳大の雪が降り注いでいたのが手に取るように分かる。




するとノンティは木剣を投げてきた。

あわや落としそうになったが何とか手にして構えた。




「寒いわね流石に」



「”冬”ってやつかな?確か」



「どこまで知ってるの?」




「うーむ、まァ物質に関しては概念として記憶しているのであって、何かエピソードがある訳じゃあないんだ」




「つまり、リンゴがどんなカタチか〜とか、どんな食べ物かってことは知ってるが、その食い方がイマイチよく分からん」




「なにそれ、面倒くさ〜」




それはこっちの台詞だ。




「お前なァ、、勝手に召喚しといてなんだよ」



「・・・貴方の記憶は必ず何処かで眠ってる」



「どーして分かんだよ」



「だって貴方が目覚めてから5時間以上経ってて、今まで見てきたけど、貴方という人間が既に”完成している”んだよ。私の中で」



「いや、マジで意味がわからんぜ?」




「少し不器用でガサツだけど理解力はあって、冷静に物事を考える事が出来る.....」



「これって前世の記憶がある程度残ってないと・・・つまり経験がないとそんな風に振る舞えないハズなんだよね」




彼女の話はご最もだった。

つまり恐怖を消したり、情報過多でも混乱しないのは何処かに記憶が眠ってる証拠って事か。




概念として人間は理性以外に、経験によって負の感情をコントロールするものだと”記憶している”。



まぁそう考えるのが無難で変な矛盾も少ない。

納得するには持ってこいという話だ。




「でも実際思い出せないんだ。まぁ必要とも思わないが」




「解明されてない事も多いし、今後分かってくるわよ!」




「きっとその時も、あたし達の味方をしてね・・・」




彼女は俯きながら力が無さそうに言った。

それはノンティ自身の過去という魔物が、美しいその顔に影を刺したのだろう。




「あーダメダメ」




「?」




「美人ってのは笑ってねーと全部台無しなんだぜ?」




「・・・」




言葉選び、失敗だったかな。




しかし、毎回口上が思考を置き去りにしがちだ。

でもきっともう後には引けないし、引くべきじゃない。





ああ。

きっと、いつか火種になるだろうな・・・










「・・・」





ゴクリ












「構え方がクソ」











・・・ふっ








「あははっ」







思わずこぼしてしまった。







「当たり前だろ、さっき目覚めたばかりなんだから」





「いい?戦う時の基本は脱力から始まるわ」



「切っ先は相手に向けたままでいいけれど、全身は完全に脱力してちょうだい」



嬉しいという気持ちはこの事か。



気持ちを切り替えた彼女の顔や瞳は心做しか、先程より希望に満ち溢れている気がする。




「脱力っつったって、戦うのに脱力してちゃあ力入んねぇだろーよ」




「はァ、これだから素人は...」



小さい声で頭を抱えながら、また俯いた。

・・・おい、全部聞こえてんぞ。




「じゃあなんで戦闘にその”脱力”とやらが必要か教えてくれよ」




「いいわ。まず、強い力を出すには”緊張”が必要なのは確かよ。でも、速い攻撃を繰り出すには”脱力”が必要なの」




「ほぅ」




「糸って分かるでしょ?糸は何もしないとダラっと脱力した状態...でも片方を抑えながら勢いよく張るとピンっと緊張する」




”脱力”....つまり0から攻撃がスタートする。

それによって圧倒的な速度が出るってことか。

そして結果的に”緊張”もするから強い力も担保される。




「フゥン…なるほどな」



「じゃあ早速構えてみて」





脱力ね....「フゥー」




「・・・まァ初めてにしては上出来ね」

「そのうち慣れてくるわ。次は攻撃」





「本気でいいのか?」


「無理しなくてもいいのよ。まだ目覚めたばかりだから軽い運動程度にね」



なめやがって、、、

「OK、泣かせてやるぜ!」




バッ!!




脱力からの緊張。

食らわせてやる。



コイツぁは呑気に木剣を後ろに背負ったまま。

舐めるなよ。走り出してから1.5秒、間合いか!





ドッ





木剣を斜めに振り上げる。





「あれ?」
























何だ?目の前が真っ白だ。

これは・・・












雪・・・?






ドッ――シャアァア!!





嗚呼、不快だ。

首の根元から服の裏側へ侵入してくる白い物体。



かなり冷たい。何より服が濡れて、より冷たく感じる。



「脱力からの攻撃を究めると常人の眼にも映らなくなる」



「これから毎日こういった剣術を教えるわ」



「・・・ごぺっ!マジで何者なんだお前」



「私は最強の魔導戦士ノンティマーリス様よ!」


曇りのない満面の笑みを浮かべながら胸を張っている。最強なんだったら独りで厄災を払ってくれ、頼むから。


しかも、木剣は思ったより地面に深く刺さった。


「OK、もう一度だ」


「かかってきなさい!」



「行くぞ!」









ドッ!







・・・









いつの間にか空が少し明るくなってきていた。





どうもこの身体は疲れってのを知らないらしい。

”本人”からしたらとても迷惑な話だ。




「貴方、、あ!そういえば、名前」


「名前?あぁ、なんだろうな」

大地に寝そべりながら空を見て、色々と考えたが何も浮かばなかった。呼吸をするので精一杯なのだ。




「じゃあ、”アルヴム”ってのはどう?」




「へぇ、適当かい?」




「いーえ!この世界における最初の隣人の事よ」




「なんだそりゃ」




「この世界はね、”ルブラ・カティス”って言う魔法の本に書いてある事が本史として扱われるの」



「それによると原初知的生命体の最初の味方になってくれたのが、神の化身アルヴムだとされてるわ」




「へぇ、その知的生命ってのは人類のことか?」




「まぁその辺は曖昧に書かれているから違うかもしれないし、そうかもしれない」




「アルヴムねぇ、、」

複雑なことはよく分からんが、何にせよ

「まぁアンタにしちゃ、いいセンスだ」




「フフ、有難う!よろしく、アル」




しかし、いくら体力が無尽蔵と言っても、経験的な面ではまだ赤子みたいなものだ。




これから磨いていかねばなるまい。

新たな名前と共に・・・




「よし!次は1本取ってやるぜ」




「望むところよ!!」




2人は再び剣を交える。

半年後は今よりずっとマトモになっているといいが。




アルヴムは不安を紛らわしつつ、未来への期待を込めて剣に全霊を掛けた。





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